カレントアウェアネス
No.151 1992.03.20
CA793
Distributed National Collection
本年6月,オーストラリア図書館情報サービス評議会(Australian Council Library and Information Services,以下ACLIS)は,“Distributed National Collection”と題するパンフレットを作成し,図書館関係者に広く配布した。現在のオーストラリア図書館界におけるキーワードの一つとも言える,この“Distributed National Collection”(以下DNC)について,主にこのパンフレットを中心に概略紹介したい。
DNCとは,ACLISの定義によれば,「一般にアクセス可能なデータベースに記録され,正当な理由を持った利用者に対して直接に,または図書館間文献供給を通じて間接的に供給可能な国内の全てのコレクションの集合。オーストラリア関係資料に関して網羅的であり,それ以外の地域に関してはオーストラリアの現在と将来のニーズに応じて選択的である」というものである。つまり,全国の全ての図書館に所蔵されている資料を“national collection”という一つの集合体としてとらえ,それが全国に分散した形(distributed)で存在するとみるのが,DNCである。このDNCの概念は,1988年に開かれた「オーストラリア図書館サミット」で提唱・決議され,その後オーストラリア国立図書館(以下NLA)において研究が進められ,今回のACLISの声明に至った。DNCの背景としては,折からの不景気による財政難の下で,従来のようにNLAなどが一館で全てを収集・保存するということが難しくなったため,全国にできるだけ責任を分散し,資源(特に財源)の有効利用を図っていくということが,オーストラリアの図書館にとって危急の課題となったということがあげられる。
ACLISによれば,DNCの目的は,要約すると,個々の図書館が互いにその所蔵情報や収集方針を公開しあうことにより,1)収集,2)書誌コントロール,3)保存活動における重複を全体として最小限のものとし,4)資源に対するアクセスと,5)全国的な協力とを容易にするということである。このACLISの声明の作成に関わった一人であるNLAの副館長E.Wainwrightは,“national collection”という概念が,サミット以降出て来た新しいものではなく,オーストラリアに長く存在していたこと,そして見方によれば,DNCはすでに一部実現していることを指摘している。彼の論文によれば,DNCには3つのレベルが存在する。すなわち,1)個々の図書館がそれぞれの利用者の要求に応じて発展させてきたコレクションが,全国的な所蔵情報の共有と,図書館間の資料の相互貸借などによって,ゆるやかに統合されている現在のレベル。2)現在のシステムをより発展させたもの。コンスペクタスにより個々の図書館の蔵書の特色と収集方針が明らかになり,ほぼ完璧な全国書誌データベースによって個々のタイトルの所蔵情報が把握でき,さらに資料に対する直接・間接のアクセスの方法についてのより明確な理解が普及しているレベル。3)レベル2より更に正式に統合されたもので,多くの図書館が全国システムの中で与えられた役割を果たす。そこでは収集活動に関する正式な協定が結ばれ,全国的な役割を果たす図書館には特別の財源が与えられる。
オーストラリアでは,過去多種の全国総合目録が作成されており,近年ではABN(Australian Bibliographic Network)を通じて全国的に所蔵情報が共有されている。また図書館間貸出も国内のほぼ全てのコレクションに対して実施されている状況であり,Wainwrightが言うようにレベル1のDNCは達成されていると見てよいであろう。更にレベル2のDNCへと進むためには,全国書誌データベースの改善とコンスペクタスの全国的実施が必須条件であるとWainwrightは主張している。
コンスペクタスに関しては,NLAとACLISが中心となって,コンスペクタス・データベースの開発が進められており,昨年8月からはNLAにコンスペクタス専門のライブラリアンが採用され,その全国的な啓蒙につとめているが,図書館関係者の間の反応は様々であるようだ。オーストラリア図書館情報協会の会誌に本年初頭,「コンスペクタス−無用の長物」と題する投書が一大学図書館長から寄せられ,その後半年にわたって,主にWainwrightとの間にコンスペクタス有用・無用論が展開されたのが記憶に新しいところである。
DNCの概念そのものに関しても,オーストラリア国内での理解はまだこれからというところである。図書館の利用者である大学関係者の一部から,「NLAが可能な限り全ての資料を網羅的に収集することをやめ,他の図書館と収集を分担していくということは,国立図書館としての責任の放棄だ」というような否定的な反応が出ていることも報告されている。また図書館界における反応について,ある関係者は次のように述べている。「DNCが実際にどのように実施されるかという問題に関して不確実な点が多く感じられるのは,DNCの概念を作りだした者たちが,それがどういうものであるかということを正確に人々に伝達していないことに由来している。DNCの原理そのものに反対する者は誰もいないにもかかわらず,自分たちの図書館にそれが実際どのように適用されるのかという問題に対して,多くの人々がいまだに懐疑的であることを考えるならば,その概念の作り手たちによる正式な提案というものが緊急に要請されていることがわかる。国全体のために各図書館が果たさなければならない役割(national role)と,その個々の利用者のニーズの間に,内在的な緊張関係というものが存在するということが,明確に示されなければならない。」ここに述べられているように,各図書館が個々の利用者にサービスしながら,どれだけ実際にnational roleというものを果たしていけるのか,またどのようにこのnational roleを全国に分配していくのかということを具体的に明らかにすることが,今後の課題と言ってもよいであろう。
このような図書館界からの反応を受けて,ACLISは本年9月,“DNC action plan”を正式に発表し,この2,3年のうちに実行され得る行動(例えば全国の図書館の蔵書収集方針に関する調査など)を明らかにした。この計画の実施に中心的な役割をはたすACLISとNLAの今後の活動が期待されるところである。
中島 薫(なかじまかおる)
Ref: ACLIS. The Distributed National Collection 1991
Wainwright, Eric. The Distributed National Collection: a view from the centre. Aust.Libr.J. 40 (3) 210-221, 1991
Allen, G.G.Conspectus: a white elephant? InCite 12 (1) 11, 1991
Radford, Neil A. Some questions about the Distributed National Collection. 1990. (Unpublished paper)
ACLIS. The Distributed National Collection action plan. ACLIS News 4 (2) 1991