CA681 – 注目されるLCの大量脱酸処理入札 / 宇津芳枝

カレントアウェアネス
No.132 1990.08.20


CA681

注目されるLCの大量脱酸処理入札

紙の中の酸を取り除く方法は,大きくは,本をアルカリ性の溶液に浸す液相法と,アルカリ性の蒸気をしみ込ませる気相法に分かれる。大量の本を取り扱う液相法としては,ウェイトー法(カナダ国立図書館/公文書館が採用),ブックキーパー法,FMC法等がある。FMC法はFMC社の化学製品グループが開発したもので,同グループは,今年5月7日に,ノースカロライナ州ベセマーシティに年間30万冊を処理するデモンストレーションプラントを開設した。年間400万冊の処理ができるよう4基の処理プラントを建設する計画とのことである。処理コストは,運搬費も含め,1冊当り5〜8ドルと見込まれている。操作は3段階から成り,処理時間は合計で3時間以下である。準備段階で,マイクロ波を利用した誘電加熱により,ほぼ2%の水分レベルまで本を乾燥させる。他の方法に比べ,この段階の所要時間が大幅に短縮されているのが特徴である。次に炭化水素とハロカーボンに溶解したマグネシウムブトキシグリコレート(MG-3)で本を処理し,洗浄する。最後に溶液を除去し,真空下で回収し,本を乾燥させる。FMC社では,この方法は,酸を中和し,セルロースを強化し,将来外部からの酸の攻撃から紙を守る緩衝剤を紙に残留させる効果があるとしている。

ところで,フロンが,太陽紫外線から生物を守る成層圏のオゾン層を破壊するため,フロン溶媒の生産・利用規制が非常に厳重になってきた。このことはフロン溶媒を使用する液相法に重大な影響をもたらすと思われる。

気相法の代表的なものは,米国議会図書館(LC)が開発したジエチル亜鉛(DEZ)法である。1988年の米国議会技術評価局報告は,DEZ法は競合する他の方法よりもすぐれていると思われるが,なお,独立した研究機関による比較研究が必要であると述べている。LCは,1976年にDEZ法の特許を取得したが,現在はアクゾ・ケミカルにライセンス供与しており,DEZ法による大量脱酸処理プラントの直営は行わない方針である。さらに,LCでは,2,100万冊の蔵書の主要部分に相当する1,600万冊が劣化の危険にさらされているが,これらの本を救うための保存プログラムの一環として,酸性紙図書の化学処理を外注するための入札を計画している。LCがどの方法を選択するのか,世界の多くの図書館,文書館が注目している。LCは,今年の9月中頃までに入札を行う予定で,化学処理会社に提示する公式要求書を準備中である。この中には,建物および脱酸処理プラントの計画書の提出が含まれるものと思われる。また,コストの基礎計算,効果,安全性その他の要因に関して,計画書を評価する独立の委員会を設置する予定である。いずれにしても,LCの判断は世界の多くの機関,多くのコレクションに対して,多大な影響を与えることになろう。

宇津芳枝

Ref. New York Times 1990. 5. 22
Murray, Toby. FMC dedicates paper preservation demonstration plant. Conservation Administration News (42) 1-2, 1990.
Evaluation strategy: paper perservation systems. FMC Lithium Division 1990. 96p.