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カレントアウェアネス
No.307 2011年3月20日
CA1738
ニュージーランド国立図書館のデジタル文化遺産アーカイブプロジェクト
1. はじめに
デジタル社会の進展により、これまでは紙で出版されていたものが、徐々に電子媒体にシフトしている。また、紙の資料のデジタル化も盛んに行われ、国立国会図書館でも現在、大規模なデジタル化作業が進行中である。
これらのデジタル資料を今後どのように保存し、そして永続的なアクセスをどのように保証するのか、これが大きな問題となっている。そこで、2004年から先駆的な取り組みを行っているニュージーランド国立図書館の「デジタル文化遺産アーカイブプロジェクト」(National Digital Heritage Archive Project;以下、NDHAとする。)を紹介する。
2. プロジェクトの経緯
ニュージーランドでは2003年に国立図書館法(National Library of New Zealand Act)が改正され、国立図書館は紙の資料に加えてデジタル資料の収集・保存・提供を行うこととなり、CDやDVD、ウェブサイト等のデジタル資料も法定納本制度の対象となった(1)。そこで国立図書館はデジタル資料を収集して格納し、永続的に提供する仕組みを構築する必要があった。
国立図書館では、2000年から電子情報の保存について調査を開始していた。上記の法改正に伴い、国立図書館は2004年にNDHAを立ち上げ、デジタル資料をアーカイブして永続的に保存し、提供するシステムの構築及び電子情報保存のマネジメント手法の確立を目的としてプロジェクトを開始した。このプロジェクトには2,400万NZドルの予算がつけられ(2)、システムの構築にはNDHAがEx Libris社及びSun Microsystems社と共同で作業に当たった。また、構築するシステムが「文化遺産の保存」という目的に合致したものに仕上がるよう監視するため、デジタルアーカイブに関する経験・知識を有する海外の機関の職員からなるPeer Review Group(3)を組織した。
まずは2008年にデジタル資料の収集及び提供のシステムの基本機能が完成した(Phase1)。2010年には長期保存のためのマネジメント機能を追加し、すべての機能が完成して運用されている(Phase2)。
3. NDHAで構築した電子情報保存システム
NDHAの電子情報保存システムは国際標準に準拠することを前提として構築されたため、ISOの標準規格であるOpen Archival Information System(OAIS)の参照モデル(CA1489参照)に準拠している。以下では電子情報保存システムの持つ機能を簡単に紹介する(4)。
(1)収集
CDやDVD、デジタル画像等の収集については、システムにデータを登録するために“Web Deposit Tool”が開発され、出版社や個人が自ら出版物を電子的に納本できるようになった。ウェブサイトの収集については、“Web Curator Tool”が英国図書館(British Library)と共同で開発された。集められたウェブサイトから、“INDIGO”というツールを用いてPDF等のファイルを抽出し、それらをシステムに保存することも可能である。また、デジタル資料のヘッダー情報等から自動的にメタデータを抽出する“Metadata Extraction Tool”も開発されている。これらのツールを用いてデジタル資料等は収集される。また、これらのツールはオープンソースとして広く公開されている。
(2)保存
収集されたデジタル資料は、基本的に受け入れた時のフォーマットでシステムに格納される(4)。格納と同時に、アクセス用のファイルが自動的に生成される。
また、格納したコンテンツを永続的に保存するために、システムでは各ファイルのフォーマットの陳腐化を検知し、マイグレーションを行うことができる機能を備えている(6)。
(3)提供
(2)で保存された際に生成されるアクセス用ファイルは、国立図書館の代表的な以下のウェブサイトより利用することができる。
①Papers Past(7)
ニュージーランドで1839年から1945年に発行された新聞61紙の100万ページ以上の画像データ及びテキストデータが閲覧できる。
②Timeframes(8)
国立図書館の所蔵する、ニュージーランドの地理や歴史、日常生活等を描写した資料をデジタル化した、約7万件の画像データを閲覧できる。
③Matapihi(9)
ニュージーランド国内の図書館や美術館、文書館等16の機関が所蔵している、図書や絵画、映像等をデジタル化した約24万件の画像データを横断的に検索し、閲覧できる。
4. 最後に
ニュージーランド政府は2007年にDigital Strategy 2.0(10)を策定し、国としての情報通信技術の枠組みを示している。国立図書館はその中でも中心的な役割を果たすこととなっており、NDHAによりデジタル情報の収集、保存及び提供を行うことで、この枠組みの中で大きく貢献することになるであろう。
関西館電子図書館課:岡本常将(おかもとつねまさ)
(1) “NDHA Programme”. National Library of New Zealand.
http://www.natlib.govt.nz/about-us/current-initiatives/ndha/past-initiatives/ndha-programme, (accessed 2011-01-14).
(2) “Speech to the launch of phase 2 of the National Digital Heritage Archive”. Official Website of the New Zealand Government.
http://www.beehive.govt.nz/speech/speech-launch-phase-2-national-digital-heritage-archive, (accessed 2011-01-14).
(3) 英国図書館、コーネル大学図書館、ゲティ研究機構、フィンランド国立図書館、オランダ王立図書館、中国国家図書館、シンガポール国立図書館、グラスゴー大学、イェール大学の9機関であった。
Sun Microsystems. “Sun Microsystems Case Study: Digital Preservation at the National Library of New Zealand”. National Library of New Zealand. 2008-05-30.
http://www.natlib.govt.nz/downloads/Sun-Case-Study-May-2008.pdf, (accessed 2011-01-14).
(4) McKinney, Peter et al. Digital preservation in capable hands: Taking control of risk assessment at the National Library of New Zealand. Information Standards Quarterly. 2010, 22(2), p. 41-44.
http://ndha-wiki.natlib.govt.nz/ndha/attach/ReadingResources/IP_DeVorsey_McKinney__Risk_Assessment_isqv22no2.pdf, (accessed 2011-01-14).
(5) “Digital Preservation At The National Library”. National Digital Heritage Archive.
http://ndha-wiki.natlib.govt.nz/ndha/pages/DigitalPreservationAtTheNationalLibrary, (accessed 2011-01-14).
(6) Ex Libris社と共同で開発したRosettaを採用している。詳細は下記参照のこと。
“A New Way of Preserving Cultural Heritage and Cumulative Knowledge”. Ex Libris.
http://www.exlibrisgroup.com/category/RosettaOverview, (accessed 2011-01-14).
(7) Papers Past.
http://www.paperspast.natlib.govt.nz/cgi-bin/paperspast, (accessed 2011-01-14).
(8) “Timeframes”. National Library of New Zealand.
http://find.natlib.govt.nz/primo_library/libweb/action/search.do, (accessed 2011-01-14).
(9) Matapihi. http://www.matapihi.org.nz/, (accessed 2011-01-14).
(10) “Digital Strategy 2.0”. Ministry of Economic Development.
http://www.med.govt.nz/templates/StandardSummary____43904.aspx, (accessed 2011-01-14).
岡本常将. ニュージーランド国立図書館のデジタル文化遺産アーカイブプロジェクト. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1738, p. 10-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1738