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カレントアウェアネス
No.294 2007年12月20日
CA1641
全世界のデジタル図書館の統合ポータルを目指して
~韓国国立デジタル図書館の概要~
知力強国のデジタル的基盤の建設
2005年に政策ビジョン「国立中央図書館2010」(1)を策定した韓国国立中央図書館(NLK)(CA1578参照)。そのスローガンである、「知力強国」実現のためのデジタル的基盤として、現在、NLK本館に隣接して国立デジタル図書館(NDL)を建設中である(E457参照)。
韓国には、既に、国内8機関が構築した電子化資料を閲覧できるポータルサイト、国家電子図書館(2)が存在しているが、NDLは、そのようなインターネット上のサービスだけではなく、多用なデジタル資料を収集・整理・保存し、かつ、その情報を用いたサービスを研究・開発・提供するための拠点として計画されたものである(3)。
2006年度、このNDLで行われる事業の運営戦略基本計画が策定され(4)(5)、国民向けのセミナーも催されるなど(6)、NDLが目指しているサービス内容が明らかになってきた。そこで、本稿では、これらの計画やセミナーでの報告資料、NDLのウェブサイトなどから、予定されているいくつかのサービスについて概観していくことにしたい(7)。
自然との調和 ~建物の概観~
まず、建設中の建物について見ておくことにしよう。近隣の公園にある自然との調和がコンセプトとなっているこの建物の総事業費は1,208億ウォン(約140億円)で、2008年12月には、地上3階、地下5階、総面積約38,000㎡からなる建物が完成する予定だ。
建物は、既存のNLK本館からの視界を遮らないように計画されており、利用者用スペースはNLK本館前の広場の真下、地下1階から3階にかけて設けられる。専用通路を通って、NLK本館へと向かうことも可能だ。このほか、地下には施設管理設備、駐車場に加え、1,200万冊収蔵可能な自動集密書庫が設置される。2008年には満架が予想されるNLK本館の書庫不足問題解消のため、非図書資料、パッケージ系電子出版物のほか、電子化済の紙媒体資料が収納されることになるという。
他機関との連携と納本 ~価値ある蔵書の構築~
さて、NDLでは蔵書の構築をサービスの根幹として重視しているという。運営戦略基本計画によると、蔵書は保存の観点からレベル分けされており、後述するNDLポータルで提供される電子情報を「奉仕水準の蔵書」と呼び、活用される可能性や、利用者の要求を鑑みて構築していく方針である。構築の手段としては、資料の製作・収集・納本の3つの方法が考えられている。
資料の製作とは、NLKが所蔵するアナログ資料をデジタル化すること、収集とは電子ジャーナルなどのNLK以外で作成された資料を入手すること、納本はオンラインデジタル資料をNLKに納本させることを意味する。蔵書構築に当たっては、図書館、文書館、研究機関、出版社など、国内のデジタルアーカイブ運営機関との利害関係を調整し、NLK主導のもと国内におけるデジタル蔵書構築における役割分担を明確にしていく予定だという。
このほか、厖大に生み出される地域資料の効率的なアーカイブ実現のため、公共図書館との協力ネットワーク網の構築も目指されており、注目に値する。
デジタル資源構築の役割分担のなかで、NLK自身は、特に、オンライン出版されたデジタル資料収集について国家的役割を果たすことを目指しているようで、既存の紙資料の納本義務を規定した「図書館法」(第20条及び同施行令第13条)とは別に、オンラインデジタル資料の納本を義務化させる「デジタル資料納本及び利用に関する法律」の制定を目指すなど、その役割を果たすための準備を進めていることがうかがえる(8)。
このように構築された蔵書(「奉仕水準の蔵書」)は、利用者に提供された後、利用統計を中心に価値評価がなされ、この中から「保管水準の蔵書」と呼ぶ長期保存される蔵書が選択されることになる。
未来接続可能性の保障 ~蔵書の長期的保存~
「保管水準の蔵書」とされた蔵書は、2005年6月から運用が開始され、既にウェブサイトやウェブ文書が保存、公開されている、OASIS(E457参照)のシステム内に保存される計画となっている。
ただ、現在のシステムは、収集した電子情報をCD-ROMに保存しているため、長期保存には向いておらず(E555参照)、マイグレーションやエミュレーションの運営戦略と保存のための標準フォーマットについて検討することになっているという。
また、デジタル情報の長期保存に必須のメタデータおよび情報流通のためのパッケージについても検討が加えられており、開館後には、NDL内に国立メタデータセンターを設置、メタデータ開発や標準化の、また、普及活動の拠点としての役割を果たしていくという。
統合と開放 ~ポータルサイトの構築~
構築されたNDLの蔵書は、全世界のデジタル図書館の統合ポータルを謳うNDLポータルを通じて提供される予定となっている。
ポータルのテーマである統合と開放を実現するため、検索方式としては、メタデータ統合検索、標準API基盤の分散検索、OpenURL基盤の連携検索などの導入が予定されており、また、各種機関や民間の検索ポータルからの検索や携帯電話など各種デジタル機器からの検索を可能とするための標準化要件についても検討することになっている。また、Library 2.0(CA1624参照)と呼ばれている機能なども取り込むという。
この他、NDLポータルからは、SDIサービス(E368参照)、複写依頼、レファレンス依頼などが可能なほか、登録利用者になると、情報教育サービスを享受し、個人用リポジトリが利用できる計画となっている。
画面のカスタマイズも可能で、主題別、資料別、子ども青少年図書館(E506参照)などの分館別のポータルが予定されているほか、注目されるものとして、地域別公共図書館向けポータルと、障害者、外国人、高齢者などの情報弱者向けポータルが計画されている。前者は、上述した蔵書構築時における公共図書館との協力とともに、地域資料アーカイブ構築の手助けとなることが予想され、後者は、あわせて計画されているアウトリーチサービスとあいまって、既存の視覚障害者用国家電子図書館以上のサービスが提供されることが予想される。
館内サービス ~インフォメーションコモンズ~
一方、館内でもインフォメーションコモンズと呼ばれるサービスが提供される(CA1603参照)。そこでは、ポータルを基盤としたサービスに加え、デジタルクラスター空間、デジタルラーニング空間を実現するため、デジタル映像館、メディアスタジオ、ブックカフェ、グループ学習室などが設けられるとされている。各種デジタル機器も設置され、ネットワークへの接続環境が提供されるほか、ユビキタス社会を体験できるu-ラウンジなどが計画されている。
このほか、NDLでは次の3つの国家的なセンター機能を果たすことも考えられている。
一つ目は、国家情報リテラシーセンターとしての機能である。知力強国実現のための教育プログラムを策定し、国民の情報資源、情報機器活用能力を強化する役割を果たすという。二つ目は、国家情報レファレンスセンター機能である。レファレンス専門司書を配置し、NDLポータルを基盤としたレファレンスサービスを行うことになる。そして最後は、国家情報政策サービスセンターとしての役割である。政府が発表した多用な情報に対する統合検索を可能にし、国民は政府情報に迅速にアクセスできるようになる。
また、NDLポータルと同様、情報弱者へのサービスも考えられており、デジタル機器の貸与や、外国語支援用、高齢者用インタフェースなどが用意される。教育プログラムとしても、情報教育プログラム、韓国の文化を知るための韓国文化教室、生活支援プログラムなどが計画され、ユビキタス社会における情報弱者への情報福祉を実現するための準備を進めている。
おわりに
以上、NDLの運営計画を紹介してきた。計画からは、「図書館法」第18条で国家を代表する図書館として位置付けられているNLKの、国民の情報活用能力を高める強い意志が感じられる。一方、NLKは、国際インターネット保存コンソーシアム(IIPC)への参加を検討するなどウェブアーカイブにおいて世界的な役割を果たすことも考えているようである。
建物完成後は、2部1センター9チーム218名からなる組織として始動することになるという。NDLおよびNLKの動向については今後も引き続き注目していく必要があるだろう(9)。
関西館電子図書館課:武田和也(たけだ かずや)
(1) 국립중앙도서관. 국립중앙도서관2010. 서울, 국립중앙도서관, 2005, 150p.
(2) NLKをはじめ、国会図書館、法院図書館、韓国科学技術情報研究院、韓国教育学術情報院、韓国歌学技術院科学図書館、農村振興庁農業科学図書館、国家知識ポータルの8機関が構築したデジタル資料を検索することができる。国家電子図書館については、曺在順. 韓国国立中央図書館の現状. 情報の科学と技術, 2007, 57(1), p. 9-14. http://ci.nii.ac.jp/naid/110006152407/, (参照 2007-10-18). も参照のこと。
(3) 建設に至るまでの経緯については、李治周. 第6回日韓業務交流における韓国国立中央図書館の報告. 知識基盤社会のための国立デジタル図書館設立(基調報告). アジア情報室通報. 2003, 1(1), (オンライン) http://www.ndl.go.jp/jp/service/kansai/asia/publication/archive/bulletin1_1_3_3.html, (参照 2007-10-18). に詳しい。
(4) 基本計画をもとに運営に必要な人員・予算を算出した詳細計画もまとめられている。計画策定の詳細については、국립중앙도서관. “9.2 국립디지털도서관운영전략수립”. 국립중앙도서관연보. 서울, 국립중앙도서관, 2006, p.151-152. http://www.nl.go.kr/pds/research_data/year_2006/seji_report.html, (参照 2007-10-18) 参照。
(5) 국립디지털도서관운영전략팀. 국립디지털도서관 운영전략기본계획최종보고서. [서울], 국립중앙도서관, 2006, 193p.
(6) 2007年3月29日、NLKの国際会議場にて開催された本セミナーでは、
・최경호. 국립디지털도서관 운영전략 세부계획
・류희경. 국립디지털도서관 포털서비스 구축방안
・박현주. 새로운 디지털 열람황경,인포메이션코먼스
の3報告が行われた。報告時の資料は以下のURLから閲覧することができる。2007년1회열린정책세미나. 2007-03-29. 서울, 국립중앙도서관. 2007. http://www.ndl.go.kr/board/doc/content.asp?column=RNAME&searchString=&IDX=25&GotoPage=1&num=, (参照 2007-10-18).
(7) この他、2007年6月13日から20日にかけて行われたNLKと国立国会図書館の業務交流時の記録も参考にしている。報告および質疑応答の要旨については、第11回韓国国立中央図書館との業務交流‐電子情報の収集・提供・保存. 国立国会図書館月報. 2007, (559), p. 1-5. http://www.ndl.go.jp/jp/publication/geppo/pdf/geppo0710.pdf, (参照 2007-10-26). 参照。報告の全文については、国立国会図書館. 国立国会図書館と韓国国立中央図書館との業務交流概要一覧. 国立国会図書館. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/cooperation_chronological_korea.html, (参照 2007-10-18). から閲覧できる。
(8) コ・ヨンミン. “国立中央図書館の電子情報の収集”. 第11回日韓業務交流. 東京, 京都, 2007-06-13/20, 国立国会図書館, (オンライン) http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/pdf/nlk11_3_ko.pdf, (参照 2007-10-18). も参照のこと。
(9) 近年のNLKの動向については、前掲注(2) 曺論文、および、ヨ・ウィスク. “新しく変化する国立中央図書館”. 第11回日韓業務交流. 東京, 京都, 2007-06-13/20, 国立国会図書館, (オンライン) http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/pdf/nlk11_1_yeo.pdf, (参照 2007-10-18). に詳しい。
Ref:
국립중앙도서관.
http://www.nl.go.kr/, (参照 2007-10-18).
국립디지털도서관.
http://www.ndl.go.kr/, (参照 2007-10-18).
국거전저도서관.
http://www.dilibrary.go.kr/, (参照 2007-10-18).
시각장애인용국가전자도서관.
http://sigak.nl.go.kr/dl/, (参照 2007-10-18).
OASIS.
http://www.oasis.go.kr/, (参照 2007-10-18).
武田和也. 全世界のデジタル図書館の統合ポータルを目指して~韓国国立デジタル図書館の概要~. カレントアウェアネス. (294), 2007, p.3-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1641