CA1595 – 米国の図書館における録音図書サービス〜デジタル技術を活用した録音図書〜 / 井関哲司

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カレントアウェアネス
No.288 2006年6月20日

 

CA1595

 

米国の図書館における録音図書サービス
〜デジタル技術を活用した録音図書〜

 

 

1. はじめに

 録音図書(audiobook,以下オーディオブック)というと,視覚障害者が文字の代わりに音で本を読む(聴く)ために利用しているが,それ以外にも広く利用されている。米国においては,特に通勤時の車の中や運動中に聞かれることが多いようだ。最近では,インターネットからデータをダウンロードして聴くといった新しいオーディオブックも普及してきている。

 そこで今回は,米国におけるオーディオブック事情について簡単に紹介する。

 

2. オーディオブックの種類

 現在,オーディオブックとして以下の媒体が流通している。

  • カセットテープ
  • CD
  • MP3-CD
  • ダウンロード型ファイル

 これまではカセットテープがオーディオブックの主流であったが,CDが作られてからはCDの利用が増えてきている。また,媒体としては同じCDであるが,データを圧縮し,1枚のCDにより多くデータを格納できるMP3フォーマットのCDが普及してきている。さらに,媒体を固定せず,インターネットなどから,手持ちのPCや携帯オーディオ機器にデータをダウンロードする方法も,手軽さや携帯機器の普及などにより増加している。

 図書館サービスにおいても,オーディオブックの提供形式はカセットテープからCDやダウンロード型ファイルへ移行しつつある。特にダウンロード型のファイルは,ウェブからダウンロードできるサービス基盤が整っていれば,図書館に来館せずに,24時間365日貸出が可能となるため,利用者にとって利便性が高い。同時に図書館にとっても,返却期限がくると自動的にファイルが削除されるなどの機能が付いているため延滞と督促が不要,また物理的媒体を貸し出さないため破損の心配がない,といったメリットが大きい。

 図書館によっては,オーディオブックデータを収録したiPod shuffle(Apple社の携帯用オーディオ機器)を貸し出しているところも出てきている。もちろん,来館して機器の受け渡しを行うという手間は必要になるが,このサービスによって,車の中でしかオーディオブックを聞かなかった人々が,車以外でも常に携帯して聞くような新しい利用を始めるきっかけになっているようだ。

 

3. オーディオブック市場の動向と図書館サービス

 オーディオブック市場において,CDが出現したことにより,主流であったカセットテープに完全に取って代わったかというと必ずしもそうではない。米国のオーディオブック読者(本当なら聴者とでも言うべきか)は,通勤時などに車の中で聞くことが多い(60〜70%は車の中で聞いている)。しかし,米国で走っている車の多くがCDプレーヤーを搭載していないため,多くの読者はカセットテープを使用している。こうした状況が変わるまでには,まだ数年はかかると見られている。

 流通においては,印刷媒体に比べてオーディオブックの発売が遅くなるという問題がある。そこで,業界はこの2つの同時発売を目指すようになってきている。多くの会社では,「同時発売」を「1か月以内」と定義している。ただ,オーディオブックの発売は早ければ良いというものでもない。文字を音にしなければならないため,適切な朗読者を選ぶなど,印刷媒体とは違う点で,質を維持するための時間が必要になる。制作会社には,品質を維持しながら,より早く,可能な限り印刷媒体と同時に発売することが望まれる。

 

4. デジタルオーディオブック
4.1. 特長

 カセットテープなどアナログタイプのオーディオブックに対して,CDやMP3などのデジタルオーディオブックが増加しているが,そのメリットはやはり利便性であろう。聞きたい箇所の頭出しをするのに,始めから聞いていくか,適当なところまで早送りする他はないカセットなどと違い,デジタルのオーディオブックは,頭出しや聞きたい箇所の検索が容易である。また,カセットなどは専用の再生機器がなければ聞くことができないが,デジタルの場合は,CDであれば各種CDプレーヤーでもPCでも再生でき,ウェブサイトからダウンロードするようなファイル形式であればiPodなどに代表されるデジタル携帯再生機器やPCでも再生できるし,またCDに焼いてしまえばCDと同様に聞くこともできる。こうした利用方法の多様性はやはりデジタルオーディオブック独自のものであろう。

4.2. 技術的課題

 デジタルオーディオブックにも課題はある。一番は,技術的に未熟なことだろう。まず,標準的なフォーマットが定まっていないために,互換性がない。携帯デジタル機器として人気の高いiPodは,独自のフォーマットを用いているために,Windows形式のファイルを再生することができない。逆も同様である。図書館では,より多種類の機器に対応しているWindowsファイルを採用していることが多い。そのため,iPodユーザは図書館でのオーディオブックを利用できないことになる。これは決定的に利便性を損なう問題であるが,AppleとWindows両陣営の歩み寄りを期待するほかない。他にも,各社がまちまちに製作していることによって,データの圧縮率,つまり音質とファイルサイズの問題なども生じている。

 また,機器のユーザインターフェースなどの使い勝手も解決すべき点が少なくない。再生速度を変えながら聞くことのできる機能は,視覚障害者に評判がよく,一般ユーザにも便利であるが,対応している会社が限られている。一旦停止した際に停止した箇所から再生が始まるか,最初に戻って再生するかといった機能など,使い勝手につながる部分で会社によってまちまちなこともある。ユーザに使いやすいような機能を各社で盛り込んでいくことが望まれている。

4.3. サービス等の課題

 図書館向けの販売方法も会社によって様々である。1タイトルのオーディオブックデータは同時に一人にしか貸し出しを認めない,という利用モデルを採用している会社もあるが,同時利用を無制限にするといったモデルが望まれており,利用の促進にもつながるだろう。

 また,より一層のコンテンツの充実が望まれる。ベストセラーだけでなく,様々な分野の文献がオーディオブックになると,ユーザにとってより便利になっていくだろう。分野だけでなく,使用言語の多様さも重要であろう。最近ではスペイン語の文献がオーディオブックとして発売されているが,これもユーザの裾野を広げることにつながるだろう。

 

5. これからのオーディオブック

 今後オーディオブックがより普及していくためには,前述したような様々な問題の解決が必要である。特にApple社製品とWindows製品の互換性の問題はユーザにとって大きな問題である。業界各社は連携して問題を解決しながら,ユーザの利便性を高めていくことを求められている。

 より新しいコンテンツとして,E456では,デンバー市公共図書館(コロラド州)が米国で初めての,動画のダウンロードサービスを開始したことが報告されている。図書館のウェブサイト経由で動画を自分のPCにダウンロードできるサービスである。図書館でビデオやDVDなどを借りに行くしかなかった利用者にとって非常に便利なものになるだろう。ただし,利用者の自宅等にブロードバンド環境が必要になる。

 米国におけるオーディオブックは,関係者が様々な課題と向き合いながらサービスを模索し,今後も拡大していくものと思われる。

資料提供部利用者サービス企画課:井関哲司(いぜき てつじ)

 

Ref.

Peters,Tom et al. An Overview of DigitalAudiobooks for Libraries. Computers in Libraries. 25(7), 2005, 6-8, 61-64.

Bryant, Eric. Listening to the Trends:Audiobookindustry leaders talk about opportunities andexpectations. Library Journal. 2004-05-15, 6-7.

Norman Oder. Audiobook Survey 2004:Feeling aSqueeze. Library Journal. 2004-11-15. (online),available from < http://www.libraryjournal.com/article/CA479155 >, (accessed 2006-03-28).

Libraries offering audiobook downloads. USATODAY.2005-08-26. (online), available from< http://www.usatoday.com/tech/products/services/2005-08-25-audiobooks-libraries_x.htm >, (accessed 2006-04-18).

Farivar, Cyrus. (米井香織ほか訳) 『iPod shuffle』でオーディオブックを貸し出す図書館. Wired News.2005-03-03. (online), available from < http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20050307202.html >, (accessed 2006-03-28).

 


井関哲司. 米国の図書館における録音図書サービス〜デジタル技術を活用した録音図書〜. カレントアウェアネス. 2006, (288), p.10-12.
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