CA1573 – 図書館長のリーダーシップのあり方を巡る世代間議論 / 安井一徳

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カレントアウェアネス
No.286 2005.12.20

 

CA1573

 

図書館長のリーダーシップのあり方を巡る世代間議論

 

はじめに

 2004年末,American Libraries誌は年間の10大ニュースの1つに「X世代の反論(Gen X Strikes Back)」と題して,米国図書館界における世代問題を取り上げた。2005年も暮れようとしている今日この頃,いささか旧聞に属する話ではあるが,この顛末について簡単に紹介する。

 

議論の発端

 米国ではベビーブーマー(Baby Boomer:1946-1964年生まれ,1943-60年生まれなど諸説)(1)が退職を迎えつつあり,次のX世代(Generation X:1961-81年生まれなど諸説)への知識や技術の伝達が問題となっている。加えて米国図書館界では養成機関の減少,待遇の悪化などが原因となって(CA1414参照),特に若手人材の不足が急速に進んでいる。こうした事態の帰結として,今後図書館のリーダーとなる人材が極端に不足することが予想される。したがって,リーダーシップに関する世代間伝達が喫緊の課題となる。そこでヤング(Arthur Young)らは,大学・専門図書館及び公共図書館の管理職に対してリーダーシップのあり方を問う調査を行ない,一冊の図書にまとめるとともに,その概要を“What Will GEN NEXT Need to Lead?”と題してAmerican Libraries誌に発表した。

 彼らはリーダーシップに関する属性を,経営資質,個人的性格,一般的知識に三分し,それらをさらに計105項目に細分した上で,各項目の重要性を10段階で評価してもらった。大学・専門図書館の管理職に高く評価された属性は,経営資質分野ではサービスへの姿勢や結果への志向性,個人的性格分野では信用性や公正さ,一般的知識分野では学術コミュニケーションへの理解,財務管理の知識などであった。一方あまり評価されなかったのは,経営資質分野では集団活動(group processes)の促進や紛争解決,個人的性格分野ではユーモアセンスや対人能力,一般的知識分野では情報提供のシステムや出版産業といった項目であった。続けて行なわれた対面調査では,ほとんどの人がリーダーシップと経営の区別,並びに前者の相対的重要性を指摘した。

 公共図書館の場合は,経営資質分野における図書館委員会やスタッフとの協働,地域社会や行政に関わる項目がとりわけ重視され,個人的性格分野では誠実さやコミュニケーション能力の評価が高かった。一般的知識分野への評価は総じてやや低調で,その中ではトレンドへの知識や現在の図書館実務が比較的高い項目であった。

 こうしたヤングらの研究成果は,ベビーブーマー世代とおおよそ重なる現在の管理職層には概ね好意的に受け止められたようだ。図書の刊行後,それを絶賛する書評がいくつか書かれている。では「次の世代」たるX世代の図書館員たちも,先達の忠告を素直に聞いたのであろうか。

 

X世代の反撃

 ヤングらの予想とはおそらく異なり,若い世代からの評価は芳しくなかったらしい。4か月後のAmerican Libraries誌上で,X世代のキャスバーン(Steve Casburn)とヤングとの電話会談が掲載されたが,そのタイトルは「X世代の反撃(Gen X Bites Back)」であった。キャスバーンに違和感を抱かせたのは,「現在の優れたリーダーたちが,次世代の未熟なリーダー予備軍に教えを垂れる」というヤングの研究における暗黙の前提である。これに対してヤングはあくまで研究であり何らの立場を取るものではないと弁解しているが,「次世代にはリーダーとして何が必要か」という論題名からもその前提は明白であるように思われる。

 キャスバーンは,リーダーシップは世代ではなく個人の属性であるとして,世代論への安易な還元を回避しているが,やはりベビーブーマー世代への苛立ちを言葉の端々に感じさせている。若い世代の図書館員と管理職との間のコミュニケーション不全の問題や,リーダーが若手にも耳を傾けオープンな組織を作っていく重要性について彼は繰り返し指摘し,最後には特定のベビーブーマー世代の図書館員を指してではあるが,「彼らは(組織の)癌である(they were cancers)」と述べている。一方のヤングは終始押され気味であった。

 

議論の示唆するもの

 以上の議論は大きく分けて世代論とリーダーシップ論の範疇に含まれると思われる。どちらもきちんと語ろうとするときりのない問題であるので(と言い訳して),議論からの示唆を思いつくまま雑記風に記す。

  • 世代論として:日本でも昨今「2007年問題」が喧伝されているが,こちらもコンピュータ分野での技術継承問題が端緒となっている。この流れでは上記のように若い世代への不安が語られがちになるわけだが,一方で上の世代の既得権が若い世代を不利にしているという指摘もある。このような構造的側面での世代対立は当然考えられる。では資質の世代差というのは考えられるのか。キャスバーンの所説ももっともであるが,個々人の性質と特定集団の傾向とは別次元の問題ではないか。リッチー(Karen Ritchie)はマーケティングの資料を援用して,「X世代の考え方と,ベビーブーム世代のマーケット・アドヴァイザーが身につけ,愛してきた人生観とは根本的にかみ合わない部分がある」(2)と述べているが,これも個人レベルではなく,集団レベルの傾向としての指摘であろう。ヤングの前提に意図せざる傲慢さが潜んでいるにしても,それによって研究自体の意味が完全に失せるわけではない。
  • リーダーシップ論として:そもそもは図書館のリーダーに必要な資質についての研究だったわけだが,ともすると例外的な成功例を提示して事足れりとする領域でこのような研究がなされたというのは有意義に思われる。リーダーシップという個人の特性とされがちな能力を,いかに制度的に集団に対して伝達できるのか。ヤングの論文には養成についての事例も多く取り上げられているが,こうした問題意識は今後ますます重要になるだろう。

主題情報部科学技術・経済課:安井 一徳(やすい かずのり)

 

(1) 日本の「団塊の世代」とは若干定義が異なる。
Baby boomer. Wikipedia. < http://en.wikipedia.org/wiki/Baby_boomer >, (accessed 2005-11-14).

(2) カレン・リッチー. (中江昌彦訳) ジェネレーションXマーケティング. 東京, 東急エージェンシー, 1996, 56.

 

Ref.

THE TOP TEN Library Stories of 2004. American Libraries. 35(11), 2004, 26-30.

Hernon, Peter et al. The next library leadership. Libraries Unlimited, 2003, 192p.

Young, Arthur et al. What Will GEN NEXT Need to Lead? American Libraries. 35(5), 2004, 32-35.

Riggs, Donald E. The Next Library Leadership: Attributes of Academic and Public Library Directors. (Book Review) The Journal of Academic Librarianship. 30(3), 2004, 260-261.

Ford, Annie Marie. The Next Library Leadership: Attributes of Academic and Public Library Directors. (Review) Portal:Libraries and the Academy. 4(3), 2004, 438-440.

Gen X Bites Back. American Libraries. 35(8), 2004, 43-45.

 


安井一徳. 図書館長のリーダーシップのあり方を巡る世代間議論. カレントアウェアネス. (286), 2005, 7-8.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/current/no286/CA1573.html