CA1496 – 出版情報システムの基盤整備-日本出版インフラセンターの紹介- / 本間広政

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1496

 

出版情報システムの基盤整備 −日本出版インフラセンターの紹介−

 

1.はじめに

 有限責任中間法人「日本出版インフラセンター(Japan Publishing Organization for Information Infrastructure Development : JPO)」は,平成14年4月12日に「日本出版データセンター(JPDC)」として設立された。設立を支援し,基金を拠出した設立社員は,日本書店商業組合連合会,日本出版取次協会,日本雑誌協会,日本書籍出版協会,日本図書館協会の5団体である。しかし,半年後の平成14年10月25日の理事会において,出版業界の流通改善と読者サービスをより積極的,かつ広範囲に推進する必要から,事業の拡大とそれに伴う機構改革および名称変更を行い,冒頭の名称となった。

 以下に,当センターの当初の設立の目的とねらい,設立までの経過,また改革後の機構と事業,とりわけICタグ研究委員会とICタグ技術協力企業コンソーシアムの活動について紹介する。

 

2.センター設立の目的とねらい<

 目的は出版情報および出版情報システムの基盤整備を図り,出版および関連産業の発展に寄与することにある。そのために,出版情報等の標準フォーマットの作成と普及促進,出版情報の収集と配信,出版情報提供者の情報システム基盤整備の支援,電子データ交換システム基盤整備の支援,その他,当センターの目的を達成するために必要な事項の事業を行う。

 そのねらいは次のとおりである。

  • < 1 >読者サービスの向上
     読者が書店にほしい本を注文すると,3週間後に書店から「品切れです」と返答されることがある。読みたい時がほしい時であるのに,3週間も経過してから「品切れです」と言われたのでは,本からの読者離れが進行しても仕方がない。こうしたことのないように,重版未定(絶版)情報,在庫情報をより正確に反映させ,読者サービスの向上を図る。
  • < 2 >増売の支援
     刊行予定情報を読者に配信したり,発売日前の受注を参考にした配本で返品と機会損失を減少させたりして増売を図る。
  • < 3 >効率化の支援
     出版物の刊行予定情報・重版未定(絶版)情報・定価改定情報をJPOが集中受信し,それを必要とする企業・団体にJPOが配信する枠組みを構築することにより,業界全体の効率化を図る。
  • < 4 >インフラ整備に関する調整力の強化
     世の中で部分最適が必ずしも全体最適にならないことはよくある。既存システムとの利害調整を図りつつ業界の情報システム基盤整備の全体最適化を実現しようとすると,利害関係者のいずれにも偏せず中立的立場を確保することが最低の必要条件となる。その意味でJPOの成り立ちと構造は,その要件を備えている。
  • < 5 >収集データの網羅性・信頼性・迅速性の向上
     出版物の刊行予定情報・重版未定(絶版)情報・定価改定情報の収集率は,現行のどちらの企業・団体の書誌データベースも単独では不完全である。協力し合うことによってのみ高品質な書誌データベースの実現が保障される。

 JPOの設立によって次のような方法で業界内に協調の環境を整えることができる。たとえば,取次の「仕入システム」にJPOの受信情報を流し,仕入窓口において発売日前にJPOに出版情報が届いている社か,いない社かの判断をする。届いていない社に対しては,設立社員団体会長・理事長連名のお願い状を手渡す,という方法である。この仕組みは,確実にデータの網羅性・信頼性・迅速性を向上させると考えられる。

 

3.設立までの経過

 日本書籍出版協会・理事会は,平成13年6月26日に書誌データベース構築事業を日本書籍出版協会単独事業から日本図書館協会も含めた業界5団体による共同事業とする旨の「書協の経営に関する答申書」を承認し,同年9月25日の理事会において,他の業界4団体に対してJPDCの設立を提唱する「日本出版データセンター構想」を決定した。そして,日本書籍出版協会内に「日本出版データセンター」設立準備室を設置した。

 日本書店商業組合連合会をはじめ業界4団体は,平成13年10月にJPDCの設立支持団体になること,また同年12月に基金の拠出者になること,そして翌年2月にJPDCの定款を承認した。

 JPDCは,平成14年4月5日に定款が認証され,次いで12日に設立登記申請が受理され設立にいたった。

 

4.現在の機構と事業

 前述のごとくJPOは,昨年10月25日の理事会において,取り組む事業をこれまでの書誌データベース構築とそれにかかわる事業に限定するだけでなく,出版社等の取引先データベースの構築や,出版VANを発展させたWebEDI(電子データ交換)の構築,サプライチェーン・マネージメント(供給連鎖管理:SCM)をIT化したビジネス・モデルの特許出願調整,コミックを中心にした貸与ビジネス・モデルの構築,万引き防止対策に端を発した「本にICタグを装着する」案件等の業界課題を解決するために,各種研究委員会を当センター内に設置した。

 これに伴い,従来の書誌データベース構築を専業とする「総会―理事会―データセンター」という一部門制を,企画研究部門の研究委員会を統括する運営委員会と,従来の業務実行部門であるデータセンターの二部門制に改革した。また新たに事務局も新設した。

 運営委員会とデータセンターは,理事会の下部機関であり,事務局は,理事会直轄である。

 研究委員会は平成15年4月11日現在,ビジネス・モデル研究委員会,貸与ビジネス研究委員会,ICタグ研究委員会の3委員会である。

 

5.ICタグ研究委員会とICタグ技術協力企業コンソーシアムの活動

  • < 1 >委員会およびコンソーシアムの設置・設立の経緯
     JPOは,業界の一部から万引き防止対策として浮上したICタグ(チップ)を,それだけの利用に限定せず,出版流通改善や読者サービス向上の視点から見直すために,平成14年11月28日付で「ICタグ研究委員会」を当センター内に設置し,さらに平成15年3月19日に,ICタグ関連ベンダーの協力を得るために「ICタグ技術協力企業コンソーシアム」を設立した。
  • < 2 >コンソーシアムの目的・性格
     コンソーシアムの目的は,「ICタグは出版物の流通改善や読者サービスの向上を図るツールとして利用できるのか」を調査・検討し,総合的な枠組みを構想・提言することにある。研究委員会から依頼されたICタグの技術的な課題や,ICタグを使ったときに出版業界の業務に与える影響などを,ICタグメーカーをはじめ,それにかかわる周辺機器メーカー,システム開発会社等とともに調査・検討する。また,出版業界内でのICタグの利用場面,機能,仕様,コストや,周辺機器の機能,仕様を提案する。さらに,それらがより効果的に作動するために,各種データベースやネットワーク等の情報システム基盤整備を前提にした枠組みを構想・提言する。
  • < 3 >コンソーシアムの当面の活動
     コンソーシアムは,早期に出版業界,とりわけ出版流通の現状を調査・分析(そのための「現場」見学等も実施する)し,年内を目処にベンダーそれぞれから提案書を提出してもらい,その上で,それらのすりあわせをする。そして来年の3月までに報告書をまとめる。
  • < 4 >報告説明会の実施
     ICタグ研究委員会は,上記の報告書をもとに出版業界におけるICタグ導入の可否を検討し,その結果を来年の3月末から4月初めに,書店・取次・出版社・図書館等の出版業界関係者に報告・説明をする予定である。

日本出版インフラセンター:本間 広政(ほんまひろまさ)

 

Ref.

日本出版インフラセンター ICタグ技術協力企業コンソーシアム. (online), avaliable from < http ://www.jpo.or.jp/ >, (accessed 2003-05-02).

 


本間広政. 出版情報システムの基盤整備 −日本出版インフラセンターの紹介−. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.9-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1496