カレントアウェアネス
No.260 2001.04.20
CA1387
国立国会図書館レファレンス特別研修を受講して
2001(平成13)年2月28日から3月2日まで3日間にわたり,国立国会図書館において平成12年度レファレンス特別研修が開催され,受講の機会を得ることができた。同館の図書館研究所主催のこの研修は,都道府県立および政令指定都市立図書館のレファレンス担当職員を対象としたもので,受講者は東日本地区の22名であった。
主催者側にとっても初めての,いわば実験的な試みといえる研修であったとのことで,1日目のオリエンテーションの際に,研修の目的として次の3点が示された。第1に自分と自館のレファレンスサービスのレベルを把握すること,第2に自治体内の図書館職員を対象としたレファレンス研修のプログラムを作成できる力をつけること,第3はその研修において,講師を務められる力をつけることである。
都道府県立・政令指定都市立図書館におけるレファレンスサービスには,利用者に対する直接的サービスにとどまらず,自治体内外の図書館に対する協力業務やツール作成などの企画的業務も求められている。今回の研修は,上記の目的設定のとおり,それを念頭において開催されたことに意義があったと思う。
事前課題として,レファレンスサービス実態レポート,レファレンス問題への回答,自館のレファレンスサービスに関する案内物などを提出した。事前に受講者全員の回答が研修用資料として配布されたが,非常に面白く目を通した。他の回答と並べて見ることによって,自分の普段のサービスがはっきりと見えてしまう。恐さと同時に研修への意欲をそそられた。
1日目の小田光宏講師(青山学院大学助教授)の講義では,事前課題のレポートと数館からの報告をもとに,レファレンスサービスの現状と課題についてサービス・職員・ツール等の各側面から分析した。また,電子図書館におけるレファレンスサービスやレファレンスライブラリアンの位置づけなど,今後予測される課題についても検討した。
戸田愼一講師(東洋大学助教授)の講義は,インターネット時代の利用者と図書館の関わり方の変化,新しい図書館像のモデルを提示し,興味深い内容であった。「図書館に必要なのは技術の後追いではなく,先回りして環境を整えておくことである」という言葉が印象に残った。
2日目は,午前中のレファレンスコレクション(国立国会図書館専門資料部 伊藤りさ講師・石井俊行講師),午後のレファレンス事例研究(富士大学教授 斎藤文男講師)ともに実践的な内容であった。特に事例研究では,演習問題の分析等,自分の力量不足を痛感しながらの受講であったが,調査戦略の立て方や記録作成の手法などは,今後大いに役立てていきたいと思った。
最終日のコミュニケーションスキル演習(話し方研究所 相沢浩美講師)では,レファレンスの基本ともいえる質問者への応対について演習を行ったが,時間の都合でインタビュー技法まで踏み込めなかったのが残念である。午後はレファレンスツールの作成と利用について,数館から報告が行われ,最後に慶應義塾大学の田村俊作教授により研修の内容が総括されたほか,著作権法への対応などについて意見交換が行われ,研修の締めくくりとなった。
地域事情や施設規模の違いこそあれ,同じ館種の職員どうしが,共通のスタンスで議論や情報交換ができたことは大きな収穫であった。秋田県立図書館においても,ツール作成や研修方法などに関していくつかの課題を抱えており,積極的な取り組みを行っている館の事例からは,今後の業務に生かせると思われるヒントがいくつも得られた。研修参加に際し,通常の業務と並行して事前課題等の準備をすることは多少負担であったが,自らのスキルを磨き,また専門的技能としてのレファレンスサービスを再認識する好機となったと思う。このような研修機会が得られたことに感謝したい。
図書館の仕事の中から,レファレンスのみを切り離して論じることはむろんできないが,社会情勢の変化や情報技術の進歩に合わせて,公共図書館の提供するサービスに新たな付加価値が求められるようになることは間違いない。その可能性の一つとしてのレファレンスサービスについて,考えさせられた3日間であった。
秋田県立図書館奉仕課:成田 亮子(なりたりょうこ)