カレントアウェアネス
No.258 2001.02.20
CA1370
米国の大学図書館における24時間開館の実態
巷ではコンビニやファミレス等,24時間利用できる店をよく見かけるようになった。しかし,図書館の24時間開館というのは日本ではそれほど聞かれない。24時間開館にした場合,一部の利用者には資することになるだろうが,そのためのコストが増大することやその他様々な問題が発生するであろうことも容易に想像できる。果たして24時間開館することに意義はあるのだろうか。以下では,ニュージャージー工科大学のスラツキー(Bruce Slutsky)氏が,ミシガン大学,シカゴ大学,マサチューセッツ工科大学等,米国の大学図書館で24時間開館している13館(カナダ1館を含む)に対して行った調査結果を紹介する。
まず,調査対象の図書館のほとんどは日曜から木曜まで24時間開館しており,特にシカゴ大学は1年間休みなく開いている。ただし,開館しているといっても,深夜は一部のフロアや自習室に限られている図書館が多く,端末による検索等のサービスが利用できないところもある。
ほとんどの大学図書館で,深夜に利用する学生はそれほどおらず,期末試験期間になると,利用者は増えるようである。要するに,学生は図書館を,資料の閲覧・借出をする場としてではなく,勉強する場として利用しているのである。そこで,シカゴ大学のように,深夜の利用者を大学院生や教員等に限定しているところもある(期末試験期間中のみ学部生も利用可)。夜間は貸出等を行っていない図書館も,このような理由によるところが少なからずあるのであろう。
学生の利用の仕方にも問題がある。例えば,ミシガン州立大学ではピザの出前をとって食べ散らかした学生がおり,バッファロー大学ではカップルが「愛の巣」として利用していたことがあった。また,勉強をしにきた学生にしても,その多くが眠っているようだ。フロリダ大学で調査を行ったところ,利用者の3分の1が眠っていたらしい。
また,24時間開館に際しては,セキュリティの問題が当然生じてくる。ほとんどの大学は,職員または学生のアルバイトを2,3人置いている。ノースカロライナ州立大学では,24時間当番制で職員を配置している。学生の図書館入室の際に記帳を求めたり,認証用のカードキーを使用したりしている図書館もある。
どの大学の学生も,図書館を24時間開館することに対しては,賛成する。学生の視点からすれば当然のことだろう。しかし,それほど利用者がいないにもかかわらず開館することは,コストなどの面からすれば,あまり意義があるとは思えない気もする。この問題に対し,ある図書館の職員は,図書館を消防署に例えて説明している。つまり,普段は必要がなくても,本当に必要なときにいつでも利用できるというところに意義があるというのである。
日本でもわずかながら,主に医学系の大学図書館などで24時間開館を行っているところがある。しかし,一般に卒業が難しいといわれる米国に比べ,入学後はあまり勉強をしないといわれる日本の大学生にとっては,図書館の24時間開館はそれほど関心のある事柄ではないかもしれない。大学図書館の24時間開館に関する米国の事例は,図書館だけでなく,日本と米国の大学の差異をも示唆しているように思える。
半澤 陽子(はんざわようこ)
Ref: 24 hour academic library: summary of responses. LIBREF-L archives, March 2000, week 5. [http://listserv.kent.edu/scripts/wa.exe?A1=ind0003e&L=libref-l#1] (last access 2001.1.23)
常世田良ほか [特集]図書館の「開館」を問う 現代の図書館 37(4) 215-252,1999
九州大学附属図書館 海外大学図書館等視察報告 第3集 1998.32p