CA1369 – 英国における視覚障害者サービス改善のための調査 / 豊嶋陽子

カレントアウェアネス
No.258 2001.02.20


CA1369

英国における視覚障害者サービス改善のための調査

2000年4月から,英国盲人図書館(National Library for the Blind: NLB)と王立英国盲人援護協会(Royal National Institute for the Blind: RNIB)が協同して,視覚障害者へのサービスの改善を図ることとなった。それに先駆けて,NLBはバーミンガム大学教育学部に委託し,視覚障害を持つ児童・生徒の読書傾向について調査を行った。以下にその結果を紹介する。

調査はアンケート方式で行われ,特殊学校26と養護施設211に送付され,特殊学校13と養護施設96から,あわせて140人の回答が得られた。回収率は46%であった。回答者は5歳9か月から19歳までの男子78人,女子62人であった。

この調査では,読書傾向によって回答者を2つのグループに分けている。すなわち,読書を趣味として楽しんでいる「熱心読者」(keen readers)と,そうではない「しぶしぶ読者」(reluctant readers)とである。分析はこの二者を根底に据えて行われており,この調査における特徴といえる。

例えば,どの点字を使っているかという質問に対しては,「熱心読者」「しぶしぶ読者」ともにフルスペルの1級点字より省略のある2級点字が多いが,「しぶしぶ読者」のうち7人は自分が何を使っているか知らなかった。MOONタイプの点字(イギリスのムーン(William Moon)によって発明された単純で読みやすいもの)を使っている生徒もそれぞれ1人いた。

どのような本を,どのような手段で読むかについては,「熱心読者」「しぶしぶ読者」に明確な差はなく,物語や音楽,ノンフィクションをテープで聞くことを好む生徒が多かった。雑誌やコミックを挙げた生徒も少なくなかった。

NLBについては,「熱心読者」120人のうち99人が,「しぶしぶ読者」19人のうち13人が知っており,「熱心読者」69人は”常連”であった。なかには,NLBの資料を毎年1〜5冊借りているのに「NLBを知らない」と答えた生徒が1人いたが,これは,後述するように生徒の代わりに教師らが申込等を行っているためであろう。

図書館の利用については,NLBと学校図書館・公共図書館とを比較しながら尋ねている。NLBも学校図書館も利用している生徒は55人,学校図書館だけが53人,NLBだけが18人,両方利用していない生徒は8人であった。同様に,NLBも公共図書館も利用する生徒は49人,公共図書館だけが32人,NLBだけが26人,両方利用しない生徒が30人であった。

誰が貸出の申込をするのかを見ると,教師が42人,親32人,本人23人,利用なし58人であった(複数回答)。自分で申し込んでいる23人のうち誰かに申し込んでほしいと思っているのは1人だが,教師・親が申し込んでいる74人のうち31人は自分で申込をしたいと思っている。よく使う方法は,電話が89人,以下,郵便30人,Eメール10人,ファックス5人であった。

「熱心読者」111人と「しぶしぶ読者」16人,つまりほとんどの生徒が自分用に本を作ってもらっていると答えた。点字本は通常の本よりも大きく厚いので,生徒たちが持ち運ぶのは大変であるという。
IT(情報技術)の利用についての回答は以下のとおりである(複数回答)。

 家で利用学校で利用利用したい
Eメール14(11.0%)36(28.3%)68(54.8%)
Web16(13.0%)34(27.6%)65(54.6%)
CD-ROM51(37.8%)103(76.3%)19(14.6%)
OCRM15(13.6%)46(42.2%)31(28.7%)

OCRM(Optical Character Reading Machine:光学式文字読み取り装置)についての解答は間違いが多く,「これは何?」と記入する生徒もいた。また,多くの生徒(121人,93%)は,インターネットの使い方について訓練が必要だといっている。

報告では,これらの結果を踏まえて,以下のような,さらに踏み込んだ洞察をしているのが興味深い。

アンケートという方式は,興味を持っていることに対しては回答するという傾向が強い。つまり,読書に興味のない生徒からは回答がないということになる。それゆえ,この調査の回収率46%は満足できるものであるという。加えて,アンケートに回答する際,教師が生徒に代わって記入していることが多い。教師は,生徒の代筆者としての役割に徹しておらず,回答には「私たちは…」,「この子は…」などという表現が見られる。教師が介在することで,生徒は気詰まりを感じ,本当の答えをしかねることもあろう。

また,視覚障害を持つ生徒の読書習慣は,幼い頃の経験に影響を受けている。目の見える子どもたちは,教えられなくとも,周りにあるもの,例えばテレビに映る広告や道路標識などを読もうとし,常に視覚的な刺激を受けている。しかし,視覚障害を持つ子どもたちは読み書きを他人に大きく依存しているため,このような刺激を受けることは少ない。さらに点字を読むことは難しいので,本を読む楽しさが得にくい。それが「読まない⇔読めない」という悪循環に陥らせるのである。

報告は,これらを考慮したうえで視覚障害の生徒へのサービスに必要なこととして,雑誌やコミックを充実させること,ノンフィクションのテープ(録音資料)を増やすこと,インターネットを活用することなどを挙げている。

この調査には,サービスの改善を図る際に,何が求められているのかを正確に知ろうという積極的な姿勢が感じられる。今後,NLBとRNIBがどのようなサービスを展開するのか,注目していきたい。

豊嶋 陽子(とよしまようこ)

Ref: National Library for the Blind and University of Birmingham. Reading Preferences of Pupils with Visual Impairments.http://www.rnib.org.uk/download/readpref.doc] (last access 2000.4.1)
世界盲人百科事典編集委員会 世界盲人百科事典 1972. p.49, 54, 437-439, 611-613
福井哲也 視覚障害関連情報機器基礎用語集1996年版 1996. p.10