CA1365 – 図書館運営への若者参加の可能性−「かっこいい」図書館への道− / 関口薫

カレントアウェアネス
No.257 2001.01.20


CA1365

図書館運営への若者参加の可能性―「かっこいい」図書館への道―

図書館が,多くの10代の若者にとって「かっこいい(cool)」と思えるには程遠いということは言うまでもないだろう。米国において,DeWitt Wallace-Reader's Digest Fundが1998年に始めた「図書館を若者教育のパートナーに」というプロジェクトの一環として,同年11月から翌年5月にかけてブルックリン公共図書館を始めとする都市部の公共図書館10館に対し,各都市の10代の若者が面接で意見を述べる機会があった。

地域性の違う各都市においては面接方式も異なっていたが,共通する意見が多く寄せられた。それは,10代の若者が,図書館の現在の「かっこよくない」環境では求めているものを得られないと考えている反面,理想的で「かっこいい」環境をイメージとして持っており,その環境を自分達の手で作り上げたいという希望を持っていることである。

図書館がこのような意見を真剣に受けとめることは,今後,図書館が若者達と「一緒にやっていく」ための具体的な方向性を指し示すことにほかならない。若者達から挙げられた問題点は,次のようなものであった。

  • 図書館のITの遅れ
    ITの利用は,10代の若者が図書館に行く主目的のひとつであるが,図書館の現状は,コンピュータの台数が限られ,ソフトウェアも古いなど,望ましいとはいえない。
  • 学生に対するサービス
    学生たちにとっては調べものの需要が圧倒的に多いが,「学生の手助けよりも大切な仕事がある」という態度をとる職員がいるという証言もあるように,若者は,手助けをしてもらえないことに対する不満を抱いている。
  • 若者の必要とする図書館のスペース
    「暗い」「退屈」などといった図書館の雰囲気は,「明るく」「愉快で」「行けば歓迎される」場所に変えてほしい,図書館に静かに勉強できる場所と社交に使える場所の両方がほしい,椅子・机などの備品や,「もっと人を惹き付ける外見」を整備してほしい,などという希望も多い。そして,若者は小さい子どもとも大人とも違う「自分たちだけの場所」を持ちたいと思っている。
  • 資料の収集と排架
    学校の調べものに使うため,百科事典などを複数揃えてほしいという声が上がっている。また,人気のある資料(雑誌・CD・ビデオ・音楽テープ)や外国語学習のための資料の提供の充実のほか,文庫本は同じ棚に並べてほしいなど,資料の整理についての要求もある。
  • 利用規則と開館時間
    過度に静かにしなければならない利用規則などが,若者を図書館から遠ざけている。また,図書館で食事ができることが望まれている。さらに,夕方や週末の時間延長の要求も多い。

日本においても,子どもたちから寄せられた「夢の学校図書館」に対する要望のなかに,検索機能が充実したコンピュータが置かれ,教室とは違った明るい雰囲気のある場所にしてほしい,などというような,米国での調査と同様の結果が見られる。

これらの意見に対し,図書館はどのような対策を具体的に打ち立てたらよいのであろうか。図書館員はどうしたら「かっこよくない」というイメージを変えられるのだろうか。その回答も若者たちの言葉の中にあった。

まず一つは,図書館の運営に若者を参加させることである。調査対象中8館において,若者たちは図書館でのアルバイトなどに関わりたいと考えている。10代の若者が,図書館の色々な仕事に参加するようになれば,図書館は「自分たちの年代のための場所」であると認識されるだろう。資料の整理,資料を探す手伝い,コンピュータ利用者の援助,子どもたちへの読み聞かせなど,幅広い仕事がリストアップされている。すでに図書館に置く資料の選択,パンフレットの話題提供,ウェブサイトの作成など,図書館でボランティア活動をしている10代の若者たちもいる。そうした若者の多くは,専門的な仕事を求めており,その経験が将来の職業に役立つことを希望している。

二つ目は,マーケティングの面で,若者の手助けを受けることである。彼らは,「口コミ」と,彼らの持つ種々のメディアが,図書館のニュースを広めるのに有効だと考えている。逆に,これまで学校との間で培ってきた伝統的な宣伝(プロモーション)の方法に頼るだけでは,一部の若者にしか効き目がないということである。若者たちは,機会が与えられれば既存の図書館サービスを宣伝するだけでなく,彼ら自身で新たなサービスを作り出すことができると考えている。

図書館が,10代の若者の「かっこいい」という評価に到達するには長い時間がかかるだろう。しかし一方で,10代の若者は,図書館がそこに到達するための手伝いをしたいと思っている。図書館は若者との新しいチームワークを築いていくことが必要だろう。米国と日本とではアルバイトやボランティアに関わる社会的背景の違いもあり,簡単に比較できない要素が多いことは確かである。しかし,若者たちが図書館運営に参加するという米国での方策は,日本においても図書館をより活性化させるヒントになるであろう。

関口 薫(せきぐちかおる)

Ref: Mayers, Elaine. The coolness factor: ten libraries listen to youth. Am Libr 30(10) 42-45, 1999
[特集]子どもたちの描く”夢の学校図書館” 学校図書館 (591) 14-42, 2000