CA1361 – 先生がた,メディアスペシャリストとの連携を!−学習指導コンサルタントとしての学校図書館員− / 櫻井理恵

カレントアウェアネス
No.257 2001.01.20

 

CA1361

先生がた,メディアスペシャリストとの連携を!
―学習指導コンサルタントとしての学校図書館員―

メディアスペシャリスト――米国では学校図書館員をこう呼ぶ。「図書館員」と「教員」という本来的な2つの役割に加えて,1988年改訂の学校図書館基準(注)によって,「学習指導コンサルタント」という新たな役割が付け加わった。教員の教科指導の領域において,メディアに関する専門的な意見や助言を積極的に行うことが期待されているのである。

例えば,ネイティブアメリカンについて学習する単元があるとする。メディアスペシャリストはクラス担任と相談しつつ,生徒のレベルや個性に合ったものを学校図書館(メディアセンターと呼ばれている)の蔵書から数十冊選び出し,生徒たちが手に取りやすいよう教室に貸し出す。このコレクションは,単元が変わるごとに交換する。また,生徒たちを小人数のグループに分けて,単元に関連させながらCD―ROMやデータベースの使い方を教えたりもする。以上は一例であるが,クラス担任とメディアスペシャリストの連携次第で,メディアセンターを利用した学習指導案(メディアプログラムと呼ばれている)は創意工夫に富んだ効果的なものになる。

コロラド州立図書館の図書館リサーチサービス部とデンバー大学図書館情報サービス学部は,アラスカ州・コロラド州・ペンシルバニア州の学校を対象とした調査を行った。そして,地域の社会的・経済的事情にかかわらず,常勤のメディアスペシャリスト・補助職員(サポートスタッフ)と,教室・実験室・メディアセンターを結ぶコンピュータネットワークとに支えられたメディアプログラムによって,生徒たちはより深い学習ができ,学力も上がるという結論を導き出した。

アラスカ州の調査では,メディアスペシャリストが常勤で教務的な活動に携わることの大切さが示された。内容の充実したメディアプログラムを受けた小学生のうち86%が州の読解テストで成績を向上させた。一方,工夫に欠けるメディアプログラムを受けた小学生のうち成績が上がったのは73%であった。

ペンシルバニア州の調査では,メディアプログラムで生徒の学力を向上させるには,職員の充実,具体的には常勤で有資格のメディアスペシャリストと常勤の補助職員の存在が欠かせない,ということが明らかになった。充実した職員のいるメディアセンターを持つ学校で,5年生は4%,8年生は5%,11年生は8%,それぞれテストの点が上がった。メディアセンターの職員が増えるほどメディアスペシャリストが教務的な活動に関わる時間が増えるためだと分析されている。

コロラド州の調査は,1993年に同州で行われた,学力テストにおけるメディアセンターの影響力に関する調査の結果を裏づけるものであると同時に,新たな事実を導き出した。4年生と7年生の読解テストの得点は,メディアプログラムの質とメディアスペシャリストの教務的で主体的な活動への関わりの度合いと相関関係があることがわかった。充実した内容のメディアプログラムを持つ小・中学校は,貧弱なプログラムの学校に比べて15%も得点が高かった。

充実したメディアプログラムによって生徒の成績を上げるための条件をこれら3地域の調査報告からまとめると次のようになる。
・望ましいメディアスペシャリスト像
(1)常勤で有資格者である。(2)共同で指導案を作成するなど,教員と関わる時間が多い。(3)生徒にだけでなく教員にも情報検索法を指導する。(4)カリキュラム編成委員会に参加する。(5)職員会議に出席し,校長と話す時間も持つ。(6)ベテランの図書館員と接触する時間を持つ。(7)公共図書館とも協力体制を作る。
・望ましいメディアセンター像
(1)長時間開館。(2)蔵書数が多く,収集方針が確立している。(3)予算が多い。(4)データベースとインターネットにアクセス可能なコンピュータの数が多い。(5)高学年のために専門的なメディアスペシャリストがいる。

メディアプログラムの学習効果をさらに広く知らしめるために,メディアスペシャリスト自身が地域やPTA,教員・校長・教育委員会に積極的に働きかけ,連携関係を築くことを調査報告では勧めている。

日本では1997年に学校図書館法が一部改正されたが,専門性を持つ職員の配置が十分に考慮されているとは言えない。児童・生徒の学力低下が危惧されている今,学校図書館員の存在意義を訴え続けていく必要があるのではないだろうか。ではないだろうか。

櫻井 理恵(さくらいりえ)

(注)American Association of School Librarians et al. Information Power:Guidelines for School Library Media Programs. 1988. (インフォメーション・パワー:学校図書館メディア・プログラムのガイドライン 全国学校図書館協議会 1989. 217p) 各州の教育委員会が制定するメディアスペシャリストの資格要件のガイドラインに一定の基準を与えている。なお,’98年には改訂版が出されている。
Ref: Hamilton-Pennell, Christine et al. Dick and Jane go to the head of the class. Sch Libr J 46(4) 44-47, 2000
Gniewek, Debra. The rotating library. Sch Libr J 46(8) 35, 2000
渡辺信一ほか メディアセンター論 放送大学教育振興会 1998. p. 99-106