カレントアウェアネス
No.275 2003.03.20
CA1487
米国における学校図書館職員養成の動向
日本では,学校図書館法の改正によって学校図書館への司書教諭の配置が進む中,改めて学校図書館職員制度のあり方に関心が集まっている。本稿では,米国図書館協会(American Library Association: ALA)や米国学校図書館員協会(American Association of School Librarians: AASL)の取り組みに注目し,近年の米国における学校図書館職員の養成と採用・配置の状況について紹介したい。
米国では2000年ころから,有資格の学校図書館職員の不足が深刻化している。米国の学校図書館は,1957年のスプートニク・ショックに端を発する教育改革で大きく発展した。1960年代には全米で学校図書館施設が整備され,学校図書館職員(スクール・ライブラリアン)の採用が進められた。現在,この時期に採用された多くの学校図書館職員が退職の時期を迎えている。また,いくつかの州で早期退職に関する法律が制定されたことも職員不足に拍車をかけている。このため,全米50州のうち半数以上の州で学校図書館職員が不足してきており,中には求人の半数程度しか有資格の職員を確保できない州もある。そうした州では,無資格の職員を採用しなければならなくなってきており,また,もっと悪い場合には図書館プログラムの解体ともなりかねない状況が生まれてきている。
こうした理由に加えて,図書館学教育を受けることの難しさ,資格制度がより厳しくなっていること,基準や試験の得点の重視という教育界の傾向も,職員不足に影響を与えている。そのうち,図書館学教育を受けることの難しさについては,ALA認定校(認定プログラム)のない州の存在が挙げられる。米国には56のALA認定校(58の認定プログラム)があるが,それらは32の州に集中している。従って,プログラムのない州では,有資格の学校図書館職員(学校図書館メディア・スペシャリスト)の養成は行われ得ないということになる。各州政府の定める学校図書館専門職の資格要件や学校図書館関連職員に求める要件の中に,ALA認定校(認定プログラム)での単位取得が含まれない場合も少なくないのはこのためでもあろう。この問題に関しては,近年,認定プログラムのいくつかがオンラインで提供されはじめたことに,学校図書館関係者の期待が高まっている。
1.NCATE-ALA/AASL学校図書館メディア・スペシャリスト養成基準
ALAは,1988年に教員養成プログラム認定全国協議会(National Council for the Accreditation of Teacher Education: NCATE)に加盟し,学校図書館職員養成プログラムの認定を開始した。これはALAの認定校以外で学んだ学校図書館職員の質を高めるための一方策である。認定のためのガイドラインをALA(AASL)が作成し,NCATEがそれを承認する形をとっている。このガイドラインは1988年9月にはじめて承認され,1993年10月に一度改訂された。その再改訂を目指して,AASLは2000年に特別の作業部会を設立し,「学校図書館メディア・スペシャリスト養成のためのAASL基準最終案(Final Draft of AASL Standards for School Library Media Profession)」を作成した。そして、2002年10月に開かれたNCATEの専門分野研究委員会(Specialty Area Studies Board: SASB)に同最終案を提出した。
この最終案は,AASLと教育コミュニケーション工学協会(Association for Educational Communications and Technology: AECT)による,学校図書館メディア・プログラムのガイドライン『インフォメーション・パワー』(1989, 1998)(CA1361参照)の枠組みを用い,最新の学術研究の成果を取り入れて作成された。そして,学校図書館メディア・スペシャリスト認定の対象は修士号を授与する機関に限定した。一部の州には学士号レベルのプログラムや資格付与のためのプログラムもあり,希望により審査を受けることができるが,ALA(AASL)が出版物やウェブサイトでその認定を発表することはない,とした。
これにより,ALA認定校での専門職養成を補完する教育が,形としても修士号以上,また内容的にも『インフォメーション・パワー』の考え方を反映した一定水準以上に維持されることが期待されている。
2.NBPTS優秀教員認定への関心
AASLはまた,「危機に立つ国家」(1983)(注)等の提言に応えるため,1987年に設立された全国教育専門職基準委員会(National Board for Professional Teaching Standards: NBPTS)との連携も強めていこうとしてきた。NBPTSは,「図書館メディア」分野の教員を独自のガイドラインと志願者のポートフォリオで評価する優秀教員認定を2002年に開始した。そして今回,全米で435人(うち95名がAASL会員)が認定を受けた。
AASLはこの認定制度に強い関心を寄せており,今回認定された会員とまた認定を受けることに関心を持つ会員の組織を作ろうという動きも,AASL内に現れてきている。今後,学校図書館職員が達成すべきパフォーマンスの指標として,同認定制度が定着していきそうである。
3.まとめ
以上のように,有資格の学校図書館職員の不足が問題となっている中で,ALAやAASLは学校図書館職員の質の維持・向上のために努力している。また,学校図書館職員や学校図書館メディア・プログラムの評価が教育界と社会一般に広く認められるよう,外部の機関との連携を強めている。米国では今後もこうした専門職団体の努力が,学校図書館の発展の推進力となっていくように思われる。
東京大学大学院教育学研究科:中村 百合子(なかむら ゆりこ)
(注)米国経済の国際競争力回復のための教育改革を,連邦レベルの大きな課題として衝撃的に押し出した文書。子どもの基礎学力やモラルの低下への対策を訴えた。
Ref.
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Everhart, Nancy. School Staffing Survey 2000:Looking for a few good librarians. Sch Libr J. 46(9), 2000, 58-61.
Lord, Mary. Where have the all librarians gone? US News & World Report. June 12, 2000, 53. (online), available from < http://www.usnews.com/usnews/issue/000612/lib.htm >, (accessed 2002-12-19).
中村百合子. 米国における学校図書館職員養成の動向. カレントアウェアネス. 2003, (275), p.9-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1487