CA1325 – 難民に対する図書館サービス / 阿部泰

カレントアウェアネス
No.249 2000.05.20


CA1325

難民に対する図書館サービス

ユーゴスラビア連邦セルビア共和国コソボ自治州におけるいわゆるコソボ紛争とそれに起因するNATO軍のユーゴ空爆は,コソボに住む多数のアルバニア系住民の難民化をもたらした。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば,空爆開始後にアルバニア本国・マケドニア・ユーゴ連邦モンテネグロ共和国などに逃避した難民は計85万5,000人にのぼり,それ以前に脱出した難民10万人を加えると約100万人に達するという。米国も9,200人ほど受け入れている。そうした難民をめぐる問題に対し,図書館及び図書館員はどんな貢献ができるのであろうか。UNHCRでの勤務経験をもつメイソン(Elisa Mason)氏はこの課題に関して米国の実情に即し以下のような議論を展開している。

難民に対する貢献

まず難民の多様なニーズを把握することが肝要である。そのうえで具体的には,それぞれの母語で記された外国語の文献を収集し,参考となる情報を難民に対し提供することが考えられる。難民に対する情報提供の試みの例としては,Welcome to the United States: A Guidebook for Refugeesがある。このガイドブックは,米国に難民としてやってきた人々に対して,入国までのプロセスや雇用・教育などといった生活の基本に関する情報を提供するための文献であり,こうした文献を図書館が資料として整備し提供することは,難民に対する直接的な貢献となりうる。

社会の関心を喚起する

前段の内容に関連するが,難民の問題に関する蔵書を増やす。さらに,展示や講演会などを企画することも有効な戦略である。学校図書館などでは,難民に関する教育のための素材を整備することが可能である。そして,難民問題についてのWebサイトをつくることも,図書館及び図書館員のとりうる方法の一つである。これまでもそうしたサイトは活発につくられており,例えばワシントンのケントリッジ高校(Kentridge High School)のサイトでは,1998年12月の図書館のページの特集として,難民に関わる国際機関・米国政府機関・NGOなどの紹介記事がある。

難民問題に携わる人々に対する貢献

図書館はどのような人々がこの問題に関わっているのかを把握し,その多種多様なニーズを考慮する必要がある。まず第一に,UNHCRのように人道的見地から難民問題に取り組む人々がいる。第二に,避難所の整備をしたり難民の入所を支援する人々がいる。例えば,難民の支援活動をする弁護士にとっては,人権に関するレポートや判例,難民の母国の国情に関する文献,米国内の法体系などについての信頼できる情報が必要となるのである。第三に,ソーシャルワーカーなどの福祉に関わる人々がいる。第四に,難民に対する政策立案に関わる人々がいる。こうした人々にとっては,政府文書やシンクタンクのレポートなどが必要となる。そして第五に,学生や研究者がいる。適切な研究・調査をするためには適切な文献にアクセスすることが不可欠である。

まとめ

図書館が難民にとって身近な存在となるには,上述のようにいろいろな方法がある。そして,私達のコミュニティの内部に難民グループや難民に関わる人々が存在することを認識し,そういった人々が図書館サービスを必要とし,またそのようなサービスを受けるべき存在なのだということを認識すること,これが最初のステップなのである。日本にはコソボ難民が大量に流入してはいないが,過去には東南アジアからの難民を受け入れた経験をもつ。また難民の概念とは質的に異なるものの,多くの様々な在日外国人を内に含んでいるのも事実である。そうした社会に生きる図書館員にとって,本稿で紹介した議論は極めて重要な意味をもっているといえよう。

阿部 泰(あべおさむ)

Ref: Mason, Elisa. Against all odds: refugees coping in a strange land. Am Libr 30(7) 44-47, 1999.
町田幸彦 コソボ紛争 岩波書店 1999
Kentridge High School. Refugees: a global concern [http://www.kent.wednet.edu/KSD/KR/LIBRARY/FEATURES/refugees.html] (last update 1999.10.5) (last access 2000.2.22)
Refugee Service Center. Guidebook for refugees [http://www.cal.org/rsc/rscpubs.htm] (last update 1999.10.8) (last access 2000.2.22)