CA1339 – フランス国立図書館の利用者調査 / 豊田透

カレントアウェアネス
No.252 2000.08.20


CA1339

フランス国立図書館の利用者調査

組織改編・新館開館・サービス変更など,図書館がその活動を大きく変える局面の前と後には,利用者の動向を確実に把握することが肝要である。ここでは1990年代に大きな改編を実施したフランス国立図書館(BNF)の利用者調査を紹介する。

トルビアック調査

BNFの現在の構成については,すでにCA1091CA1125に紹介されている。始めに取り上げるアンケート調査は,新規に開館したトルビアック・フランソワ・ミッテラン図書館(以下トルビアック)について実施されたものである。トルビアックは「一般利用者用スペース(オ・ド・ジャルダン)」と「調査研究用スペース(レ・ド・ジャルダン)」という事実上2つの図書館から構成されている。前者は1996年12月,後者は1998年10月に開館した(その多難なスタートについてはCA1233CA1284を参照)。

アンケートの実施は1998年末から1999年1月。すなわちレ・ド・ジャルダンが開館して3か月の時期である。これは図書館利用者から展覧会入場者までを対象とした広範なアンケートであり,すべてを紹介することはできないが,いくつかのデータを取り上げたい。

〈オ・ド・ジャルダン〉
(1) 年齢層:82%が学生であり,平均年齢は28歳。1997年11月の調査時(31歳)に比べかなり下がっている。
(2) 来館頻度:利用を始めて1週間以内という利用者は18%(全くの初回利用者は10%)に過ぎず,39%が数か月以上前からの利用者,そして開館時からの熱心な利用者が32%にも及ぶ。
(3) 室別利用:図書館は主題によっていくつかの閲覧室に分かれている。その中で,哲学・歴史,法律,経済の閲覧室の利用が多いが,文学の分野も29%に及ぶ。1人の利用者が1日に訪れる室数は平均1.6である。
(4) 目的達成度:55%の利用者は特定の資料を求めて来館する。そのうち68%が「容易にその資料に到達できた」と答えており,「容易ではなかったが到達した」(20%),「到達できなかった」(12%)という割合になっている。
(5) 利用資料:図書が圧倒的に多く86%,逐次刊行物15%,その他の資料8%となっている。
(6) 在館時間:平均で4時間8分と,1997年に実施された同様の調査と比べて1時間近く長くなっている。回転率が悪くなり,座席数不足をもたらしている。

〈レ・ド・ジャルダン〉
(1) 年齢層:平均年齢は32歳。30歳以下が62%にも及び,こちらも学生が主体(58%)である。このレ・ド・ジャルダン開館以前はリシュリュー館がその役割を果していたわけであるが,そこでは学生の比率が20%でしかなかったことを考えると大きな相違がある。
(2) 読書傾向との関連:84%の利用者が,1日に2時間以上を読書に当てている人々である。彼らが1か月に読む本の数も非常に多く,平均10.4冊,来館頻度の高い利用者ほど読書数が多いという結果も出ている。オ・ド・ジャルダンの同じ項目がむしろ減少している点を考慮すると,レ・ド・ジャルダンが開館後,そうした熱心な利用者がこちらへシフトしたと思われる。
(3) リシュリュー館との関係:半数強(54%)が移転前のリシュリュー館の利用者であったと答えている。この傾向は学生より教職・研究者に強い。
(4) 室別利用:一般用に比べて歴史・文学が多いのが特徴である。1日の平均訪問室数は1.56。
(5) 利用冊数:開架資料が平均1.5冊,閉架資料が平均1.8冊となっている。
(6) 資料検索:検索はコンピュータ目録で行うが,75%の利用者がこれを使用しており,閉架資料の利用者に限ると92%に及んでいる。うち78%は現在のコンピュータ目録を「使用しやすい」と答えている。また,42%の利用者が目的の資料を容易に検索でき,45%が「多少の困難を伴った」,13%が「検索できなかった」という回答である。78%の利用者は自分だけで目録を使いこなし,20%は職員の援助を仰いでいる。
(7) 目的達成度:45%の利用者は特定の資料を求めている。そのうち61%は容易に到達でき,27%がやや困難,12%が失敗に終わっている。初回利用者の場合に限ると,目的の資料に到達できなかった割合は29%になっている。
(8) 在館時間:オ・ド・ジャルダンに比べるとやや長く,平均4時間半となっている。教職・研究者や毎日来館する常連の場合はさらに長く,10人に1人は8時間在館している。これは出納の待ち時間があることも関係している。

<トルビアック全体への満足度>
施設,窓口の応対,職員の援助などについては90%前後が「満足している」と答えている。逆に不満な点として挙げられた事柄としては,「休憩・飲食・喫煙施設が不十分」ということが両スペースに共通している。またオ・ド・ジャルダンの方では席数の不足,レ・ド・ジャルダンについては閉架資料へのアクセスのしにくさ(広大な建物内の資料運搬手段が不十分で,資料によっては事前予約が必要になっている)に対する不満が特徴となっている。一方,閲覧席の予約制度の導入(レ・ド・ジャルダンのみ)により,リシュリュー館時代に不評であった行列待ちが解消された点は評価されている。

特別資料部の調査

二番目に紹介するアンケートは−こちらの方が古いのであるが−1997年の7月から10月にかけて特別資料部(当時)が実施したものである。すなわち,図書・雑誌・視聴覚資料のトルビアックヘの移転が行われ,旧・国立図書館がリシュリュー館を中心とする専門図書館群として生まれ変わった時点で,改めて利用者の性質と動向を知るために実施されたのである。
(1) 年齢層:55%が30歳から59歳に属する。25歳以下は14%に過ぎない。職業別では,学生と教職・研究者が同じ割合で各々28%を占める。
(2) 利用の内訳:最も多いのが西洋写本部門の利用(28.5%)。ついで版画写真部門(12%),アルスナル図書館(演劇関係資料等を所蔵,11.3%)などとなっている。
(3) 利用頻度:専門図書館という性質上,5分の1は初回利用者,一方5年以上の継続利用者が3分の1を上回っており,両極端な傾向がある。
(4) トルビアック館との関連:この時点で資料移転を知っていた利用者は68%。その大多数の84%は,図書・雑誌の利用のためにトルビアックとの併用を考えている。距離的に離れている不便さに対しては,当然根強い反発がある。

なお,このアンケート後のことであるが,トルビアックのレ・ド・ジャルダン開館後,一時的に利用者の足がそちらに流れるという傾向が見られた。しかし,リシュリュー館には資料館としても機能する国立芸術史研究所の設立が決まっており,これを含めてBNF総体を構成するという再編成の枠組みの中で,専門資料を利用する人々の動向も今一度変化すると思われる。

豊田 透(とよだとおる)

 Ref: Ripon, Romuald.Les publics du site Tolbiac-Francois-Mitterrand.Bull Bibl Fr 44(6) 29-39,1999
Michel,Marie-Edmee et al . Le Public des departments Richelieu de la Bibliotheque nationale de France.Bull Bibl Fr 44(6) 40-42, 1999