CA1338 – OLD NEWs-papers? −「NEWSPLAN」の挑戦− / 木下雅美

カレントアウェアネス
No.252 2000.08.20


CA1338

OLD NEWs-papers? −NEWSPLANの挑戦−

想像してみよう。今朝の通勤電車の中で20年前に出た単行本を読んでいる人を見かけたとしても特に職場で話題にしない。しかし,単行本ではなく20年前の新聞原紙だったならばどうか。あるいは大掃除をしたときなどに偶然,とても古い新聞を見つけた瞬間。古い新聞に出くわす,ただそれだけで人は何かを感じる。それが意味するのは,まだそれが残っていた,存在したということに対する素朴な驚き,あるいは感動である。どうしてそんなにも,時間の壁を超えて残っていくことが新聞には困難なのだろうか。

新聞というものは意識して積極的に保存活動を行わなければ,きわめてすみやかに損なわれてしまう。そのわけは,新聞が一義的には−これはとりわけ日刊紙において顕著である−つねに最新の情報を伝えるものであって,古くなれば用無しとなり,読み捨てられる運命ゆえに耐久性のない紙と印刷で作られ,ページをめくる力,光,湿度変化,ホコリといった環境からの暴力に弱い,ということだ。つまり,新聞を長期にわたって保有するという行為自体が特異であると同時に,保存しようにもその方法が技術的に難しいのである。そんな新聞のうち,地方紙の保存状況を徹底把握した上でマイクロフィルム化によって劣化に対抗しようとする試み「NEWSPLAN」が英国で進行中である。

話は1983年までさかのぼる。この年,英国図書館の支援のもとにイングランド南西部における地方紙の保存状況調査が着手され,86年に報告が刊行される。同報告は,地方紙の保存がもはや一つの機関の手におえるものではなく,関係機関が協力して取り組むべき仕事であることをありありと示していた。以後,同様の調査が英国とアイルランド共和国において実施され,96年に10地域(イングランドのロンドン・南東部,北部,北西部,南西部,東中部,西中部,ヨークシャー・ハンバーサイド,スコットランド,ウェールズ/キムルー,アイルランド)のすべての調査報告が出そろった(98年にはアイルランドの報告の増補版が刊行されている)。

NEWSPLANの特色を最も良く表現することば,それは「コラボレーション」である。NEWSPLANは英国図書館新聞図書館(The British Library Newspaper Library:BLNL)をリーダーとする全国的事業ではあるが,その支援を受けた10の地域図書館システムをベースに,公共・大学・国立の各図書館と新聞業界等の相互協力によって遂行されている。従来は各機関で個々に行われてきた地方紙の保存活動を地域レベルで調整・整備し,さらに全国事業へと編成してゆくことこそ,NEWSPLANの核心をなすものにほかならない。

各地域における調査報告の画期的な点は,各タイトルに対してマイクロフィルム化への優先順位を指示していることである。例えば北西部地域の調査報告では,次のような6つのカテゴリーによる評価がタイトルごとに与えられている。「カテゴリー1:マイクロ化されておらず,原紙の状態は良好」,「カテゴリー2:マイクロ化されておらず,原紙の状態が不良」,「カテゴリー3:マイクロ化されているが,撮影不良」,「カテゴリー4:マイクロ化されているが,なんとも評価しかねる」,「カテゴリー5:マイクロ化されており,フィルムの状態も良好」,「カテゴリー6:BLNLが既にマイクロフィルムを所蔵。対処の勧告なし」調査時点における原紙・マイクロフィルム両方の劣化状態を把握でき,何から手を付けるべきかが鮮明に浮かび上がってくるのである。

その始まりから数えてすでに15年を超えた壮大なプロジェクト,NEWSPLANの最近の大きな話題を一つ。保存活動の第1段階となる全地域の地方紙所蔵実態調査が1996年に完了し,いよいよマイクロ化の実施という第2段階へ本格的に突入した1999年春,英国の宝くじ基金(Heritage Lottery Fund)より500万ポンドがNEWSPLANへ贈られた。これは,1800年から1950年までの3,460紙83,816リールのマイクロフィルムと800台のマイクロフィルムリーダー導入,しめて1630万ポンドという計画に生かされる。

ところで,日本では,どのように地方紙の保存活動が行われているだろうか。主な活動としては,日本新聞協会と国立国会図書館の保存協力が挙げられる。これは,日本新聞協会に加盟している新聞社の地方紙を,国立国会図書館がマイクロフィルム化し,そのネガを同図書館が新聞協会からの委託を受けて保管するというもの。ネガの品質調査も定期的に行い,劣化の激しいものは第二世代ネガを作成している。全国の各図書館や各新聞社は,このネガをマスターとしてポジフィルムを作成し,資源の共有を図っている。また,国立国会図書館では,複数機関による労力の二重投資を避けるため,全国の新聞の所蔵情報をデータベース化し,マイクロ化計画の基礎資料とするべく整備を行っている。

木下 雅美(きのしたまさみ)

Ref: Stoker, David.Editorial:should newspapers preservation be a Lottery?J Librariansh Inf Sci 31(3) 131-134, 1999
The British Library Newspaper Library. NEWSPLAN [http:www.bl.uk/collections/newspaper/nplan.html](last access 2000.7.26)
Cowley,Ruth,et al. NEWSPLAN: Report of the Newsplan project in the North Western Region, September 1986-January 1990. 306p