カレントアウェアネス
No.211 1997.03.20
CA1119
障害をもつ利用者ならびに職員の災害時における避難計画
阪神・淡路大震災以後,災害と図書館について考える機会は増えている。とはいえ,建物の設備や図書館家具の地震対策,冠水した図書館資料の修復については具体的な提言があるが,災害対策マニュアル作成についての報告や提言はあまりないようである。ここに紹介するのは,米国で発表された,図書館における障害者(利用者,職員)の避難計画についての提言である。この提言の中には,日本の図書館がまだまだ取り組んでいないことも多々あり,今後の課題を見出す上で参考になるであろう。
1)考慮すべきこと
- 通常の業務時間帯と,週末や夜間など小人数で業務を行う時間帯とでは,避難計画も異なる。
- 職員の入れ替りに対応できるよう,計画は実行・改定しやすいものでなければならない。
- 完璧な避難計画は存在しない。
- 図書館は,障害者に少なくとも災害時の対処法についての情報を提供しなければならない。
2)設備設計上の考察
- 音声による警報と同時に,一定の強度と色で光るといった視覚に訴える警報装置が必要である。
- 一時避難場所へのわかりやすい避難路を定め,読みやすく,目立つように表示する。
- 吹き抜け,張出しのバルコニー,通路,防火防煙壁で囲まれたロビーなどを一時避難所に定め,わかりやすく表示する。一時避難所には送受信可能の通信設備が必要である。
3)計画の展開
- 避難管理計画の展開 図書館は消防や警察と協力し,障害者の避難誘導のための専門的意見をだしあい,緊急事態におけるそれぞれの責任を把握する。
- 連絡の一本化 災害時に関係諸機関と直接連絡をとる担当者を事前に定め,避難誘導員として全館に配置されたその他の職員はその担当者を通して連絡を取り合う。
- 簡明な情報の提示 避難路を示す案内図と災害時の対処法についての簡明な情報を人目に付く場所に掲示する。案内図を伴った文章情報を障害者が即座に利用できるようにする。そして,全ての職員が避難手順についての文書を必ず入手しておく。
- 避難誘導員の選任 緊急事態においては,担当の職員がそれぞれのエリアを見回り,そこにいる利用者に緊急事態を知らせ,指示を与え,エリア全体を調べ,援助を必要とする人を捜す。
- 避難誘導員の養成 図書館職員の責任とは,救助が必要な事を救急隊員に連絡することと,援助が必要な人を一時避難所に連れて行くことである。この場合,避難誘導員は援助を必要とする人を一時避難所に残して,建物を出るべきである。
- 避難訓練 繰り返し行い,手順を確認しておく。
4)計画における個別的対応
- 視覚障害者の場合 視覚障害者が建物の配置に対応できるようにし,一時避難所を指示しておく。災害時の対処法は,拡大文字,点字,テープ,口答で提示する。盲導犬は災害,特に火事の時には避難誘導に適さない。
- 聴覚障害者の救助 緊急事態を伝える方法は,視覚による警報,文章による掲示,振動する警報機の提供,簡潔に避難路を指示する案内板である。
- 身体障害者への援助 図書館員がすべきことは,動けない人を一時避難所まで移動させ,その後は自らは建物の外に避難し,救急隊に一時避難所で救助を待つ人がいると伝えることである。車椅子の人は階下に降ろすべきだが,その際椅子は置いていく。
この提言から考えるに,障害者のための避難計画のポイントとは,いかにしてすべての人に非常事態であることを理解させるか,特別な方法での避難誘導を必要とする人をどのようにして判別するか,そしてどのようにすれば,肉体的な障害に関係なく,すべての人を安全な場所へすばやく移動させられるかということに要約される。これはどれをとっても非常に難しいことではあるが,様々な障害をもつ人が図書館を利用し,そこで働いている以上,障害者を考慮に入れた避難計画の作成は必要不可欠である。また障害者の安全を図ることは,すなわちすべての健常者の安全を図ることにもなるであろう。
北村 弥生(きたむらやよい)
Ref:Ragsdale, Kate W. et al. Being on the safe side. Coll Res Libr News 57 (6) 351-354, 1996
特集 阪神・淡路大震災と図書館 図書館年鑑 1996. p.225-296
特集 災害と図書館−阪神・淡路大震災から学んだこと 図書館雑誌89 (11) 895-919, 1995. 11