CA1117 – NYPLエクスプレス−アメリカの公共図書館有料サービスの一例として− / 阪脇孝子

カレントアウェアネス
No.211 1997.03.20


CA1117

NYPLエクスプレス
−アメリカの公共図書館有料サービスの一例として−

ニューヨーク公共図書館(NYPL)は,その名称に‘Public’とあっても,公立の施設ではない。その運営には,ニューヨーク州,ニューヨーク市からの拠出も受けているが,そればかりではなく,企業,財団,個人からの寄付にも依存している,民間の独立した非営利団体であり,4館のResearch Librariesと82館のBranch Librariesから構成される。このNYPLでは,通常の閲覧,貸出などの基本的なサービスを無料で行っているほかに,付加価値的な有料のサービスをも行っている。ここでは,同館の案内リーフレット類をもとに,NYPLエクスプレスと称する,有料の文献提供,調査サービスを紹介したいと思う。

NYPLエクスプレスは,世界的に有名な,NYPL Research Librariesの700万冊以上の図書,14万タイトルの逐次刊行物,といった豊富なコレクションを基盤に利用者の情報ニーズに対応している。情報源となる資料には,ビジネスや科学に関する資料,合衆国政府刊行物,国連などの国際機関の文書,地図資料,合衆国や他国の特許資料,19世紀後半にまでさかのぼり,他国のものも含む電話帳のコレクション,文学・歴史・人類学・社会学・心理学などの人文科学のコレクションなど,非常に幅広い分野のものがある。また他機関との連繋も行っており,より充実したサービスを可能にしている。豊富な情報を,速く,手頃な値段で,そして内密に提供するということをサービスのうたい文句としている。

1996年時点でのそのサービスの概要と料金体系は以下のとおりである。

文献提供サービス 直接NYPLに赴かなくても希望の文献のコピーが得られるサービスである。文献の料金は用意できるまでにかかる日数によって3つのランクに分かれており,2,3日中のStandardでは15ドル,申し込みの翌日中のRushでは25ドル,当日中の,Super Rushでは35ドルとなっている。ただしこの料金は最初の10ページの料金で,それ以上になると1ページにつき25セントの料金が加算される。NYPLの所蔵資料でない場合は,上記の料金のほかに経費が必要となる。さらに,文献の引用情報が不正確であったり,不完全であったために,調査が必要であった場合には,調査サービスをあわせて依頼することになり,時間に応じた調査料金が必要となる。なお,上記の所要日数はResearch Librariesの中でも,申し込みの窓口となっているThe Science,Industry and Business Libraryで利用可能な資料の場合の日数であり,それ以外の場所にあるものについては,もう少し日数がかかる。デリバリーの料金は,郵便の場合,最低3ドルの郵便料金と手数料がかかり,FAXの場合は最低料金は3ドル,市内の場合は1ページ50セント,長距離の場合で1ページ1ドル,国際の場合は1ページ3ドルということになっている。FAX,郵便のほかのデリバリーの方法として,Federal Express,NYPLの配達人による配達(ニューヨーク市街部のみ)なども選択できる。

調査サービス 専門的な同種の機関や,政府機関に連絡をとったり,さまざまな参考資料を用い,クイックインフォメーションや詳細な調査を行う。また,数百のオンライン商業データベースや,学術データベース,インターネット情報も活用する。料金はStandardとRushの2つのランクに分かれており,それぞれ必要な料金が違う。調査員に申し込みをしてから,いつまでに情報が必要かによって扱いが異なってくる。

Standardは1時間につき75ドル,Rushは1時間につき90ドルになる。15分ごとに料金は計算される。最低料金は半時間分である。また,これに加えてオンライン検索にかかった料金などが別途必要となる。

いずれのサービスでも,サービスを提供する速さによって,料金表にランクがあり,利用者が料金は多少高くついてもできるだけ速く情報を手に入れたいのか,それなりの料金によってそれなりの速さで入手できればよいのかによって,多少の選択の余地が与えられているのが特徴であるといえる。

さらに,このほかに,NYPLエクスプレスにはAlert Serviceと呼ばれるサービスがある。このサービスは,産業界や競争相手,製品,市場などの動向について,最新の情報を提供するために情報プロフィールを作成し,電子的に定期的なペースで更新する,というサービスである。このサービスについては,特定の料金設定はなく,個別に料金が設定される。

なお,これらのサービスの料金の支払いについては,銀行に口座を設ける,あるいはクレジットカードによる支払いという方法によって行う。

NYPLの行っているこれらのサービスは,図書館における有料サービスの一例である。1993年のFiscal Directory of Fee-Based Research and Document Supply Services. 4th ed. によれば世界中の図書館において400以上の有料サービスがあるとコフマンは言っている。コフマンは,アメリカの図書館の現状として,図書館の財政事情の悪化に加え,商業的な情報サービスが台頭し,図書館と類似のサービスをより利用者にとって満足の行く形で提供し,図書館にとって競争相手となってきている点を指摘し,そのような現状の中で,図書館の活力を失わずに,利用者のニーズに応えていくために有料制のサービスの果たす役割は大きいとし,有料制のサービスを支持する立場にたっている。公共的なサービスを提供すべき図書館において,有料制のサービスを提供することに関して,その是非について様々な議論があるだろうが,NYPLにおけるような有料のサービスが登場しはじめ,新たな図書館サービスを展開しはじめているといった現状は,図書館の将来を考える上で無視できないものがあるのではないだろうか。

阪脇 孝子(さかわきたかこ)

Ref:NYPL案内リーフレット類
Coffman, Stephen. Fee-based services and future of libraries J Libr Adm 20 (3/4) 167-186, 1995
CA914,CA1053