CA1104 – 中国の女性図書館員 / 中村邦子

カレントアウェアネス
No.209 1997.01.20


CA1104

中国の女性図書館員

中国の女性図書館員(以下女性館員)の現状に関する包括的な調査の結果が報告された。これは国家図書館,大学図書館,科学図書館,公共図書館等61館に対して行った女性館員の人数,年齢構成,職称に関する調査と,大学図書館,科学図書館,公共図書館等に勤務する女性館員400人に対して行った職業への関心,意識等に関する調査(回収率79.1%)の結果をまとめたものである。以下,興味深い調査結果を紹介する。

1. 年齢,学歴,職称

61館に勤務する図書館員4,621人のうち女性館員は57.9%をしめ,そのうち20〜30歳が約32%,30〜40歳が約39%,40〜50歳が約21%であった。北京図書館のような歴史が古く大規模な図書館ほど高齢の女性館員が多く,比較的歴史の浅い中小規模の公共図書館は若年層が多いという傾向が見られた。学歴については,大専(大学程度専門学校)が最も多く36.2%,ついで中学・中専(日本の高校・高専に相当)が32.9%,大学本科(4年制大学)が28.9%,研究生(大学院)が1.8%。高等教育を受けた者が67%を占め,女性館員の学歴は一般に高いといえる。館種別にみると,大学・科学図書館では大学本科以上の学歴を持つ者が多く,公共図書館ではその割合が比較的低いという傾向があった。

一方,彼女らの職称(注)を下から上へ順にみていくと,管理員12.8%,助理館員37.9%,館員39%,副研究館員8.1%,研究館員0.76%で,中級以下の階層にある者が多い。これは館種によって大きなばらつきがあり,科学図書館では館員以上の職称を持つ者が64.1%,大学図書館では50.8%,北京図書館では46.2%に対し,市区県レベル公共図書館では34.3%,かつ研究館員は0である。また,61館の女性館員のうち,部門の長の職にある人はわずか4.3%,館長職では1.4%であった。大学図書館ではこの割合が比較的高く,それぞれ12.4%,2%である。論文の著者は,中国の図書館事業において女性の占める割合は高いが,指導的な地位にいる女性はきわめて少ないということを指摘し,その背景にはなお男女差別,女性が高いレベルの職務につくことへの偏見が存在しているのではないか,と推測している。

2. 職業に対する意識

1) 図書館業務の重要性

女性館員400人に対する調査で,「図書館業務が心から好きであるか」という設問に対し,71%が「好き」と回答した。また,「図書館業務の価値とは」には,「読者のために奉仕する」と答えた者が63.5%,他に「平凡な仕事で満足が得られる」が30%,「自分が学習するのに好条件」3.2%であった。図書館員を職業に選んだ理由としては,「仕事の性質,環境が好ましい」が64.3%で最も多く,「歴史的な理由」「家庭的理由」を選んだものはそれぞれ15.5%,13%であった。

「図書館業務の重要性」に関する設問に対しては,58%が「重要」,「普通」が36%,「重要でない」はわずか2%であった。しかし,「図書館員の地位に対する認識」に関しては,「普通」と回答した者が54.5%,「低い」と回答した者が40%もあるのに対し,「高い」と答えた者はわずか2%であった。ここには,図書館業務の重要性に比べて地位が低いという女性館員の一般的な意識を見てとることができる。

2) やりがいと自己実現

「仕事に対して達成感があるかどうか」という設問に対し,48.7%が「あり」,47.5%が「なし」と答え,ほぼ同数であった。しかし,自分の専門性に満足しているかどうか,という点では,過半数(約54.3%)が不満と答えている。彼女らが現状に決して満足しておらず,そのことがさらに達成感,自己の向上を求めようとする内的要因となっているのではないか,と著者は分析している。

また「何によって自己の発展が得られるか」,という問いには,84%が「自分の職業に励むこと」,12%が「専門的著作をすること」,3%は「個人の興味を発展させること」,と答えている。さらに60%以上が論文発表もしくは訳著書の出版の経験がある。自己発展の主要な要素は「自分自身」(54.5%),「労働環境」(25.7%),「社会的要素」(14.4%),「家庭的要素」(5.8%)であると答えている。

すなわち,過半数の女性館員は,自己の発展は自己の意志,努力によるものと認識している。なお,望ましい訓練方式としては,「OJT」(67%),「技能訓練」(11.3%),「学位教育」(12.6%)があげられていた。

3) 今,関心をもっていること

彼女らの目下の最大の関心事は,「職称」(42%),「子女の将来」(20%),「賃金」(19%),「生活条件」(9.8%),「学問の探求」(6%)である。これらについては,

  1. 職称への関心は自分の職業,仕事に対する評価を求める心理の表れであり,また,待遇,収入への関心に密接に関わっている。図書館員の賃金が比較的低いということは避け難い現実であり,人材の確保,養成などに大きな影響を及ぼしている。
  2. 中国の人口は大変多く,子女の進学,就職競争は激烈である。母親として,彼女らが,子供たちの前途に重大な関心を持つのは十分理解できる。とりわけ中国女性は家庭を重んじる,ということも,子女の問題を重大な関心事たらしめる一因であろう。
  3. 学問に関する関心が高いのは,20〜30代の若い女性館員で,より造詣を深め絶えず自己を向上させたいという希望が現れている。

と分析されている。

3. 将来に対する意識

「図書館事業の発展を信じるかどうか」,という設問に対し,62.5%が信じる,9.5%が信じない,と回答した。また,技術が急速に発展し,図書館へのその応用が進んでゆく中で,現代技術の習得が図書館での仕事に必須とされるであろう,という点をふまえた設問「新技術の学習に興味があるか」には,78%が興味があると答え,興味がないとしたのはわずか7.5%であった。

最後の設問は「次に職業を捜す時の考え方」というものであった。いわゆる「人材流動」の傾向を調べるサンプル調査としての意味をも持つ設問で,結果は,「図書館員を続ける」が29.5%,19%が「医師」,10.4%が「教師」,7.5%が「弁護士」,6%が「記者」になりたいという回答であった。特に中年以上の女性館員の多くが「図書館員を続ける」を選んでおり,すでに豊富な経験を積み,職業に強い愛着があるためであろう,と推測された。また,教師になりたい,と答えた者は大学図書館員に多く,大学では教師の地位が図書館員に比べ明らかに高いのがその理由と考えられている。医師,弁護士,記者を希望する者は20〜30代に多い。その他,市場経済の影響で,商業方面への転職を考えるものも少数だが現れている。

調査結果のまとめとして,著者は次のように述べている。「中国の女性館員は,図書館員の半数以上を占め,中国の図書館事業をしっかりと支えてきた。彼女らの多くは図書館事業を心から愛し,職業を重んじ,利用者に奉仕している。また,決して現状に甘んじることなく,引き続き教育を受けたり,研究に従事したりすることを希望し,絶えず自己の向上をめざしている。社会的地位の低さという問題はいまだ存在するが,それにもかかわらず彼女らの半数以上は図書館事業の未来を信じている。そして,未来の図書館事業の発展による需要に応えるため,新技術の習得を熱望している。」

中村 邦子(なかむらくにこ)


職称:中国における各職種の職階名。職務ランキング名・国家資格的な性格を持つ。大学教員のランクに準じ,職種ごとに4〜5ランクに分けられている。図書館関係では研究館員が教授に相当,以下副研究館長が副教授,館員が講師,助理館員が助教に相当し,さらにその下に管理員という職称がある。

参考:「最新中国情報事典」小学館1985
「中日辞典」小学館1994

Ref:張樹華他・中国女図書館員的数量,結構及心理状態分析,中国図書館学報21(5) 64-69, 1995