CA1089 – 子どもの図書館利用を妨げるもの / 佐川祐子

カレントアウェアネス
No.206 1996.10.20


CA1089

子どもの図書館利用を妨げるもの

公共図書館の数は年々増加し,最近ではマルチメディアも導入され,利用者の多様な情報要求に応えられるようになってきた。しかし,はたして利用者にとっての使いやすさは向上しているのだろうか。

テキサス州のダラス公共図書館は,図書館が子どもにとってやさしい場所であるかどうか,どんな要因が子どもの利用を妨げているのかを調査した。財政難により,子ども向けのプログラムを減らしたり,一般成人向けのサービスにのみ力を注ぐ傾向が現れている。子ども向けのプログラム自体も時代遅れで,改善されていない。その結果,公共図書館は子どもの利用しやすさに関心を払わず,改善の努力を怠っているのではないか,という懸念が広がっているためである。

調査のために,9人の児童図書館員と分館長,奉仕部門担当副館長から成る委員会が設置された。委員会は,ダラスの図書館のすべての児童図書館員に対して,アンケート調査を行った。また,人口10万人以上の38の図書館の青少年サービス担当にもアンケート調査を行い,さらにダラス公共図書館の利用者などにも意見を求めた。

その結果,子どもの図書館利用を妨げる要因として大きく次の7点があげられた。図書館へ来館する時間や手段がないこと,身体的な制約,罰金の問題,心理的な問題,言語や文化の壁,図書館が行うプログラムの問題,そして図書館に対する一般的な理解がないことである。これらの問題点に対して,委員会では,予算のあるなしにかかわらず実施できるような,様々な解決策を提言している。また,実際に行われているプログラムや取組みの例も示された。

どの問題点にも共通して示されている解決策として,子どもたちのまわりの大人である親,保護者,ボランティア,関連施設の職員,教員への働きかけがある。子どもを図書館に連れてきてもらうこと,そして図書館の外でも子どもと本を結び付ける試み(おはなし会など)を行ってもらうことなど,まずはまわりの大人を啓発することの大切さが強調されている。

また,館内における利用しやすさについては,書架やカウンターの高さ,椅子や机などへの配慮や,子どもたちと上手にコミュニケーションをとり,質問に応えるための職員の技能の向上,さらにティーンエイジャーの居場所を作ることなどがあげられている。特にティーンエイジャーの図書館離れに対する方策には,図書館の会議室やパティオなどを解放して,自動販売機をおいたりピザ・パーティーを開くといった,積極的に彼らを迎え入れる姿勢が見える。

さらに,図書館についての理解を深め,利用を促進するためのPRについても,再三あげられている。配布物やメディアを通してのPRだけでなく,PTAの会合に出席したり,教師と懇談会を開いたりと,職員自らが地域に直接出向いていくことも言及されている。

アメリカが現在抱えている社会問題を反映したものも少なくない。識字率の低下や民族問題により,英語が話せない,読み書きができない利用者への対応が問題となっており,それは子どもたちの図書館利用にも影響を与えている。

さらに,子どもたち自身の言語の問題だけでなく,彼らの親たちが子どもに本を読んであげたり勉強をみてあげられない,また図書館についての理解がないことが,大きな障害となっている。これに対し,図書館に2か国語を話せる職員やボランティアを置いたり,家族一緒に参加できるおはなし会を開いたりすることが,提言されている。

この他にも,暴力団から子どもたちを守るためのプログラム,低所得者層へのサービスなど,多岐にわたっての具体策が示されている。

こうした問題点やその解決策から見えてくるのは,子どもの視点に立って使いやすさに配慮することは,いわゆる社会的弱者である利用者の使いやすさを考えることにつながる,ということである。実際,子どもの使いやすい施設や設備には,身体障害者に対して備えなければならない自動ドアや低書架,「話す」コンピュータなどが役に立つということも,解決策の一つとしてあげられている。

日本では,やっと学校訪問や学級招待のような学校との連携が重視されるようになってきたところである。旧態依然としたサービス,利用者の使いやすさに配慮しないサービスを行っている危険性は,アメリカ以上に高いのではないだろうか。子どもの使いやすい図書館こそ,利用者全体が使いやすい図書館であることを認識する必要があるだろう。

杉並区立中央図書館:佐川 祐子(さがわさちこ)

Ref.: Dixon, Judith. Are we childproofing public libraries? Pub Libr 35 (1) 50-56, 1996