CA1088 – 図書館の社会的役割の再構築−生き残りのための12の道− / 田中久徳

カレントアウェアネス
No.206 1996.10.20


CA1088

図書館の社会的役割の再構築
−生き残りのための12の道−

米国では,電子図書館時代の到来を迎え,図書館の社会的位置づけを再検討する議論が生まれている。特に,公共図書館の社会的役割を改めて積極的に見出そうとする動きが,電子テクノロジーの時代のなかで図書館の役割が縮小視されていくのではないかという潜在的危機意識を背景に広まる気配を見せている。

その一例が,ALA(アメリカ図書館協会)の機関誌,American Libraries誌が提案した「米国にとって図書館が役立つ12の道」と題する目標である。21世紀の社会において図書館がさらなる役割を担うために達成するべき課題として,次のものが列挙されている。

  1. 市民への情報提供:図書館と民主主義は互いを必要とする関係にある。図書館は専制政治に対抗する唯一の機関である。年齢,人種,性別,貧富の差を超え,図書館は万人が知識を利用可能にする。これにより,市民は統治に必要な決定を自ら行うことができる。
  2. 障壁の除去:図書館は,非識字者,低学歴者,非英語話者などに無料のリテラシープログラムを実施し,自己教育やコミュニケートの障壁を取り除く。
  3. 機会均等:コミュニティの構成員すべてが平等に図書館の資源を利用できることで社会の機会均等を保証する。電子情報の拡大は情報格差の拡大を生み,図書館の巨大な公平装置としての役割にとって危険である。
  4. 個人の尊重:図書館の蔵書は,それを必要とするすべての個人のものであり,通説に挑戦する探求精神を育成する。
  5. 創造性の涵養:図書館は人々の好奇心をかきたて,創造性と想像力の2つの力を与える。図書館に蓄積された思想は,革新の精神に誘発され新たな価値を生む。図書館は,社会の適応と進化にとって不可欠な組織である。
  6. 子どもたちの心を開く:学齢前幼児への物語の時間から高校生の職業プログラムまで,図書館は発達途上の子どもたちすべてを助ける。
  7. 高い配当を返す:図書館はビジネスの成功など個人の目標達成に必要な情報を提供する。連邦政府が,この四半世紀に公共図書館の援助のため支出した総額は,航空母艦1隻にも満たない額(約35億ドル)である。
  8. コミュニティの構築:図書館は学者から同性愛者まで多様なコミュニティを支える。コミュニティの構築とは,図書館が人々を情報と結び付けることである。図書館員は,利用者の情報スーパーハイウェイの航海を助ける。多くのアメリカ人は,図書館を通じて初めてハイウェイにのる経験を持つ。
  9. 家族を親密に:薬物,離婚,暴力など現代のアメリカ家庭は社会問題を抱える。図書館は家庭教育支援など多彩なサービスを用意して時代の要請に応えている。
  10. 誰かを不快にさせる:非寛容が増大しつつあるアメリカ社会で,誰かを不快にさせることを避けてはならない。問題のあらゆる側面を見ることができるように図書館の平等主義と公開性が維持されなければならない。
  11. 聖域の提供:図書館は畏敬の念を起こさせる神聖な場所である。コンピュータネットワークは情報アクセスに優れるが,人類の経験や知識の巨大な神秘の総体としての物理的感触を持ってはいない。
  12. 過去の保存:図書館は,コミュニティの過去を記録する。現在と未来の世代は,過去の過ちを学び,業績を活用できる。時空を超えたコミュニケートを可能にする図書館の仕事は,新しい電子的環境下でも続けられる。

ここに示された方向性は,伝統的な公共図書館の役割を再確認する一方で,電子情報環境の時代を意識し,それを包含したサービスを模索している。この点で,電子図書館と対置する形で「場所としての図書館」を再定義し,情報提供機能にとどまらない社会的機関としての図書館の役割を示したバゾールの主張と相通ずるものがある。いずれにせよ,7.で社会的費用対効果を主張し,9.のように社会問題との積極的関わりを強調するなど図書館の「生き残り戦略」を意識していることは特徴的である。

田中 久徳(たなかひさのり)

Ref: 12 Ways libraries are good for the country. Am Libr 26(11) 1113-1119, 1995
Birdsall, William F.電子図書館の神話 勁草書房 1996. p. 213-216