カレントアウェアネス
No.200 1996.04.20
CA1062
ナイジェリアにおける視聴覚資料の保存への取り組み
視聴覚資料は,文字情報だけでは提供できない情報を提供できる。また,この特徴を利用した教育は,効果的な学習方法として認められ,広く採用されている。従って,大学図書館をはじめとする図書館や情報提供施設において,図書や雑誌などとともに,視聴覚資料の積極的な利用の促進とそのための整備が望まれる。
一方,視聴覚資料の大部分は,情報の媒体自身が不安定な素材であるため,紙に印刷された資料に比べると,保存上の問題が多い。さらに,情報の読み取りには,再生装置を必要とするため,情報媒体とともにこうした機器類の維持保管も要求される。
この様な視聴覚資料の保存における問題と取り組みを,ナイジェリアを例として具体的にみていこう。
問題点として第1に,ナイジェリアをはじめとする西アフリカ諸国の高温・多湿な気候は,資料にとり,望ましくない。雨季には,かびが発生しやすく,乾季には,資料が巻き上がったり,粉々に崩れたり,折れやすくなる。そのため図書館員は,館内の空調および資料の状態に絶えず注意を払わねばならない。第2に,書庫スペースはいうまでもなく,施設が狭い。このため,貴重書や劣化の進んだ資料を分けて保管したり,視聴覚資料やその機器類を,ほこりを避け,冷暗所に保管したりすることが難しく,利用に必要十分な空間を確保できない。3番目に,全体的な問題として,図書館員の訓練不足や資料を扱う姿勢がある。機器類が複雑なため,視聴覚資料を操作できない,シリカゲルのような基本的な薬剤の取り扱いを知らない等,資料保存に必要な情報や,適切な知識が普及していない。またこうしたことを学ぶのに,消極的な人がいる。問題の解決には,適切なプログラムと,訓練の機会が必要である。つぎに,発展途上国特有のこととして,電気設備の不整備があげられる。温・湿度の管理ができない。視聴覚資料用の機器類が適切に作動しなかったり,過剰に電気が供給された結果,熱により機器が傷むなどの問題もある。この他にも,盗難,害虫,大気汚染,財政不足,利用者の資料の扱い方などが指摘できる。ただしこれらの問題は,程度の差はあるが,途上国以外の図書館においても指摘されることだ。
資料保存問題に積極的に取り組んでいるアメリカ図書館協会では,視聴覚資料を扱うために少なくとも1館に1人,常勤の専門家を雇うことを推薦している。しかし,ナイジェリアでの実施は不可能であり,将来的にも無理だろう。いま現在この国においてできることは,まず問題のありかを示し,そのうちの解決できるものから検討し,対策を立てていくことである。そこから資料保存は始まる。
Nnamdi Azikiwe大学のOnwukaらは,以上のような考えに基づき,図書館において視聴覚資料を整備し,維持,管理,保存していくことの必要性を訴え,次のような提案を,ナイジェリア政府に対し示した。――1. 保管,保存,サービス提供および利用のための,より広い施設の提供;2. 資料に対し適切な処置を施すための,1館につき最低1人の十分な知識を持ち,訓練を積んだ図書館員の配置;3. 図書館施設の全てへの,空気調節器と除湿器の早急な設置;4. 各図書館に電気を断絶なく供給するための変圧器の設置;5. 貴重書や高価な器具および劣化資料のための,頑丈で,錆びにくい棚の設置;6. こうした要求を満たすための,十分な財源の確保;7. 視聴覚資料の利用促進とマルチメディアセンターの設置。
視聴覚資料の問題というと日本国内や欧米では,媒体および再生装置類の保存や維持,管理よりむしろ媒体変換や情報への検索手段の確保といったことが問題として取りあげられる。しかし,経済状態の異なる第3世界においては,媒体の変換や機器類の更新は容易でない。財政状況を考えると,現在提供できている情報は,できるだけ長期にわたり,現在の形式において提供できるよう保存していくほうが確実であり,賢明である。このため,視聴覚資料の保存に対しても,ナイジェリアのような取り組み方が生まれてくる。
このように,資料保存問題は,それぞれの図書館が,自分の図書館の要求に合わせ,情報提供のためには,何を,どの様に,どのぐらいの期間保存していくかを考え,いまできることにもとづいて対策をたて,実行していくことが大切である。
村本 聡子(むらもとさとこ)
Ref: Ezennia, Steve E. et al. The battle for preservation of library materials in Nigeria. Library & Archival Security 13(1) 29-39, 1995
特集/図書館資料を問うII−視聴覚資料 現代の図書館 33(3),1994