9.公共図書館の相互貸借とNDL総目事業の今後の課題
都道府県立図書館及び政令指定都市立図書館中央館のOPACあるいは県域の総合目録による書誌データの公開状況はめざましいものがある。その一方で,相互貸借業務については負担を感じている図書館が多い。全国規模の統計からも相互貸借(貸出)冊数は増加し続けていることが分かる。<アンケート>によると都道府県立図書館や政令指定都市立図書館中央館の相互貸借業務は,平均3人を配置し(職員1人,非常勤職員2人),担当者はカウンターや参考業務などと兼任している。
貸出関係の統計全体から見ると相互貸借(貸出)冊数はわずか0.3%ではあるが,業務遂行上の負担の蓄積は大きくなっている可能性がある。実際に,①資料送受に係る費用の問題,②図書館間の相互貸借のルールやマナー遵守に関する問題,③加えて図書館や個人利用者からの問合せ対応の問題などを抱えている。NDL総目事業は,その主な目的を「国内の公共図書館における…」と定めていること,また<アンケート>において,業務上の負担感の原因の中に「NDL総目へのデータ提供」を挙げる館も見受けられたことなどから,前述の①〜③問題とは無関係ではないと考えられる。ここに若干のコメントを付すこととしたい。
9.1 資料送受に係る費用の問題について
インターネットを通じた情報提供サービスの充実に伴い,利用者は様々な情報源から求める資料や情報を探せるようになっている。また,公共図書館の貸出関係統計は増加傾向を示していること,一方で図書館の資料購入費は増加よりもむしろ減少傾向にあることを考えあわせると,利用者の身近な図書館において要求を満たせない時に相互貸借の要求となってあらわれる場合も増してくると思われる。
そうした変化の中で過去と現在,そして未来にわたって課題となるのは,資料送受に係る費用への対応である。公共図書館間資料相互貸借指針(地区を越える相互貸借に適用される)では,経費の負担(第九条)を「前条で定める資料の貸出し又は返却資料の送付に要する経費は,すべて借受館が負担するものとする。ただし,双方の図書館で合意に達した場合は,この限りでない。」とされている。
<アンケート>結果からは,相互貸借の借り受けについて,都道府県内から借り受ける場合の経費は,ほとんどの回答館で図書館において負担していた。所属ブロック内・外から借り受ける場合は,約7割の回答館で図書館において負担し,約3割の回答館で利用者に送料の支払いを求めていた。そして資料送受に係る費用については,ほとんどの回答館で増加の傾向にあった。こうした状況は,公共図書館の経営に変化をもたらす機会として活かされることが必要になってきていると考えられる。
9.2 図書館間の相互貸借のルールやマナー遵守に関する問題について
公共図書館間資料相互貸借指針では,資料相互貸借の原則及び貸借資料の範囲(第四条)第2項において,「この指針に基づく相互貸借資料の範囲は,他の適用館から借り受けをしようとする資料が,自館又は自館が属する都道府県内若しくは地区内の他の公共図書館において,原則として未所蔵の場合のみとする。」とされている。これに,NDL図書館間貸出制度の考え方(「資料の最後の拠り所」)を組み合わせると,国内公共図書館間における相互貸借依頼順序の基本的な考え方となる。ある館が他館の資料を利用したいと考えた場合は,相互貸借依頼順序の基本的な考え方を道しるべとしながら,利用者の要望と各館における資料利用ルール,都道府県内の相互貸借ルール及び地区内の相互貸借ルールを勘案して依頼等を行なうこととなる。<アンケート>結果から,相互貸借に関する困った事例の主なものは,書誌情報の不備(14件),新刊や購入容易な資料への貸出依頼(13件),「県内→所属ブロック内→所属ブロック外へ」という依頼順序が守られていないこと(13件),であったように,公共図書館間の相互貸借のルールやマナーを守らない(または守れない)例は依然として存在している。
9.3 図書館や個人利用者からの問合せ対応の問題について
国内図書館の蔵書目録や総合目録等の検索サービス公開の動きは,図書館の業務・サービスにとって歓迎すべきものである。一方で情報を入手した図書館や利用者からの連絡・問合せ件数及び相互貸借件数等にどのような影響を及ぼすのかという業務上の懸念を生んでいる。公共図書館では,地域に「在勤・在学・在住」する人々をその利用者とし,それ以外の人々については,その地域に関する調査相談(レファレンス)の受付窓口のみ設置する場合が多くみられる。他館の所蔵資料の利用相談については,相互貸借のルールやマナーの観点から,利用者が普段利用している最寄りの公共図書館を通じて受付けている場合が多い。一般に総合目録は,資料に関する情報(書誌情報)と資料の所在に関する情報(所蔵情報)を扱うため,所蔵館名は相談先と思われがちである。しかし前述のように,公共図書館の他県からの資料利用においては,最寄りの公共図書館を相談窓口に想定しているため,利用者との間に認識の齟齬を生んでしまう場合がある。利用者と図書館の双方にとって分かりやすい相互貸借制度の運用努力が必要と考えられる。
9.4 NDL総目事業の今後の課題について
平成16年12月にNDL総目システムの検索機能を一般公開したことは,NDL総目事業にとって大きな状況の変化である。先に挙げた公共図書館の相互貸借に関する問題とも関連しながら,検討すべき課題がある。
9.4.1 データ提供対象館の範囲に関する課題について
現在のNDL総目事業の参加対象は,図書館法に基づく公共図書館または国立国会図書館長が総合目録ネットワーク事業の遂行上特に必要があると認める図書館とし,データ提供対象館は,NDL,都道府県立図書館及び政令指定都市立図書館に限定している。このため,平成17年3月現在,926館の参加館が51館の和図書の書誌データを検索し,県域を越えた相互貸借の依頼を行っている状況にある。なお,平成17年3月現在のNDL総目事業のデータ提供対象館(NDL,都道府県立図書館及び政令指定都市立図書館中央館)は70館である。『日本の図書館:統計と名簿 2004』(日本図書館協会)によると,国内の公立図書館は約2,800館存在する。NDL総目事業では,参加館数が増えれば増えるほど,相対的なデータ提供館数は少なくなっていく構造になっている。
県域を越えた相互貸借(貸出)の状況を,<統計調査>結果を元に算出すると,データ提供館では1館あたり年間約500冊,データ提供していない図書館では1館あたり年間約200冊となった。この差は,NDL総目事業の主な目的である,「国内の公共図書館における図書館資料資源の共有化,(中略)公共図書館の県域を越える全国的な図書館相互貸借等を支援すること」に多少なりとも寄与した数値と評価できる。一方で,この程度の差にしかならなかった原因は,データ提供館が,相互貸借(貸出)冊数の増加傾向による図書館の資料送受に係る経費の問題,相互貸借のルールやマナーを守らない(または守れない)図書館の問題,図書館や個人利用者からの問合せ対応の問題などを抱え,また前述した相対的なデータ提供館数の少なさというNDL総目事業の構造上の問題とあいまって,貸出依頼の受付けを厳しくするなどの対策を余儀なくされたためとも考えられる。
9.4.2 NDL総目事業の事業計画策定に関する課題について
データ提供対象館の範囲に関する課題は,NDL総目事業ばかりでなく,公共図書館の相互貸借に関する課題の多くについても,解決の道を開くものではないかと考えられる。パイロット電子図書館プロジェクト報告書の刊行から約10年間取組み続けた一般公開という課題は達成された。次の10年間はデータ提供対象館の範囲の課題に取り組む段階へと移りつつある。再度NDL総目事業の目指す姿を描き出し,少しずつでも課題の達成に向けて進めていく必要があると考えられる。