6. 「子どもと情報・メディア」に関わる現場の動き

6.1. 学校における動き

6.1.1. 情報教育

 子ども向けのインターネットサイト「キッズgoo」の2004年のユーザー調査によると,インターネットを使い始めた時期は,「小学生1年生」が1位,3~5歳が2位であるという(渡辺純子 2005)。これほど低年齢にまで普及しているインターネットであるが,学校教育のなかにインターネット教育が本格的に導入されたのは,1994年開始の「100校プロジェクト」であった。

 「100校プロジェクト」(ネットワーク利用環境提供事業)は,文部省(当時)と通商産業省(当時)の主導で財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)と情報処理振興事業協会(当時)(IPA)により1994~1996年に実施されたプロジェクトで,1997年からは「新100校プロジェクト」(高度ネットワーク利用教育実証事業)に引き継がれ1998年に終了した。その後を受けて1999年に始まったのが,全国の学校がインターネット利用教育を実践するための支援プロジェクト「Eスクエア・プロジェクト」で,2002,2003年度には IT教育改善モデル開発・普及事業として「Eスクエア・アドバンス」(先進的モバイルを活用し博物館と連携した環境調査活動)となり,2005年からは「Eスクエア・エボリューション」が開始されている。CECのウェブサイトによると,Eスクエア・エボリューション事業の目的は,「平成16年度から18年度にかけて,初等中等教育現場におけるオープンソース・ソフトウェア(OSS)導入実証実験において得られた成果を踏まえ,“教育分野におけるIT環境の選択肢の拡大”,並びに“教育現場のニーズに合致したIT環境の整備”を実現すべく“マルチプラットフォーム化の促進”を図る」とされており,この名称は,「Eスクエア・プロジェクト」「Eスクエア・アドバンス」を更に展開・進化させるという意味を込めたものだという。

 また,1996年には,NTTを中心とした企業が,文部省(当時)の協力により「教育でのマルチメディア環境の整備と活用」を推進するために「こねっとプラン」を開始した。この事業も,学校の環境整備を支援するとともに,全国の小中高等学校をネットワークで結び,会議による学校間交流や遠隔授業など,新しい情報教育のあり方を提示したものである。

 これらのプロジェクトのサイトには,それぞれに「教育用画像素材集」や「教材(リンク集)」など,IT活用のために役立つさまざまな情報がリンクされている。そのなかのひとつに「授業実践事例検索システム」のページがあるが,それは「授業実践のマトリックス」のなかから適切な箇所をクリックするようになっており,この実践の分類表を見ることによって,IT利用教育事例の全体像が把握できる。

 この分類表には,縦軸に「IT活用の要素による分類」として「先進的なハードウェアの活用」「先進的なシステムの活用」「自作教育ソフトの開発」「市販教育ソフトの活用」「インターネット上のコンテンツ活用」「コミュニケーション手段としての活用」「プレゼンテーションツールとしての活用」「ITスキルの育成」「その他」の9項目が挙げられている。横軸には「学習形態による分類」として,「普通教室」「PC教室」「グループ学習」「交流学習」「遠隔学習」「その他」の6項目列挙されている。「ITの活用の要素」と「学習形態」による組み合わせが実践のタイプということになる。「インターネット上のコンテンツの活用」「コミュニケーション手段としての活用」「ITスキルの育成」の要素や「PC教室」「交流学習」という形態による実践が多いことが,表から見てとれる。

 コンピュータは,ドリル型学習の道具として用いられたり,子どもの関心をひきつけることのできるマルチメディア教材提示装置として利用されたり,さらに「子どもの思考過程,動機づけなどを考慮し,真の意味で学習者を助ける“思考の道具”として」利用されてきた。そして,「通信ネットワークという機能の出現と結びつき・・・教師と子どもだけであった教室を他の文化へ開き,さまざまな価値観や視点を持ち込むことになる」1(美馬 2007)という利用に広がってきた。

 このネットワーク機能と結びついたITとして,インターネットの利用教育の実践を考えてみると,①情報交流,②共同作業,③(共同)制作,④遠隔学習のタイプがあると考えられる。
 第1は,情報交流,すなわち,特定の相手あるいは不特定の相手との情報のやりとりである。例えば,美馬は1994年に,子どもが日常生活のなかでもつ疑問に,若手科学者たちが電子ネットワークを通じて答えるという「湧源サイエンスネットワーク」を構築した。

 第2は,情報交流だけでなく,そのことによって共同の作業がなされる実践である。学校間でディベートを行ったり,共同研究を行ったりした例は多い。例えば,伊丹市では,学校と昆虫館や研究者が共同でチョウの渡りの調査をした。

 第3は,(共同)制作である。例えば,「シンククエスト(ThinkQuest)」がある。これは,中高生2~3人とコーチ1~3人がチームを組み,他の生徒たちにも使えるようなWebページの教材を制作して成果を競うコンテストである。1995年に米国で始まったものだが,国際的な教育プログラムへと発展し,日本では1998年に日本語による第1回コンテストThinkQuest@JAPANが開催された。「学校の子供たちが先生と一緒になってパソコン上で使える(英語の)教材を作って,“科学・数学”“芸術・文学”“社会科学”“スポーツ・保健”“学際”の五部門で競い合うのです。公募形式ですから多くの教材がどんどん集まってくる。評価の基準には,内容自体のすばらしさだけでなく,応募にいたるまでの使用実績―ほかの学校でたくさんの人に使われたとか,感謝されて感謝状をもらったとか―も入っています。ですから応募者は,教材をつくって,とにかくみんなに使ってもらう。すると文句が出て,フィードバックがかかってどんどん改良される。そうしてから応募してくるのです。このようにいいものをみんなの力で分散的につくっていく。こういうところがインターネット的なつくりかたの一つの典型です」2と村井純(1998)はその意義を説明している。

 第4は遠隔授業である。「遠隔授業が本格的に取り組まれるようになったのは,学校現場にテレビ会議システムが普及しはじめた1997年頃からで,社会教育施設がもっている良質で豊富な学習資源を,距離に関係なく提供することができ,同時にテレビやビデオ教材ではできない双方向の学習を実現できるようになった」3と堀田龍也(2001)は述べている。堀田はこのなかで,博物館や昆虫館,動物園,美術館などと学校をテレビ会議システムで結んで授業展開した多くの実践を紹介している。

 遠隔授業は「学校だけでなく,社会からダイレクトに本物情報を受けながら学ぶことのリアリティーを,ITが支援していく授業形態であり,子どもたちは,専門家の方と向き合って学ぶとき,その道のプロの方の言葉に感激します。専門家と一緒に学ぶことで,それまでは当たり前だとしか感じていなかったさまざまのできごとが,一つひとつ大切なものだったんだということに気づいていきます。このような子どもたちの興奮を近くで見ている教師たちは,自分たちは“教える”ことのエキスパートであるだけではなく,専門的な情報をもっている方が子どもたちの学習を支援することに参画してもらうためのコーディネータでもあるべきだということを実感していきます」4(堀田 2001)。

 このように,堀田は,「子ども」と「メディア」を傍で支える「大人の存在」の意義を明確にしているが,美馬のゆり(2007)もまた,「子ども」・「メディア」と同時に存在する「大人」について言及している。「この湧源サイエンスネットワークの実践の結果,子どもたちは不思議に思うことを見つけ,その疑問を追及し,広げていくことのおもしろさを発見していくこととなった。それはまた子どもの側だけでなく,子どもに答えることを通じて,科学者が世界を分かり直したり,科学観の違いを意識したりしながら,日常の問いを深めていくことのおもしろさを見つけていった。子ども,科学者,2つの異なる共同体がネットワークを通じて出会うことにより,学び合いの世界が構築されたといえる」5。ここには,指導者という立場から関わるのではなく,子どもの共同体と同じ次元で交流しあう大人の共同体の姿が示されている。

6.1.2. メディアリテラシー教育

 FCTメディア・リテラシー研究所が,創設15周年を記念して,1992年に『メディア・リテラシー:マスメディアを読み解く』を出版した。カナダのオンタリオ州教育省が刊行したガイドブックを翻訳したもので,メディアリテラシーの目標は,「子どもたちがメディアとその日常生活における役割に関してクリティカルに対処できるようになるよう援助するところにある」6としており,反響を呼んだ図書であった。

 このメディア・リテラシー教育は,学校教育のなかでは1999年ごろより少しずつ行われるようになったと藤川大祐(2001)は述べている。藤川はその根拠として,1999年以降,次々に起こってきた新しい動きを,7項目挙げている。

(1)1999年4月,NHK「教育トゥデイ」が学校でのメディア・リテラシー教育実践を初めて取り上げた。

(2)1999年日本民間放送連盟がメディア・リテラシー教育番組「てれびキッズ探偵団:テレビとの上手なつきあい方」を制作し,全国の民間放送局で放送した。

(3)1999年から2000年にかけて,当時の郵政省は「放送分野における青少年とメディア・リテラシーに関する調査研究会」を設け,2000年6月に報告書を出している。

(4)1999年から2000年にかけて,名古屋の民間放送局である東海テレビは,夕方のニュース番組などでメディア・リテラシーの話題を継続的に取り上げ,学校現場の授業実践の紹介も行っている。

(5)2000年3月,教育研究団体「授業づくりネットワーク」は「メディア・リテラシー教育研究会」を発足させてメールマガジンなどを活用して研究活動を進め,同年10月に『メディア・リテラシー教育の実践事例集』(学事出版)を刊行。

(6)2000年4月より,NHKは学校放送で小学校3・4年生向け番組「しらべてまとめて伝えよう:メディア入門」を放送し,メディア・リテラシーの基礎を扱っている。また,2001年4月からは小学校5・6年生向け番組「体験!メディアのABC」を放送し,本格的に映像を中心としてメディア・リテラシーを扱っている。

(7)2000年4月に開設された東京大学大学院情報学環・学際情報学府では,授業「情報リテラシー論」などでメディア・リテラシー教育の授業実践開発が行われている。

 そして,藤川は,メディア・リテラシー教育の授業実践のタイプを3つに分類している。すなわち,(a)テレビ番組などの分析をとおして,メディアの意図や技術を知り,メディアにだまされないようにする実践,(b)取材・撮影・編集など,メディアにかかわるさまざまな技術を学ばせる実践,(c)ビデオカメラなどのメディアを実際に使って,作品をつくって表現させる実践,である。

 自治体単位でのメディア・リテラシー教育の動きもある。

 静岡県教育委員会では,2001年2月「魅力ある教育づくり21世紀初頭プラン」を発表したが,そのなかに魅力ある学校教育づくりのひとつとして,小中高の公立学校におけるメディア・リテラシー教育の100%実施をめざしていくことが盛り込まれた。

 長野県教育委員会では,2006年4月に県内全ての小中高校に『メディアリテラシー教育の手引き』を配布した。また,福岡県の母子健康手帳には,全国で始めて「メディア(テレビやビデオなど)との上手なつきあい方」という2ページが加えられた。

 なおテレビとのつきあい方に関しては,「ノーテレビデー」も実施の広がりをみせている。もともと,「ノーテレビデー」の発想は,1996年に北九州の小児科医,伊藤助雄が2月29日をテレビ放送を流さないノーテレビデーにしようと提案したことによるもので,2000年に福岡県の保育園18園で一斉に月1回のノーテレビデー運動がはじまったという。2004年2月に発表された日本小児科医会の「『子どもとメディア』の問題に対する提言」は大きな影響力があり,「ノーテレビ・ノーゲームデー」の取り組みに拍車がかけられ,全国各地の保育園,幼稚園,小学校で実践されていった。2003年には,自治体ぐるみでノーテレビ・ノーゲームデーに取り組むところもでてきた。

6.1.3. 学校図書館担当者による情報リテラシー教育

 1997年の学校図書館法改正により,12学級以上の学校には2003年4月から司書教諭を配置することが義務づけられた。その司書教諭の役割として,「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議(文部省)最終報告」(1998)には,次のような記述がある。

学校図書館が学校の情報化の中枢的機能を担っていく必要があることから,今後,司書教諭には,読書指導の充実とあわせ学校における情報教育推進の一翼を担うメディアの専門職としての役割を果たしていくことが求められる。司書教諭は,情報化推進のための校内組織と連携をとりながら,その役割を担っていくことが必要である。具体的な役割としては,子どもたちの主体的な学習を支援するとともに,ティーム・ティーチングを行うこと,教育用ソフトウェアやそれを利用した指導事例等に関する情報収集や各教員への情報提供,校内研修の運営援助などが考えられる。

 司書教諭が「情報教育推進の一翼を担う」というのは,学校図書館界側から言えば,学校図書館による情報リテラシー(情報活用能力)の育成にほかならない。どの教科であっても,情報を使う力,つまり情報リテラシーは必要であり,教科を横断的にみて学校全体でどのように情報リテラシーを育成していったらよいのか,計画を立て,実施することが必要である。

 その計画の参考となるものが,全国学校図書館協議会が2004年に発表した「情報メディアを活用する学び方の指導体系表」である。小学校低学年・中学年・高学年,中学校,高等学校と段階的に,「学習と情報・メディア」「学習に役立つメディアの使い方」「情報の活用の仕方」「学習結果のまとめ方」の4領域について,体系的に学ぶ項目が表示されている。これをもとに各学校の実情に合わせて,それぞれに体系表を作成し指導計画を作成すればよい。そのリーダーとなるのが司書教諭である。

 特に,学校図書館資料を使った情報リテラシーの育成としては,調べ学習がその代表である。この調べ学習の成果を応募する「図書館を使った調べる学習賞コンクール」がある。「NPO図書館の学校」が1997年から開始したもので,年々応募数が増加するとともに,地域の自治体や民間団体の力が主体となって開催する「地域コンクール」の開催地も増加してきた。

 情報リテラシー教育のためのワークシート類の出版も目立つようになった。例えば,『コピーしてつかえる学校図書館活用資料集』(市川市学校図書館教育研究部会   2004),『学校図書館教育指導計画作成の手引き:実践ガイドブック:学び方ワークシート パート1』(横浜市小学校図書館研究会2006),『学校図書館学び方指導のワークシート』(全国学校図書館協議会 2007)などがある。これらには,従来の図書館利用に関することから,ファクスの使い方などメディア関連のこと,インタビューの仕方,ディベートの仕方などのコミュニケーション力を含めた学びかたに関すること,インターネットの検索や情報倫理など情報教育関連のものが含まれている。

 『学校図書館で育む情報リテラシー:すぐ実践できる小学校の情報活用スキル』(堀田,塩谷編 2007)などのテキストも出版されるようになった。著者の塩谷は小学校の司書教諭であるが,内地研修として大学院へ進み,その指導教官である堀田とともに本書を執筆したものである。現在,塩谷のように,現職の司書教諭や学校司書が,大学院で学んでいる例が見られるようになってきた。

 以上のような実践事例や実践のためのツール,テキストの出版の背景には,2003年4月から12学級以上の学校に配置された司書教諭や,各自治体で配置が進む学校司書の実践の蓄積と,学校図書館を対象とした研究の増加がある。学校図書館担当者が行う情報リテラシーの育成は,教科ではないので,「教科教育法」の科目がなく,そのテキストもないが,実践の蓄積により,指導法が少しずつ明文化されてきた。

6.2. 図書館,博物館,動物園の動き

6.2.1. 図書館

 『公立図書館児童サービス実態調査報告2003』(日本図書館協会 2004)によると,2003年度の都道府県立図書館では,児童用資料検索ツールをもつ館は58館中49館。そのうち利用者用端末機をもつ館は46館。児童用にインターネット接続のコンピュータがあるのは46館のうち22館で平均4.5台,利用制限時間を設けているのは19館,平均32.5分以内であるという。一方,市町村立図書館では,児童用資料検索ツールを持っているのは2,571館中1,865館(72.5%),うち利用者用端末機があるのは1,803館。インターネットに接続されたコンピュータがあるのは457館(17.1%),インターネット接続コンピュータの利用を年齢制限しているのは62館(13.6%)で平均9歳,利用時間制限があるのは384館(84.0%)で平均38.3分以内であるという。

 また,丸山有紀子ほか(2006)の調査によると,公共図書館で,児童用のホームページを設けているのは2005年に調査した701館のうち123館(17.5%)であるが,この児童用ホームページ上に,児童図書の蔵書検索ができるようにOPACを提供している館もある。そのなかで栃木県立図書館では,「本のさがしかた」がわかりやすく解説されている。「図書館(としょかん)でさがす」と「インターネットでさがす」に分かれ,後者には「パソコンを使(つか)いこなせ」と「めざせ!けんさくチャンピオン」のコーナーがある。また,東京都立図書館こどもページには,「調べものリンク集」が掲載されており,「YOMIURIインターネットてらこや」や「東京都キッズコーナー」など役立つ情報源へリンクされている。福岡県立図書館では,「調べ学習で図書館を使う(学校の先生へ)」として,調べ方の説明や,総合学習などで図書館を利用するときの申請書などが含まれている。

 このほか,岐阜県立揖斐高校図書館では,2006年から携帯電話を利用して新着図書情報・おすすめ図書を紹介するサービスを実施している。

 米国では,子どものための図書館サービスとして,「テレビゲームを図書館サービスのひとつに」という提案がシンポジウムで出されたという。2007年7月に「ゲームと学習と図書館に関するシンポジウム」がシカゴで開催され,図書館はテレビゲームを使って学習や教育をどのように支援できるかについて論じられた。テレビゲームを通じて科学の面白さを子どもに伝える取り組みや図書館によるテレビゲームを利用した学習支援に関するセッションが開かれ,シンポジウム終了後には,「Gaming, Learning and Libraries Symposium Network」というウェブサイトが立ち上がった(国立国会図書館 2007)。

6.2.2. 博物館

 博物館の提供するメディアの特性について,吉田知加(2005)は次のように述べている。「わざわざ展示の現場に足を運び,直接参加して情報を獲得する」7ことで,展示メディアは「視覚的要素の強い写真や映画などの映像メディアやテレビ,ハイビジョン,衛星放送などの放送メディアとははっきりボーダーを引く必要がある」8。吉田の勤める東京国立博物館では,「スクールプログラム」を実施している。「作品を見る」,「博物館の仕事を知る」,「体験型のもの」など,小学校・中学校・高等学校向けに,作品を鑑賞し博物館のことをよく知るための手助けとなるプログラムで,図工・美術,歴史,総合的な学習の時間,キャリア学習,修学旅行時のグループ学習,クラブ活動などに活用することが期待されている。

 また,国立科学博物館のホームページには,「学習支援」のコーナーがある。それは「プログラム」「教員向け利用案内」「学習シート」「標本貸出」「研修情報」「教育ボランティア」「博物館の達人」で構成されている。「学習シート」は,地下3階から地上3階までの各展示に関する問題で,展示を見ながら回答していくものである。ビギナーコース(小学生レベル程度),ミドルコース(中学生レベル),アドバンストコース(高校生以上レベル)があり,シートをダウンロードして使用するようになっている。このほかに,地球館2・3階の見学学習のために,見学のポイントがまとめられている記入式のノート『たんけん広場たんけんノート』が100円で販売されている。トップページの「新着情報」には,例えば,「4月8日「ダーウィン展」のワークシートをご用意いたしました!校外学習等にお役立てください。」というメッセージがあり,それをクリックすると,「指導内容に関連するダーウィン展のみどころ:先生方の授業計画にお役立ていただけます。」と「ワークシートダウンロード:児童,生徒が課題をもって見学するのをお手伝いします。」というページが表示される。この国立科学博物館のホームページには,情報満載といった感がある。

 博物館の遠隔授業の例もある。大宰府市文化ふれあい館は,市内に残された史跡を散策し,歴史にふれる機会を広く提供するためのガイダンス施設で,小中学校のカリキュラムに合わせた展示や出前授業を実施してきた。山村信榮(2001)によって報告されている遠隔授業は,「文化ふれあい館の発掘模擬体験施設を使って,調査員が模擬発掘を解説しながら中継し,遺跡を通じた現代人と古代人とのつながりを間接体験する」9ものであった。双方向性を生かすために,双方が同じ環境をつくって同時に体験する方法が,科学実験などではとくに有効ではないかと述べられている。

 博物館と図書館の連携も見られる。佐藤公(2008)は,磐梯山噴火記念館のさまざまな連携について紹介している。福島県立図書館との連携事業「科学実験と民話でふるさとの山を知ろう」,教育普及活動として学校への出前授業を年間10校程度,小中高校でフィールド授業(理科・火山を学ぶ)や防災の授業,自然教室の事前授業,福島県立図書館・福島県立博物館,郡山市立美術館・郡山市ふれあい科学館と連携した「100年前の実験に挑戦 石井研堂とその時代」などである。

 そのほか,福島県立図書館と福島県立美術館が連携し,「アートなおはなしかい」を開催するなど,福島県では博物館同士や博物館と図書館の連携が拡大してきているという。「図書館は様々な本を所蔵している関係で,様々な博物館と連携できる条件を持っている」10と佐藤は言う。

6.2.3. 動物園

 旭川市旭山動物園は,動物本来の動きを見せるような工夫をしていることで注目を集めている動物園であるが,この園内に「動物図書館」があるという。この図書館では,読み聞かせの会もあり,調べ学習も行っている。小学校5・6年生を対象にしたサマースクールで,「1日目は飼育係員の方と一緒の飼育体験,2日目は糞を拾ってきての観察と糞を加工したストラップ作り,3日目はなんと調べ学習を行っていました。図書館資料を使って園の動物について調べた成果を1枚のポスターにまとめる。・・・さらにそのポスターはその動物の看板の横に展示されます」11と村木(2007)は報告している。

 この旭山動物園のホームページには,「教育活動」というコーナーがある。「教育活動とは?」として「旭山動物園が考える動物園の教育活動について紹介します」から始まって,「園内でのガイド」,来園時に使える「ワークシート」,「出張授業」「教材の貸出」(骨格やたまごなどの標本やペット動物など,動物園ならではの所蔵教材をお貸しします),「i-ねっとわーく授業」(動物園と学校がインターネットで接続して授業を行う遠隔授業の紹介です),「よくある質問」が掲載されている。

 そして,「i-ねっとわーく授業とは?」として次のような説明がある。「i-ねっとわーく授業では,旭山動物園の各館内から無線でネットワークに接続し,施設や“そこにいる動物たち”を学校にいながらにして観察し,動物園職員の解説を受けながらリアルタイムに学習することができるものです。テレビ会議のようにおこなう遠隔授業ではなく,ぺんぎん館,あざらし館,ほっきょくぐま館,もうじゅう館の四施設屋内外を実際に見学してるような学習体験ができます。i-ねっとわーく授業の「i」はinteractive(双方向性)の「i」です。i-ねっとわーく授業には,あらかじめ定まったプログラムはご用意しておりません。教師の方が考える学習活動全体の目標や内容を把握した上で,教師の方と共に授業展開を決定していきます。より効果の高い学習活動を共に考えられればと思っております。」

 旭山動物園のサイトの説明を読むと,動物園の使命に対する確固たる信念・ポリシーを感じることができる。 (堀川)

  1. 美馬のゆり (2007). “電子ネットワークが広げる子どもの可能性”. 子どもとニューメディア. 北田暁大, 大多和直樹編著. 日本図書センター, p.153.
  2. 村井純 (1998). インターネットII: 次世代への扉. 岩波書店, p.171.
  3. 堀田龍也 (2001). 教室に博物館がやってきた: 社会教育施設と学校をテレビ会議で結んだ遠隔授業の試み. 高陵社書店, p3.
  4. 堀田龍也,塩谷京子編(2007). 学校図書館で育む情報リテラシー: すぐ実践できる小学校の情報活用スキル. 全国学校図書館協議会, p1.
  5. 美馬のゆり (2007). “電子ネットワークが広げる子どもの可能性”. 子どもとニューメディア. 北田暁大, 大多和直樹編著. 日本図書センター, p.156.
  6. オンタリオ州教育省編 (1992). メディア・リテラシー. FCT(市民テレビの会)訳. リベルタ出版, 1992, p7.
  7. 吉田知加 (2005). 博物館を知的遊園地にするために: 東京国立博物館. 学校図書館. 658号, p.53.
  8. 吉田知加 (2005). 博物館を知的遊園地にするために: 東京国立博物館. 学校図書館. 658号, p.53.
  9. 山村信榮 (2001). “太宰府市「文化ふれあい館」での遠隔授業”. 教室に博物館がやってきた. 堀田龍也監修. 高陵社書店, p.81.
  10. 佐藤公 (2008). 博物館と図書館のコラボレーション. こどもの図書館. 55(2), p.6.
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参考文献

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