第2章 調査の結果 3 筑波大学「大学図書館職員長期研修」

第2章 調査の結果3 筑波大学「大学図書館職員長期研修」 「大学図書館職員長期研修」(以下「長期研修」と記す)は、文部科学省が主催する大学図書館職員を対象とした研修事業のひとつである。昭和44年(1969)から開始され、35年間にわたって継続して行われてきた。これより早く昭和39年(1…

第2章 調査の結果

 

3 筑波大学「大学図書館職員長期研修」

 「大学図書館職員長期研修」(以下「長期研修」と記す)は、文部科学省が主催する大学図書館職員を対象とした研修事業のひとつである。昭和44年(1969)から開始され、35年間にわたって継続して行われてきた。これより早く昭和39年(1964)から開始された「大学図書館職員講習会」とともに、国の実施する大学図書館職員研修の中でも、最も基本的な部分を担う総合研修であり、中核的な研修と位置づけることができる。

 「長期研修」の歴史はいくつかの文献に簡潔にまとめられており(1)、それらを参照することが望ましいが、本稿でも必要な範囲でその概要を述べておきたい。

 「長期研修」は、昭和44年に「大学図書館専門職員長期研修」という名称で開始された。当時の文部省大学学術局と図書館短期大学との共催であった。中堅職員を対象とし、定員は30名である。『昭和44年度大学図書館専門職員長期研修講義要綱』によれば、初年度の受講者数は29名、8月1日(金)〜23日(土)の約3週間(実質は日曜を除いた20日間)の日程で実施されている。(2) 翌・昭和45年度からは日程は約4週間(実質24日間)に延長され、昭和46年度には、名称も現在の「大学図書館職員長期研修」という形にあらためられた。(3) さらに、昭和47年度からは、国立大学だけでなく公立大学および私立大学の図書館職員へも、受講対象が広げられた。

 その後、図書館短期大学が図書館情報大学に昇格・移転の運びとなり、昭和54年度は東京大学、55年度は東京学芸大学が運営担当および会場校となって開催された。なお日程が、昭和55年度より、4週間から3週間に短縮された。そして昭和56年度からは開学なった図書館情報大学に引き継がれ、あらためて文部省と図書館情報大学の主催で実施されるようになる。

 平成14年(2002) 10月、図書館情報大学と筑波大学の統合が行われ、図書館情報大学は「筑波大学図書館情報専門学群」および「同大学院図書館情報メディア研究科」として再出発する。これに従い、「長期研修」は、平成15年度から筑波大学と文部科学省の主催となった。そしてさらに、平成16年(2004) 4月1日の国立大学法人化を契機に、従来の「文部科学省及び筑波大学主催」から「主催筑波大学、共催文部科学省」という形に変更されるに至る。同時に「長期研修」のあり方も大幅に見直され、平成16年度より研修期間が3週間から2週間へと、再度の短縮が図られる。

 以下、「長期研修」のあり方と研修の実際について、ヒアリング調査と関連文献にもとづいて具体的に述べていく。

 

(1)研修事業の目的、趣旨、実施の背景

1)研修の目的について

 「長期研修」の目的は、「実施要項」に明確に示されている。

 平成16年度の「実施要項」によれば、「全国の国立大学図書館等の中堅職員に対し、学術情報に関する最新の知識を教授するとともに、図書館経営・情報サービスの在り方について再教育を行い、職員の資質と能力の向上を図ることにより、大学図書館等の情報提供サービス体制を充実させることを目的とする」(4) とある。学術情報に関する最新の知識の修得、図書館経営と情報サービスの在り方の再教育、このことによる職員の資質・能力の向上、などが研修の目的とされている。

 ただし、この「目的」についての記述は、平成16年度に手直しされたものである。平成15年度までの「実施要項」では次のように述べられている。

 「大学等における教育・研究活動の急速な進展に伴い,学術情報の迅速かつ的確な提供が重要となっており,大学等の中核的な情報資料センターとしての大学図書館等が果たす役割はますます増大している。このため,係長を中心とする中堅職員に対し,学術情報に関する最新の知識を教授し,職員の資質と能力の向上を図ることにより,大学図書館等の情報提供サービス体制を充実する。」(5) 

 研修目的は同一であるが、その前提となる学術情報と大学図書館の役割の重要性がより具体的に述べられていた、という違いが見られる。

 受講対象者については、「中堅職員対象」ということのほかに、(1)図書館職員として専門的業務に10年以上の経験を有する者,(2)36歳以上45歳以下の者,(3)所属大学(機関)の長が推薦する常勤図書館職員,と細かく受講資格が定められている(平成16年度)。(6) この点は、同じく文部科学省主催の「大学図書館職員講習会」(7) のほうが「勤務年数2年以上、35歳以下の若手職員」を対象としていることと関わっている。(この点は(3)の3)であらためて述べる。)なお、平成15年度までは「係長を中心とする中堅職員」というふうに係長級の職員研修であることが明記されていたが(8)、16年度からは「10年以上の経験者であれば係長という職位にこだわらない」という趣旨により、その字句を削って単に「中堅職員対象」にしたということであった。

 

2)研修開始のきっかけについて

 昭和44年(1969)開始当時の研修目的には、次のように書かれている。

 「大学における教育・研究活動の急速な発展に伴い、大学図書館が、利用者に必要とされる図書館資料および学術情報を、適確、迅速かつ網羅的に提供することの重要性がますます高まっている。このためには、利用者の高度な要求に即応した体制を整備する必要があり、その一環として、図書館業務の合理化、標準化および機械化による能率向上と、積極的に行なう書誌的情報の提供等のサービスの質的改善を図らねばならない。これらは従来の図書館学の知識と技術では処理しえない面も少なくないので、これらに必要な最新の知識および技術を、相当の経験を有する図書館職員に習得させ、その資質の向上を図り、大学図書館の近代化を促進する。」(9)

 この記述は、平成15年度までのものとそれほど大きく変わらないようにも見えるが、実際は、図書館業務の合理化と機械化による能率向上、サービスの質的改善など、当時の大学図書館のおかれている状況、あるいは運営・サービス改善の必要性がそのまま反映されていると言うことができる。

 戦後、国立大学図書館においては「国立大学図書館改善要項」が昭和28年(1953)に文部省大学学術局の手によってまとめられたが、これにもとづく図書館職員数の算定や専門職としての知識と能力、さらには司書職制度の在り方(資格・待遇・職員採用の問題)などが、当時さかんに議論されていた。(10) 上記の文面には、最新の知識と技術の習得によって図書館職員の専門性を高め、もって「大学図書館の近代化」の促進につなげようとする考えが述べられているが、これはすなわち、昭和30年代から40年代の大学図書館界における、図書館運営とサービスの改善・充実への強い要求と期待があったことの表れでもある。

 また「長期研修」に先立つこと5年、昭和39年(1964)に「大学図書館職員講習会」が開始されている。こちらは勤務経験2年以上の職員を対象とした短期の研修会であるが、国立大学における「図書専門職員採用試験」が初めて実施されたのが昭和35年(1960) 1月、その改正によって人事院が直接「図書専門職員採用試験」を行うようになったのが昭和39年1月であった。このように、国立大学図書館の職員採用が進展する中で、職員研修もこれに足並みを揃えるかのように、実施が図られていった。

 さらに文部省は、昭和51年(1976)に「国立大学図書館専門職員特別研修」を新たに実施した。これは、上記の人事院「国立学校図書専門職員採用試験」における上級甲種合格者(11)のみを対象とした研修であり、3日間の短期日程ではあるが、幹部職員研修とも目される内容であった。(12) (ただしこの「特別研修」は、昭和51年の1回限りでとりやめになった。)

 つまり、昭和51年には、(a) 「大学図書館職員講習会」(4日間,2年以上の若手職員) (b)「長期研修」(4週間,中堅職員(係長クラス)) (c)「専門職員特別研修」(3日間,上級甲種合格者)、という三つの研修が実施されており、それぞれの位置づけがかなり具体的に描かれていたと言える。「漢籍担当職員講習会」もすでに始められており(昭和47年(1972))、このような大学図書館職員研修の充実は、当時の文部省の研修や図書館改善に対する取り組み方が大きな意味を持っていたようである。

 

(2)研修事業の実施体制

1)参加者募集方法について

 平成16年度から筑波大学の主催になったため、募集について、現在は筑波大学学長名で募集要項を送付し、国公私立大学に推薦を呼びかけるという形を採っている。国立大学は各大学長あてに直接要項を送付するが、公私立大学の場合は、各図書館協会長あて(公立大学は公立大学図書館協議会、私立大学は私立大学図書館協会)に送付して、とりまとめを依頼しているとのことである。各大学長の推薦にもとづいて、参加を受け付けている。

 募集定員は40名だが、例年、定員に対して応募が2倍ほどあるという。16年度は70〜80人の申し込みがあった。したがって、経験年数や年齢などの要件をきびしくチェックし、「年齢がオーバーしても構わないか」などの問い合わせもあるそうだが、要件を満たしていない場合はやむをえず落としているという。

 なおこの募集定員も、平成15年度までは30名となっていたが、16年度から40名に変更されている。一見、これは定員増のように見えるが、受講者数は例年40名前後(過去10年間の受講者数は37〜42名(平成13年度の33名を除く))であり、募集定員も実態に即して表記したにすぎないと思われる。受講者数の内訳は、国立大学(機関)の職員が32〜35名(平成13年度は30名)、公立大学職員が0〜2名、私立大学職員が2〜7名となっている。(13)

 

2)費用負担について

 研修の実施にかかる経費はすべて、文部科学省からの運営交付金でまかなわれている。内訳は講師謝金、備品等の購入費、その他運営にかかる費用、および国立大学所属受講者の旅費・宿泊費などである。参加費は特に徴収していない。公立大学と私立大学所属の受講者の旅費・宿泊費は所属大学の負担となる。「長期研修」では、受講資格の最後に「常勤図書館職員」(平成16年度)「定員内図書館職員」(平成15年度以前)と明記されているが、研修目的と費用負担の点から見て、受講者は常勤職員に限られることになるのであろう。なお、懇親会等飲食にかかる費用は、言うまでもなく自己負担である。

 

3)講師依頼基準について

 講師の依頼基準については成文化されたものはないが、長期研修のこれまでの蓄積のうえになされている。また、受講者からの評価等を考慮して、文部科学省と協議し、講義テーマについての学識や見識を有する「第一人者と目される方に依頼」しているとの回答であった。

 

4)事務局の運営方法・体制について

 国立大学法人化に伴い、平成16年度から筑波大学附属図書館情報管理課が企画・運営事務を担当している。図書館情報大学の時代は大学庶務課が担当していたが、筑波大学では附属図書館の規模・所帯が大きいため、附属図書館内での運営が可能であるという。情報管理課の中でも企画渉外係が中心となって準備をすすめるが、研修期間中の接遇(受付)・会場設営等は、担当課係以外からの応援・協力を得ている。

 大変なのは研修期間中の職員のやり繰りである、という話をヒアリングで伺った。長期間の研修であるため、職員が研修会場(東京・代々木の「国立オリンピック記念青少年総合センター」)に出かけて長期不在となってしまうので、代わりの職員を手当てしたり、関東地区で調整するなどのやり繰りが必要であるということである。

 また、研修会場の都合もある。国立青少年センターは夜間の施設利用者がいるため、研修会場は使用時間内しか占有権がない。講師控室も共用であるため、毎朝控室を確保しに行かねばならないし、準備と片付けも毎日必要、などの不便があるという。

 

5)プログラムの企画・方針の策定方法と体制について

 研修プログラムの企画は、附属図書館情報管理課で検討を行っており、委員会を置くことはされていない。その理由は、「(図書館短期大学の時代を含めて)図書館情報大学の時代からの長い蓄積があるので必要性を感じない」「委員会を開いてもおそらく同じような結果になると思う」とのことであった。

 具体的には、これまでのプログラムの大枠(<図表3.2>参照)に沿って構成を考え、一方で講義内容の見直しを行う。その年によってテーマや課題内容を手直ししたり組み換えたりする。参加者のアンケートを参考にすることもある。また、文部科学省とも意見交換を行うので、協議の中から「今年は「法人化」をテーマにしよう」といった提案が出てくることもあるそうである。このように、文部科学省の指導や助言を得ながら、筑波大学でプログラムを作成しているということであった。

 

(3)研修カリキュラムの実態及び過去5年間の研修カリキュラムの変遷

 「長期研修」は、通常1コマ90分の講義または演習で実施される。そのほかに共同討議・班討議(グループ討議)と見学が含まれる。過去5年間の研修プログラムを、<図表3.1>「大学図書館職員長期研修日程表」(平成12年度〜平成16年度) に示しているので、参照いただきたい。

 研修カリキュラムの特徴をあげると、まずテーマ別に7〜9の枠組が設定されており、各講義・演習をその枠組に振り分けてプログラムが構成されている。この7〜9の枠組は、時代や状況の変化に応じて適宜見直しが行われているが、数年間継続される場合もある。過去5年間では、平成12年度から13年度にかけて、大幅な見直しが行われている。

 たとえば平成12年度の枠組は、『講義要綱』によれば「1.総論」「2.電子的図書館機能の整備とその推進」「3.資料の整備と相互協力」「4.国立情報学研究所の活動」「5.情報サービスとその支援」「6.関連講義等」「7.共同研究討議」「8.研修・見学機関」であったが(14)、13年度の枠組は、同様に「1.大学図書館の管理・運営」「2.大学改革と図書館」「3.電子図書館的機能の整備とその推進」「4.電子的資料の導入」「5.国立情報学研究所の活動」「6.多様化する情報サービス」「7.社会の変革と大学図書館」「8.共同研究討議」「9.研修・見学機関」となっている。(15) 新たに「大学改革と図書館」「電子的資料の導入」「社会の変革と大学図書館」という枠組が追加されるとともに、12年度の「資料の整備と相互協力」「情報サービスとその支援」「関連講義等」などが、その設定を見直されている。

 平成16年度のカリキュラムの概要は、次のとおりである。(16)

 

1.大学図書館の管理・運営 5科目5コマ
2.大学改革と図書館 4科目4コマ
3.電子図書館的機能の整備とその推進 4科目4コマ
4.学術情報の流通 4科目4コマ
5.多様化する情報サービス 9科目10コマ
6.討議 3科目11/3コマ
7.研修・見学機関 1施設2コマ

 

 「共同研究討議(グループ討議)」は受講者を4班に分け、それぞれがテーマを決めて討議し、最後にプレゼンテーション(報告)を行う。それに対して筑波大学附属図書館長が講評する、という形をとる。テーマの大きな枠組はあらかじめ設定されている(たとえば平成15年度の「法人化後の大学図書館の在り方」「学術情報の収集・発信の企画と運用」、16年度の「学術情報の収集・発信の企画」など)。ただ、「半日で議論をまとめるのはむずかしい」との感想もあった。

 過去5年間のカリキュラムの変遷における最も大きな変化は、研修期間の短縮であろう。冒頭でも触れたが、「長期研修」では平成16年度に、研修期間をそれまでの3週間から2週間へと短縮した。これは、平成16年(2004)4月からの国立大学法人化にともなって「長期研修」のあり方を大幅に見直しした結果であるという。

 その結果、研修プログラムもかなり見直しが行われている。過去5年間のプログラムの変遷を、<図表3.2>「『大学図書館職員長期研修』研修カリキュラムの変遷(平成12年度〜平成16年度)」にまとめた。参照していただきたい。

 具体的な変更点をあげていくと、(a)全体のコマ数が、平成15年度50コマから16年度34コマへ減少,(b)講義・演習の科目数(共同討議・グループ討議は含まない)が、15年度38科目から16年度26科目へ減少,(c)見学施設数が、15年度の8施設から16年度は1施設へ減少,(d)科目の統廃合を行うとともに、図書館以外の関連領域の講義を廃止,(e)1科目あたりのコマ数を1コマにほぼ統一,などが指摘できる。また、研修期間が3週間のときは東京に2週間、筑波に1週間と会場を分散させていたが、現在は東京で2週間の研修を行っている等の変化も見られる。

 (e)の「科目の統廃合」とは、たとえば平成15年度開講科目のうち「大学図書館の役割」「大学図書館の課題と国大図協の活動概要」「大学図書館の将来」の3科目を廃して、16年度は「大学図書館の役割と将来展望」として開講したことがあげられる。また、電子図書館や電子ジャーナルに関する講義についても見直しが図られ、15年度の「電子図書館概説」「電子図書館システムの実際」「電子ジャーナルの導入と契約」の3科目が、16年度は「電子図書館の今後の展望」「電子図書館と契約」の2科目に変更されている。

 日程短縮による変更点について、ヒアリングでは次のような説明があった。「プログラム上は見学とグループ討議(班討議)の時間を減らしたが、講義そのものの内容は実質的に変わっていないと考えている。平成15年度までのプログラムでは、幹部職員として必要な文章の書き方などの基礎的なトレーニング科目が含まれていたが(17)、法人化によってそうしたことは各図書館が自前で行うことになり、「長期研修」では図書館職員としての技能に関するものに限定した」ということである。

 研修期間短縮の理由のひとつは、平成15年度「長期研修」の実施前に文部科学省が行ったアンケート調査で、「研修期間を2週間にしてほしい」という意見が多かった、ということがある。「中堅職員が3週間も不在になるのは、職員を研修に送り出すほうの図書館も辛い。夏休みといえども困る」という現場の声があったというのである。

 しかしながら、研修期間が開始当初の4週間から3週間へ(昭和55年度)、さらに2週間へ(平成16年度)と半減したことで、従来のプログラムに見られた講義と見学の組み合わせによる高度なサービスやシステムの実際を理解する科目や、デジタル・ライブラリーに関する演習などが削られてしまった。1科目の時間もほとんど90分に限定されてしまい、演習を含めた授業展開など、参加型の授業や、高度で多彩な内容の研修を行うことは難しくなったように見受けられる。

 

1)司書課程カリキュラムとの関係について

 司書課程のことは特に意識していない。受講資格に「10年以上の経験を有する者」という規定があり、当初からそういったレベルを想定している、との回答であった。

 これは、たとえば日本図書館協会「中堅職員ステップアップ研修2」や国立教育政策研究所社会教育実践研究センター「図書館司書専門講座」が、いずれも「勤務経験7年以上」と設定しているところと比較しても、それ以上のレベルが想定されているわけであり、従来から係長クラスの研修として実施されてもきているため、司書課程カリキュラムを念頭に置かないのは当然かもしれない。

 

2)カリキュラムの継続性について

 「プログラムは研修の目的に沿ったものであり、大部分は継続性を持っている」との回答であった。<図表3.2>を参照すると、カリキュラムに一定の継続性があることがわかる。

 <図表3.2>から、過去5年間とも継続して開講されてきた科目を抜き出してみる。

 

・大学図書館行政または行政説明 (1.大学図書館の管理・運営)
・大学図書館の運営 (    同上    )
・図書館のマーケティング (    同上    )
・大学図書館の建築と設備 (    同上    )
・大学図書館における機構改革 (2.大学改革と図書館)
・電子出版の動向 (4.電子的資料の導入)
・著作権制度 (6.多様化する情報サービス)
・大学図書館における著作権 (    同上    )
・企業における情報収集(とGray literature) (    同上    )
・大学図書館に期待するもの (7.社会の変革と大学図書館)
・共同討議・グループ討議 (8.その他)
・見学(国立国会図書館) (  同上  )

 

3)他の研修プログラムや他団体の研修プログラムとの関連について

 (1)の1)でも触れたが、「大学図書館職員講習会」との関連で、「講習会」の方が「勤務年数2年以上、35歳以下の若手職員」(平成16年度) (18) を対象としており、これよりは上位の研修と位置づけている、との説明があった。ただ、国立大学図書館協会人材委員会が新しい研修の在り方について検討しており、他団体の研修内容・在り方には関心を払っているという。

 文部科学省が主催する大学図書館職員を対象とする各種研修プログラムの中でも、総合研修(基本研修)に位置づけられるのは「長期研修」と「職員講習会」の二つである。それぞれ、10年以上の中堅職員対象と2年以上の若手職員対象、長期(2週間)と短期(4日間)、定員40名と200名、というふうに明確に区別されており、この関係は、今後も継続されると考えてよいのだろう。またその他のさまざまな研修についても、専門的・個別的な内容の研修(「著作権講習会」「漢籍担当職員講習会」)や技術研修(国立情報学研究所「目録システム講習会」など)、シンポジウム形式などでやはり区別されていくと思われる。

 

4)研修プログラムの担当講師について

 「長期研修」の担当講師は、<図表3.1>に示されている。<図表3.2>では、各講師の本来の職務(肩書き)による分類を試みた。

 「長期研修」では、研修内容・テーマに応じて、さまざまな分野の専門家を講師に配置している。図書館・情報学分野の研究者を中心に、大学図書館長・事務長・課長などの大学図書館幹部職員、他の学問分野の研究者、文部科学省・文化庁の行政職担当者、さらに民間団体・企業所属の者など、科目に応じた多様な構成になっていることがわかる。

 なおヒアリングでは、講師の選任について「今までの蓄積による人脈があり、国立大学の中で講師を探すのはそれほど苦労しない」との回答があり、すぐれた人材(講師)を容易に確保できる恵まれた状況にあることがうかがえた。

 

(4)研修事業の評価

1)実行主体の評価について

 毎回、受講者にアンケート調査を行い、それを参考にして次回の研修プログラムの作成に役立てている。ヒアリング調査では、「図書館情報大学の時代は最初、文部省の指示を受けてそのとおりにプログラムを組んでいたが(19)、ある時期から受講者の意見やニーズを取り入れてやってきた。そのことでプログラムも練られてきているし、受講者のニーズにあったものになっていると思う」との評価が、担当者から話された。

 

2)参加者の評価について

 1)でも書いたように、受講者へのアンケートを実施しているとのことである。

 評価の内容としてあげられたのは、研修期間が2週間に短縮されたことについて、受講者には好評であったということであった。3週間のときは、研修会場が2か所(東京と筑波)に分かれていて、宿泊の手配なども大変だったということもあるようだ。

 またヒアリングでは、「長期研修」そのものに対する大学図書館界全体の評価も聞かれた。受講者たちは研修期間中寝食をともにするわけで、「研修同期生」という言葉があるほど、同じ年度にこの研修を受けた者どうしの横のつながりは強いという。また、研修修了者には修了証書が授与されるが、このこと(「長期研修」修了者)の意味は大きく、大学図書館界ではしかるべき地位を得ている。図書館職員にとっては「これを通過しなければ」という目標にもなっている。そのため受講者のモチベーションも高い、ということで、主催者にとっても受講者にとっても大きな意義をもつ研修であることが察せられた。(20)

 

(5)研修事業の今後の展開

1)現在の研修プログラムの課題について

 「大学図書館職員講習会」が平成16年度から国立情報学研究所(NII)の主催となったが、これとの連携というよりもむしろ差別化を意識して行っていく必要がある、との指摘があった。「職員講習会」は若手あるいは係長の手前の主任クラスの育成であり、「長期研修」は係長あるいはそれ以上の幹部職員の養成を主目的としているので、おのずとレベルも異なってくる。そのためにNIIと連携する必要がある、ということであった。

 

2)今後の研修事業の中長期的方針について

 「長期研修」の今後の在り方について、二つの面から問題提起があった。

 一つは、国立大学図書館協会(国大図協)で行われている職員研修のプログラム全体の見直し・再構築をふまえた発言である。具体的には「講義等のレベルは現行を維持しつつ、国大図協の検討をふまえて、大学図書館の職員研修全体の体系化および計画ができあがった段階で、その中にきっちり位置づけていきたいと考えている」とのことであった。

 もう一点は、国立大学法人化の流れを受けて「長期研修」がこれまでどおり継続して行えるかどうか、という問題である。これについては、「『長期研修』は図書館界では大きな位置が与えられていると思うので、文部科学省が予算を出すかぎりは、この研修を継続していきたい。ただ、法人として見たときには国立大学も私立大学も同じであり、「国立大学中心の研修に国が予算を出すのはおかしい」と言われることもあるだろう。そういう点は危惧している。そのためには、国公私立大学を束ねてその研修の一環と位置づけることで『長期研修』の予算を確保していくことも考えている」という発言をいただいた。

 なお、研修プログラムでマネジメントを重視する傾向は増大している。そのことは、平成15年度から「国立大学法人における財務制度」が新設されるなど、プログラム面にも現れてきている。

 

(6)図書館職員の研修に関して国立国会図書館に求めるもの

 ヒアリングでは、次の1.〜3.について要望が示された。

1.サブジェクト・ライブラリアンの養成に関して、何か企画してほしい。

 サブジェクトに強い図書館職員を育てたいが、主題関係の研修は、「長期研修」2週間のうち1コマだけを当てるという形では困難である。たとえば医学図書館の専門職員や法学図書館のロー・ライブラリアンを育てるには、1コマ90分といったレベルではなく、そのテーマに関する個別研修を1週間やるなどの独立したプログラムが必要である。児童図書館員養成講座とか医学図書館員,法律図書館員の養成講座を開催することが必要であり、そうなると国立大学の中だけで講師を見つけることは難しい。そういう意味で、国立国会図書館の主題専門の方にやっていただきたい。3か月間の毎週土曜日という形でもよいと思う。

 また、このような研修には国の予算が出ないので、その意味でも国立国会図書館で実施していただき、それを受講できるのが望ましいと思う。たとえば主題別、あるいは何かのテーマに特化したe-ラーニングのプログラムが流れていて受講でき、講師から採点・評価も返ってくる。そんなプログラムを国立国会図書館で実現してほしい。このようなプログラムは商業ベースにのらないし、大学で行うのも難しいのではないか。

 なお、主題専門職員の養成は、職員の採用制度や学生の教育段階から考えていかないといけない課題である。医学図書館などにおいては、職員の採用・養成の問題は重要である。

2.国立国会図書館のアジア情報研修と科学技術情報研修は関西館だけで開催されているが、できれば東京でも開催してほしい。(筑波大学附属図書館のレファレンス部門の職員から、科学技術情報研修に参加したかったという声があったため。)

3.国立大学図書館協会(国大図協)人材委員会と連携を取ってほしい。

 主題専門職員の養成にしても、これからは、法人として個々の大学の責任で職員を育てることになる。これまでは国家公務員という枠組でやってきたことを、それぞれの法人が行うようになる。しかし、いろいろなところで同じことをやるのは無駄なので、国大図協が呼びかけて、国公私立大学の図書館は統合して研修を行おうとか、日本図書館協会の研修事業ともすみ分けを考えよう、という動きがある。私立大学は早稲田・慶応ぐらいしか旗を振れるところがなく、国立大学も、個別にリーダーシップを取れるところがあまりない。国大図協が大学全体をリードし、NIIもこれに参加していくということなので、研修をやるということであれば、国立国会図書館もこの場に加わっていただくとよいのではないか。ただしNACSIS-CATなど技術面の研修は、やはり設備が整っているNIIで行うのがよいと思う。

 大学図書館職員には、管理者能力を上げようとする人もあれば、本の分類に命をかける人があってもいい。全員が管理者を目指すわけではない。職員一人一人にやりたい方向があり、それに向かって努力しようとするときにスキルアップの手段があることが重要だ。自発的な能力開発という面では、中堅職員の場合は残業を奨励されないため、自宅でスキルアップできるようなプログラムがe-ラーニングなどの形で流れていれば好都合だろう。現状では、自ら学ぶことを求めても、学ぶ手段がない、ということであった。

 

(7)まとめ

 「長期研修」に関わって、国立大学を中心とした大学図書館中堅職員の研修の在り方を見てきた。「長期研修」は「大学図書館職員講習会」とともに、国立大学図書館においては核となる研修であり、特に「長期研修」には、係長クラスの職員に対する高度で先進的な内容の研修を長期にわたって課すことによる高い評価が与えられていた。今後もこのレベルを維持しながら、研修自体を存続させていくことへの意欲も、ヒアリングでは示されていた。しかし、研修日程が大幅に短縮されたことによる影響は、平成16(2004)年度の研修プログラムに明らかに見られる。時間的なゆとりがない中に、主題別の研修や、デジタル・ライブラリーに関する新しい高度な情報サービスの演習を組み込むことは、言うまでもなく難しい。そのような中で、「長期研修」が目的として掲げる中堅職員の能力と資質のさらなる向上を果たしうるのか、という問題が指摘される。

 また国立大学の法人化は、図書館職員の研修についても各大学で個別に行う方向への流れを加速させるであろう。そうなれば、中堅職員のレベルも決して均一ではなく、大学間格差が表れてくると思われるが、その時に研修のレベルと質を維持することの難しさも懸念される。

 日程が短縮されてまだ1年にしかならないが、「長期研修」には、今後そのことの結果が厳しく問われるであろう。一方で、「長期研修」のプログラムに組み込めない内容の研修をどこでどのように補っていくのか。国立国会図書館やNIIとの連携を積極的に図っていく必要性が今、高まっている。



[注]

(1) たとえば、次のものがある。

① 「『大学図書館職員長期研修』について」『図書館短期大学史―十七年の歩み―(閉学記念特集)』図書館短期大学,1981.3,p.98-106 

② 川瀬正幸「大学図書館職員長期研修(特集・図書館員の研修と継続教育)」『図書館雑誌』91(5),1997.5,p.332

③ 田中成直「大学図書館職員長期研修について」『つくばね:筑波大学附属図書館報』29(2),2003.9,p.7(http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/tsukubane/2902/1.pdf

(2)  『昭和44年度大学図書館専門職員長期研修講義要綱Ⅰ』文部省大学学術局・図書館短期大学,107p.

(3) 名称変更の理由については、次のように説明されている。

「表記研修会は当初、「大学図書館専門職員長期研修」と呼ばれ、研修の修了証書にこの呼称が使われ、更に研修の目的にも「図書館専門職員」という名辞が見えた。然し、この研修会に「専門」の二字を付すのは過大で、穏当でないとの意見により、表記の如く「大学図書館職員長期研修」と改称し、修了証書も「専門」の二字を削り、さらに研修目的でも「図書館職員」と改められた。」(前掲(1)の①,p.98)

(4) 「平成16年度大学図書館職員長期研修実施要項(抄)」『平成16年度大学図書館職員長期研修講義要綱』文部科学省・筑波大学,p.1

(5) 「平成15年度大学図書館職員長期研修実施要項(抄)」『平成15年度大学図書館職員長期研修講義要綱』文部科学省・筑波大学,p.1

(6) 平成15年度までは、以下のとおりであった。

①図書館職員として専門的業務に10年以上(大学卒業者にあっては5年以上)の経験を有する ②おおむね40歳以下 ③所属大学(機関)の長が推薦する定員内図書館職員

この受講資格は、開始以来34年間、ほぼ同一である。

(7) 厳密に言えば、文部科学省主催であったのは平成15年度までであり、平成16年度からは国立情報学研究所と東京大学附属図書館および京都大学附属図書館が主催、文部科学省は共催という形に変更されている。

(8) 前掲(5),p.1

(9) 前掲(1)の①,p.98

(10) 岩猿敏生「戦後の大学図書館における司書職制度問題に関する史的展望」『大学図書館研究』11,1977.10,p.63-74

(11) ただし、昭和47年に「国立学校図書専門職員採用試験」が人事院の一般職公務員採用試験に組み込まれて実施されるようになり、この時点で上級甲種試験は廃止されてしまう。(前掲(10),p.73)

(12) この「特別研修」受講者に対しては、研修終了後に「大学図書館の改善」をテーマとするレポート(4000字以上)が課されていた。(「国立大学図書館専門職員特別研修の開催について(通知)」昭和51年5月10日付,文部省学術国際局,参照。)

(13) 平成15年度・16年度は『講義要綱』の中の「受講者名簿」を参照。

平成14年度以前は以下を参照。

http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/tojo/archive/Choken/2002/meibo.html

http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/tojo/archive/Choken/2001/meibo.html

(以下同様に「・・・Choken/2000/meibo.htm」から「・・・Choken/1996/meibo.htm」まで参照。) 

(14) http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/tojo/archive/Choken/2000/mokuji.html

(15) http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/tojo/archive/Choken/2001/mokuji.html

(16) 前掲(4),目次およびp.2参照。

(17) 旧プログラムでは「わかりやすい表現のための7つのポイント」という講義が組まれていた。

(18) http://www.nii.ac.jp/hrd/HTML/Librarian/

なお、平成15年度までは「2年以上の勤務経験を有する35歳以下の中堅職員を対象とする」と記されており、「職員講習会」も基本的には中堅職員研修の一環と位置づけられていた。しかし、勤務経験2年以上、関東と関西の2会場で100人ずつ計200人の大規模研修という在り方から見て、やはり「若手職員対象」の研修と捉えるのが妥当であろう。

(19) このことについて、次のような記述が見られた。

「文部省と共催とはいいながら、講習方法の内容等の立案にあたってはほとんど[文部省]情報図書館課と学外者によって決められ、若干の教官と場所を提供するだけで本学としてはいかにも自主性のない講習に終始した。」(前掲(1)の①,p.14-15)

(20) 下記の文献の巻末資料に「長期研修」についての内容・意義がまとめられているが、そこでも同様の評価が与えられている。

国立大学図書館協議会研修プログラム再構築プロジェクトチーム「研修プログラム再構築プロジェクトチーム検討報告」平成15年5月,国立大学図書館協議会,41p. の「資料1 大学図書館職員研修一覧」参照。