第2章 調査の結果 1 日本図書館協会「中堅職員ステップアップ研修」

第2章 調査の結果1 日本図書館協会「中堅職員ステップアップ研修」 日本図書館協会では、以前から単発の研修は実施してきたが、1998年から「専門性の確立と強化を目指す研修事業検討ワーキンググループ」(1)を設置し、1999年3月から検討をおこなってきた「同ワーキンググループ(第2次…

第2章 調査の結果

 

1 日本図書館協会「中堅職員ステップアップ研修」

 日本図書館協会では、以前から単発の研修は実施してきたが、1998年から「専門性の確立と強化を目指す研修事業検討ワーキンググループ」(1)を設置し、1999年3月から検討をおこなってきた「同ワーキンググループ(第2次)」(2)の報告をもとに、勤務経験3年以上の図書館司書有資格者を対象とする、体系的な「中堅職員ステップアップ研修1」、7年以上対象とした「同 2」を開始した。

 この研修は、現在実施されている公共図書館向けの研修が、単発もしくは新規配属職員対象の研修が多い中では、その体系化を意図したものとして注目すべきであり、また全国規模で開催されている中堅職員向け研修なので、今回の調査対象となった。

 

(1)研修事業の目的、趣旨、実施の背景

1)研修の目的について

 公共図書館の現場では、同じ職場や部署に長期勤めるケースが少ないため、中堅職員の層が薄くなってしまっており、現場での研修は新人研修が中心である。そこで、日本図書館協会では、体系だった研修を行うことによって、中堅職員に研修の場を提供することを目的としている。それによって、現場で新人研修を企画立案できる中堅職員の育成にもつながると考えている。(3)

 

2)研修開始のきっかけについて

1.「社会教育主事・学芸員及び司書の養成・研修等の改善方策について」(1996年 生涯学習審議会社会教育分科審議会)(4)で、体系だった研修を実施する必要性が述べられている。(5)この報告概要の中で、司書について「幅広い図書館活動の推進のために重要な役割を担うものであり、その養成及び研修の改善・充実を図る必要がある」とし、そのためには、研修体制の整備や高度な専門性の評価(例:専門性に対する名称付与制度)が必要であるとしている。この報告は、1995年に日本図書館協会研修問題特別委員会により研修事業の体系化を図る方針を示していたが、それを具体化するきっかけとなった。そこで、研修を検討するためのワーキンググループをつくり、現在の研修制度を開始したものである。また、専門性に対する名称付与制度についても検討中である。

2.従来は、単発の研修やセミナーを実施していたが、1998年から専門性の確立と強化をめざす研修事業検討ワーキンググループで検討する中で、体系だった研修の必要性が出てきた。その背景には主に以下の2点がある。(1)「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について(答申)」(生涯学習審議会 1998年9月)において、「国庫補助を受ける場合の図書館長の司書資格要件等の廃止」がうたわれた背景には、地方公務員の人事管理の変化、管理職等の司書資格取得が難しいことや図書館の専門的職員の力量が社会的に十分認知されていないことが考えられるため、司書の専門性を確立し、その有用性が明示される必要があると考えられた。(6)(2)司書の養成課程は何種類かあり、養成の内容が必ずしも同質ではないため、職場の中堅として働く初期の段階で、平準化が必要と考えられた。(7)このような背景をもとに、最初の段階として、2000年度からステップアップ研修1が開始された。さらに、2004年度からは、次の段階の研修として、勤務7年以上の司書を対象としたステップアップ研修2も実施されている。

 

(2)研修事業の実施体制

1)参加者募集方法について

 全国的には「図書館雑誌」、日本図書館協会ホームページに案内を出しているほか、関東1都3県(東京・千葉・神奈川・埼玉)の都・県立図書館に案内を送り、そこを通じて公立図書館にはすべて案内がいくようにしている。

 参加者は、会場が東京であるため、その近辺からが多いが、九州など、遠隔地からの参加も見られる。受講のための時間・費用の関係で、東京に近いか、遠いかによる差はあるが、それ以外の点では、参加に関する地域差は見られない。

 なお、2004年度の研修受講条件と実態は以下の通りである。

〔2004年度受講条件〕

【ステップアップ研修1】(8)

対象:司書・司書補有資格者(資格取得3年以上)で図書館勤務経験が3年以上(※研修内容は、公共図書館向けです)

定員:全科目(12科目)受講者50名/部分(各科目)受講者5〜10名

受講料:個人会員 全科目受講20,000円/部分受講1科目2,000円

個人会員以外の方 35,000円(部分受講はできません)

修了証の交付:全科目を受講した方には、修了課題を提出していただき、審査の上、修了証を交付します。なお、部分受講の場合は、2年間で全科目を受講した方が、修了課題提出の対象となります。

【ステップアップ研修2】(9)

対象:(1)〜(3)の条件をすべて満たす者 ※研修内容は公共図書館向けです

(1)<1>〜<4>のいずれかに該当するもの なお<2>〜<4>については過去3年を対象とする。

<1> 次のいずれかの研修を修了した者(JLA中堅職員ステップアップ研修(1)、文部科学省図書館地区別研修、社会教育実践研究センター(旧・国立社会教育研修所)図書館司書専門講座)

<2> 外部の機関団体の研修講師を経験した者

<3> 図書館関係団体での発表活動(研究集会などでの発表や著作物の発表)をしている者

<4> 顕著な活動をしているとして自己申告ができる者

(2)司書・司書補資格取得後、図書館勤務経験7年以上 ※臨時等の場合は年間実労働時間の合計が概ね1500時間を1年として換算

(3)日本図書館協会の個人会員

定員:30名

部分受講:原則としては全科目受講としますが、領域単位での部分受講は可能です。

受講料:〈前期〉全科目受講49,000円 ※全科目受講の場合は分納が可能です

〈前期〉実施の領域単位の受講料は下記のとおりです

(1)図書館経営:24,500円 (2)情報資源管理:21,000円 (3)トピック:3,500円

修了証の交付:全科目を受講した方には、修了証を交付します。今回は前期のみの実施のため、修了証の交付は2005年度以降となります。また、領域単位での受講の場合は4年間で全科目を受講した方が交付の対象となります。

〔2004年度受講実態〕

図表<1.1>〜<1.3>に示した通りである。館種別では公共図書館からの受講者がほとんどを占め、地域別では関東1都3県からの受講者が約6割を占めている。また、勤務経験7年以上を対象とするステップアップ研修2が始まっているが、ステップアップ研修1においても勤務経験7年以上の受講者が6割を越えていることが明らかである。

 

図表<1.1>2004年度館種別参加者の割合

図表<1.1>2004年度館種別参加者の割合

図表<1.2>2004年度地域別参加者の割合

図表<1.2>2004年度地域別参加者の割合

図表<1.3>2004年度勤務年数別参加者の割合

図表<1.3>2004年度勤務年数別参加者の割合

2)費用負担について

 研修費用は、参加者の負担でまかなわれている。参加者が、公費・私費のいずれで支払っているかは、申込の書類に記入する必要がないので詳しい実態はわからない。ただし、研修後のアンケートの集計結果によると、ほとんどが私費による参加と考えてよいであろう。

 

図表<1.4>ステップアップ研修1の参加者費用負担の割合

図表<1.4>ステップアップ研修1の参加者費用負担の割合

3)講師依頼基準について

 講師選定にあたっては、これまでの論考などを参考にして候補を挙げたり、日本図書館協会の図書館学教育部会の協力を得たりしているほか、知り合いのつてを頼ることも多い。研修レベルや内容、受講生の要求などに照らして、最適な人材を依頼できるとは限らないが、研修の積み重ねにより依頼基準や人材データベースといったものが出来てくると思われる。そのためにも、より幅広い人材に講師を依頼したいと考えている。

 

4)事務局の運営方法・体制について

 すべて協会でおこなっている。委託会社に委託できる業務は限られており、金額に対し有効ではないので、依頼していない。

 

5)プログラムの企画・方針の策定方法と体制について

1.業務分析をおこなって、その結果、必要な研修を考えた。現在、公共図書館と大学図書館の業務分析が作成され、「専門性の確立と強化を目指す研修事業検討ワーキンググループ(第2次)報告書」の資料として日本図書館協会のホームページに掲載されている。公共図書館の業務分析表については、解説を省いたものを図表<1.5>として節末に掲載した。

2.現場に適用できる内容を中心とする。理論より実務に重点を置く。現在行われている大学等における司書養成教育では、基礎・理論が中心であり、重要ではあるものの、実際に現場で対処するための即戦力にはなりにくい。そのため、研修では、実践にあたりより役立つ内容とした。

3.社会の変化に応じて、内容設定を行う。研修内容は図表<1.6>のように体系化されている。「領域1」では、「社会の変化に対応する図書館サービス」を取り上げ、社会の変化に応じて図書館サービスを充実させていく能力を養成することを目的としている。「領域2」はレファレンスやコレクション形成など「高度かつ専門的な図書館の知識・技術の向上」を扱っており、これは積み上げの必要な専門的な内容であり、またインターネットの普及など社会の変化に伴って対応を迫られることもある。「領域3」では、「図書館の理解を深めるための関連トピック」を扱い、図書館に関係した、その周辺にある重要あるいは社会的に注目されている話題や課題を扱っている。このように、常に現代社会のニーズを把握して図書館の仕事に当たれるよう工夫された研修内容になっている。図表<1.7>では、研修内容と業務分析との関係を示す対照表を掲載した。

 

図表<1.5> 公共図書館の業務分析一覧表(一部抜粋)
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図表<1.6>ステップアップ研修1の研修内容

[研修内容]

1.社会の変化に対応する図書館サービス(A,B,C各ブロックから1科目選択)
(1)図書館サービスと著作権(例:複写と著作権、新しいメディアと著作権)
(2)図書館の情報化(例:OPACの活用)
(3)外国の図書館事情(例:図書館事情を知るポイント)
 
(1)障害者サービス(例:障害者サービス概論)
(2)多文化サービス(例:国際化と図書館)
(3)児童・青少年サービス(例:YA資料の選書)
(4)アウトリーチサービス(例:宅配サービスの現状と今後)
 
(1)利用者とのコミュニケーション(例:カウンセリング)
(2)図書館の自由(例:図書館の自由−事例研究)
 
2.高度かつ専門的な図書館の知識・技術の向上(必修)
図書館経営 (1)図書館政策
(2)図書館の運営計画
(3)図書館の評価と指標
 
情報サービス (1)レファレンスツールの評価
(2)レファレンスインタビュー
(3)クエスチョン&アンサー
 
図書館資料 (1)資料収集方針の立案
(2)コレクションの形成
 
3.図書館の理解を深めるための関連トピック(1科目選択)
子どもを取り巻く状況、都市づくりと図書館、ボランティアとNPOなど
 

 

図表<1.7>ステップアップ研修1と業務分析との関係

研修内容 対応する業務分析
1-A-(1)図書館サービスと著作権 3-C-4「複写サービス」等
1-A-(2)図書館の情報化 4「コンピュータ・システム管理と活用」
1-A-(3)外国の図書館事情 4-A「図書館運営の計画・立案」
1-B-(1)障害者サービス 4-F「障害者サービス」
1-B-(2)多文化サービス 4-H「多文化サービス」
1-B-(3)児童・青少年サービス 3-D,E「子どもへのサービス、YAサービス」
1-B-(4)アウトリーチサービス 4-F,G「障害者サービス、病院・刑務所等へのサービス」
2-A-(1)図書館政策 1-A「図書館運営の計画・立案」
2-A-(2)図書館の運営計画 1-A「図書館運営の計画・立案」
2-A-(3)図書館の評価と指標 1-A,D「図書館運営の計画・立案、図書館統計」
2-B-(1)レファレンスツールの評価 3-C「レファレンスサービス」
2-B-(2)レファレンスインタビュー 3-C「レファレンスサービス」
2-B-(3)クエスチョン&アンサー 3-C「レファレンスサービス」
2-C-(1)資料収集方針の立案 2-A「資料の選択・収集」
2-C-(2)コレクション形成 2-A「資料の選択・収集」

 

(3)研修カリキュラムの実態及び過去5年間の研修カリキュラムの変遷

1)司書課程カリキュラムとの関係について

 司書課程は基礎・理論を学ぶカリキュラムであり、実務をしていくにあたっては土台になるものなので、実務を中心とした協会の研修とは、補完関係にあると考えている。

 しかし大学による単位数の差(10)、司書課程教員の教授内容の違いなどがあり、ステップアップ1については、まずその差を解消し、一定レベルにする目的もある。

 

2)カリキュラムの継続性について

 現在実施または企画されている研修体系及び内容は次の通りである。(11)

ステップアップ研修1:「経営管理」のうち図書館運営計画の作成、図書館の評価など経営実務の基本に関わる研修を行う。「資料管理」では図書館資料の収集方針の立案、選定の実際を行う。「利用サービス」では各種サービスを毎年選択的に採りあげ、その内容を深める研修を行う。

ステップアップ研修2:ステップアップ研修1修了後、それぞれの業務についてリーダーとして実務が実施できることを目的とした研修を行う。さらに高度な専門性を評価した名称付与(以下名称付与)までの間に「児童、障害者、レファレンス、コレクション・マネジメント、利用教育、情報検索、ヤングアダルト・サービス」などの専門研修を受講できるようにする。日本図書館協会の「児童図書館員養成講座」もここに含める。「経営管理」では図書館の人事管理や、職員研修時の講師レベルの知識・技術の習得、「資料管理」では図書館資料の組織化などの計画立案。「利用サービス」ではサービス計画の作成、資料案内の技術が現場で実施できるような方針立案、「システムの活用と運用管理」ではシステム設計と管理などが該当する。

ステップアップ研修3:ステップアップ研修2を修了後、3年以上の実務経験および学術的論文の提出を経て、名称付与予定者となった者を対象とする研修である。「経営管理」のうち目標の設定やサービス計画、将来計画の作成など自らが経営主体となることを想定した内容が該当する。

 名称付与に関する検討は「社会教育主事・学芸員及び司書の養成・研修等の改善方策について」(1996年 生涯学習審議会社会教育分科審議会)を受けたものであり、「図書館専門職員認定制度」として、現在内容を検討中である。この検討では、どのようにすれば、名称付与によって、社会的にベテラン司書が認知されることになるかということが、重要な課題である。

 このうち、ステップアップ研修1は、2000年度から開始し、現在の方向で継続していく予定である。ステップアップ研修2は、2004年度に開始したばかりなので、今後試行錯誤しながら改善の予定である。ステップアップ3は、勤務経験10年以上を対象としており、今後その具体化が検討される予定である。

 

3)他の研修プログラムや他団体の研修プログラムとの関連について

 他の研修には、体系的なものがなく、また、目的やテーマも違うので、参考にする程度と考えているが、文部科学省主催の「図書館地区別研修」はステップアップ研修1と、国立教育政策研究所社会教育実践研究センター主催の「図書館司書専門講座」はステップアップ研修2とほぼ同等のものとして位置づけ、検討した。

 

4)研修プログラムの担当講師について

 2000年にステップアップ研修1を開始した当初は、さまざまな経歴・職種の人を講師として依頼したが、2004年度からステップアップ研修2を開始したことに伴い、ステップアップ1では現場での適応能力を上げることを一番に考え、現場の職員に主に講師を依頼するようになった。まだ、ステップアップ研修2では、より高度な専門的知識や技術を習得することを目的に、大学教員のほか大規模図書館、他の館種のその分野の専門的実務者も対象として講師を依頼している。

 

(4)研修事業の評価

1)実行主体の評価について

 受講生からの評価はその都度求めて、その結果を次の機会に生かすようにしている。他の研修や他分野の研修との比較などが必要であると認識している。5年経つので、今後のことも含めての第三者評価なども必要であろう。

 

2)参加者の評価について

 科目ごとと全体の2種類のアンケートを実施。全体的に満足度が高く、特に、地方の職員からは、研修の機会があることに対する評価が多い。内容に対するコメントが多い。ベテラン司書からは、物足りないとの声もきこえる。

 具体的なコメントでは、開催場所、開催時期・時間への要望も多い。開催場所については、特に地方からの参加者のコメントとして、東京以外での開催の要望がいくつか見られた。また、夜間の開講については、開始時間の問題はあるものの仕事の面からは参加しやすいという意見が見られる一方、地方在住者や子育て中の女性からは、夜間であると物理的に参加が困難であるという意見も寄せられている。内容に関するコメントでは、内容を評価する声が多いが、集合研修・講義形式にとらわれない研修やより高度な内容への要望が見られる。また、社会的に認知されやすい修了の印を求める声もあり、名称付与という課題の重要性を感じさせる。(12)

 

(5)研修事業の今後の展開

1)現在の研修プログラムの課題について

 現在のもっとも大きな課題は、図書館界の想定する職員配置と現実の雇用状況とのずれであり、研修対象や内容の設定に困難がある。

1.ステップアップ研修は中堅職員の研修が目的なので、長期常勤雇用の職員を対象とすることを想定しているが、実際には、臨時職員・非常勤職員の応募が多い現状がある。

理由としては、現場には臨時・非常勤対象の研修がないこと、ここ5〜6年で図書館の状況が変わり、職員の雇用状況も当初とはまったく違ってしまっていることが挙げられる。

臨時・非常勤でも図書館司書としての仲間であることは変わりなく、受け入れることとしている。この雇用形態の職員は短期雇用が中心なので、図書館の中長期的方針を企画立案できる職員の養成という現在の研修目的からは外れること、日本図書館協会の研修受講を人材派遣企業が営業目的に利用する可能性があること、などの課題がある。

2.現在の図書館職員の雇用状況から考えて、上級者を対象としたステップアップ研修3が成立するかどうかがわからないという実情もある。現在の公共図書館の雇用状況では、常勤職員(地方公務員)の他部署への異動が多く、研修に該当する対象者がたいへん少ない。

 

2)今後の研修事業の中長期的方針について

1.経験10年以上を対象とした研修については、まずはステップアップ研修1、2の確実な実施を積み重ねていくなかで、今後について検討することになる。

2.大学図書館についての研修は現在検討しているが、大学図書館ごとに個別テーマがあること、利用者教育をどのように扱うかということ、研修の時間の設定・講師人材の選定をどうするかということ、など課題が多いので、継続して検討していく。

3.学校図書館に関しては、他の団体の実施状況も踏まえて考えなければならない。

 

(6)図書館職員の研修に関して国立国会図書館に求めること

 各機関や図書館で行う研修に対する後方支援を中心としてほしいと考えている。具体的には、豊富にある資料・人材を提供することや相互協力のための連絡調整を望んでいる。

 

(7)まとめ

 今回のヒアリングでは、大きく3つの課題が浮かび上がってきたように思う。第一に、図書館界では司書の専門性の社会的認知を望んでいるが、実際の雇用状況では、常勤職員や司書職の雇用の減少がある。今後、中長期的視野に立って図書館経営に携わっていくことのできる管理職、監督職や専門的な知識や技能を持って利用者のニーズを的確に充たすことのできる専門職を、研修等によって育成したりレベルアップしたりすることで、司書の専門性や常勤雇用の重要性の社会的認知につなげていくことができるかどうかが重要になっており、そのためにも司書を対象とする体系的な研修の実施の成果が期待されるところである。第二に、館種によってニーズが違うので、すべての館種の司書に適切な研修を一度に実施することは難しい。今後、館種ごとの研修をどの機関がどのように実施し、協力していくかも重要であろう。第三に、講師選定にあたり、現段階ではその実情に多くの課題、制約がある。人材データベースを複数の機関で共有することができれば、より有効な研修が可能になってくるだろう。

 これらの課題は、1機関で解決するのは難しく、複数機関の協力が期待されるところである。


[注]

(1)「専門性の確立と強化を目指す研修事業検討ワーキンググループ報告書」(1998年10月) (http://www.jla.or.jp/kenshu/kenshuwg/wg%20hokoku1998.pdf

(2)「専門性の確立と強化を目指す研修事業検討ワーキンググループ(第2次)報告書」(2000年3月) (http://www.jla.or.jp/kenshu/kenshuwg/index.html
この報告書に、資料として、「業務分析(公共図書館)」「業務分析(大学図書館)」も掲載されている。

(3)研修開始の簡単な経緯と概要は、以下の記事に掲載されている。
西村彩枝子「日本図書館協会中堅職員ステップアップ研修=LISTをいよいよ提案へ」『図書館雑誌』94(6),2000.6.p.416-417.

(4)「社会教育主事・学芸員及び司書の養成・研修等の改善方策について (生涯学習審議会社会教育分科審議会報告の概要)」
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/08/06/960611.htm

(5)「中央教育審議会生涯学習分科会2003年11月11日 議事録」でも、図書館司書の必要性についての言及があり、この回の配付資料のひとつ「図書館の現状と課題」で課題として図書館司書の専門性の向上が挙げられている。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/siryou/001/03111101.htm

(6)「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について(答申)」(生涯学習審議会 1998年9月)(http://www.jla.or.jp/kenshu/kenshuwg/wg%20hokoku1998.pdf

(7)前掲3),p.416.

(8)日本図書館協会HP等に掲載。(http://www.jla.or.jp/kenshu/stepup2004-1.html

(9)日本図書館協会HP等に掲載。(http://www.jla.or.jp/kenshu/stepup2004-2.html

(10)『日本の図書館学教育 2000年度版』によると、司書課程の単位は、20単位〜48単位の大学がある。

(11)前掲2),p.5,7.

(12)日本図書館協会提供のアンケート集計結果より