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筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科 山本 順一(やまもと じゅんいち)
(1) NCLISの沿革
NCLIS(U.S. National Commission on Libraries and Information Science)は、1970年に設置された連邦政府に属する独立行政機関(independent federal agency)である。「図書館情報学国家委員会」「図書館情報学全国委員会」などの訳語があてられているが、ここでは「全国図書館情報学委員会」と訳しておきたい。1970年の設置法(Public Law 91-345:20 U.S.C. 1501 et seq.)には、「アメリカ合衆国国民のニーズを満たすに十分な図書館情報サービスは、国家目標を達成するために不可欠である」との民主主義社会における図書館サービスの意義について言及されている。
この機関はアメリカの図書館情報政策諮問機関で、その任務はアメリカ国民の図書館情報サービスにかかるニーズを確定すること、およびそのアメリカ国民の図書館情報ニーズを全国レベルの政策に反映させる勧告を作成することであり、NCLISには大統領、連邦議会、州、地方政府その他に全国レベルの政策を実行するよう助言、勧告する役割、期待が課されている。
1996年に全国図書館情報学委員会法が改正され、博物館・図書館サービス振興機関(Institute of Museum and Library Services:IMLS)の長に政策的助言を与えることがその任務に加えられた。
(2) NCLISの構成・活動
NCLISは、当初、議会図書館長のほか、上院の助言と同意を得て大統領によって任命された14名の委員から構成されていたが、現在はIMLSの長が加わり、計16名の構成となっている。大統領に任命される14名の委員は非常勤で、5名はライブラリアンまたは情報スペシャリストとされており、ほかは図書館情報サービスについて特別な学識を有するものとされる。任期は5年であるが満了期間がずらされ、毎年2~3名が入れ替わる仕組みがとられている。
連邦政府からNCLIS に与えられる資金は近年ほぼ一定しており、2006会計年度は 993,000ドルであった。この支出の大半は、フルタイム換算で5人の職員の人件費と委員等の会合関係の出費で消えてしまう。1年に1、2回のフルメンバーの会合が開催されるだけで、あとの事務連絡はテレビ電話会議や電子メールなどで行なわれている。この状況から分かるように、全国レベルの行政機関というにはあまりにも非力で、予算不足に悩むこの機関の目下の最大の課題は財政問題である。
NCLISは、これまで全国教育統計センター(National Center for Education Statistics:NCES)と協力して、アメリカ国内の公共図書館、州立図書館、大学図書館、学校図書館の調査を実施してきた。
2004年1月、それまで空席となっていたポストも含めて12名の新委員が任命された。そして、2005年2月23日、新生NCLISは『新しいNCLIS(Special Report: The New NCLIS)』(1)と題する将来計画を公表した。そこでは、今後、NCLISが取組もうとしている重点活動領域が示されている。具体的には、(1)防災情報センターとしての図書館、(2)健康情報の提供における図書館の役割、(3)図書館情報資源・サービスの評価、(4)学校図書館が教育に及ぼす効果、(5)高齢者に対する図書館サービス、(6)国際協力に関する課題がそうである。
また、連邦教育省は、上にふれた公共図書館と州立図書館につきNCLISとNCESが行ってきた調査を、IMLSが実施している同様の事業に統合しようとしている。
参考までにNCLISの組織図を以下にあげておく。
図1 NCLISの組織図
(1) U.S. National Commission on Libraries and Information Science. “Special Report: The New NCLIS”. 2005. http://www.nclis.gov/about/SpecialReporttNewNCLIS.pdf, (accessed 2007-03-05).
Ref: “The U.S. National Commission on Libraries and Information Science”. http://www.nclis.gov/, (accessed 2007-03-05).