カレントアウェアネス-E
No.366 2019.03.28
E2122
Scholars ARE Collectors:研究支援再考への提言(米国)
2018年11月,米・Ithaka S+Rは研究支援についてのイシューブリーフ“Scholars ARE Collectors: A Proposal for Re-thinking Support”(以下「報告書」)を公開した。報告書は,同団体がこれまで実施した研究支援サービスに関する調査(E1380,E2059参照)を踏まえ,研究者を,多様な研究データを収集する「コレクター」として捉え,その「収集活動」(研究フロー)全体を反映させた研究支援について,学術研究機関が中心となって組織レベルで再考することを促す内容となっている。
●研究支援の現状と課題について
報告書では,まず,研究者は複雑な研究データを生成・収集・分析しているが,現状の研究支援サービスは特定の研究課題やコンテンツを扱う研究者にしか対応しておらず,十分な支援が行われているとは言い難いと指摘する。今後研究費助成の要件として,様々な研究分野で研究データ管理計画(DMP)の提出や研究データの公開がより厳しく要求される可能性が高い。しかし,研究分野によって研究データは複雑多様で,異なる形式をとり,その規模も大小さまざまであるが,現状,研究者による適切な管理や研究支援サービスは行われていない。よって,資金提供機関(Funders)が何を「データ」と定義しているかを把握したうえで(研究者自身もデータとして認識していないものもある),研究者の研究フロー全体における研究データの収集活動について,研究手法の設計,研究の実施,分析,アウトプット/インプット,共有などの各段階での支援を,全分野にわたって包括的に行うべきであるとしている。●学術研究機関は何をすべきか?
次に,研究支援に関するステークホルダーとして「資金提供機関」「オープンデータ推進団体(Open Data Advocacy Group)」「外部ツール・サービスのプロバイダー(External Tool and Service Providers)」「学術研究機関(Academic Institutions)」を挙げ,それぞれの取り組みについて紹介している。特に学術研究機関について,組織として業務が縦割り型であるため,研究環境の変化に対する動きが保守的であるという問題点を指摘している。また,現在は大学図書館により調整された,各学術研究機関独自の研究データ管理(RDM)活動支援サービスが提供されることもあるが,リソース集約型で,様々な研究主題と機能に関する専門知識を要するため,サービスの維持が困難で,一部の図書館でしか実現していないことも言及されている。そして,包括的な研究支援が行われていないことによる,今後考えられる損失として,機関内で生成された情報・知識の管理不足や所有権の喪失,情報ポリシー策定の際の障壁,ツールの大学のIT基盤との非互換性,効率的なツールの未使用や独自システムの利用による研究生産性の低下,研究支援に関する責任の所在の不明確さによるキャンパス間のサービスギャップなどを挙げ,それを避けるために学術研究機関が中心となり,より積極的に戦略的アプローチを講じ,研究活動全体を反映するサービスを検討する必要性を述べている。以下,学術研究機関に対する具体的な提言をいくつか紹介する。
- 研究者を研究データのキュレータとして直接の対象とするサービスを設計・推進する。
- より包括的な支援を提供するために,RDMを見直す:組織として業務範囲や責任の所在の明確化,オープン化できないデータの存在の 認識等。
- 学術コミュニティ全体のデジタル情報に関する処理能力を向上させる:研究者に対する新しいデジタルツールやサービスに関する告知および使用方法のガイダンスを行う。分散された業務を統合し,組織としての協力体制を構築する。情報管理について大学院生への研修を行う等。
- 急成長中の研究ワークフロー支援ツール市場と協同する機会を求める:支援ツール改善のためベンダーと協力する。研究分野別の要件(disciplinary requirements)および支援ニーズを体系的に検討するため,学術研究機関の管理部門(administrative units)と学術部門(academic units)が研究ワークフロー支援アプリの選択,管理および支援を行う。機関内全体において体系的で信頼性の高い研究技術の支援基盤構築を行う。
- 研究ライフサイクルを通して収集・生成される情報の保存のための,大学全体の方針,仕組み,ガイダンスを開発する:情報がまだ研究者のもとにあるうちに,情報の管理・保管・保存について積極的に役割を担う。各段階のキャリアの研究者のニーズを考慮する。データ保護規制に準拠するウェブベースのコンテンツの管理および保管用に設計されたツールに重点的に取り組む。学術的ワークフローと出版のニーズに応じ,機関リポジトリを改善する等。
- 物理的媒体にもまだ役割があることを認識する。
●最後に
報告書では研究者目線での研究支援の重要性が説かれたが,最後に,文化機関や市民が果たしてどのように,そしてどの程度まで研究者の研究データを利用できるかという問題についても触れ,本報告書の内容を超えた更なる探究を必要とする大きな課題であると結んでいる。名古屋大学附属図書館・関戸晃太
Ref:
https://doi.org/10.18665/sr.310702
https://sr.ithaka.org/blog/new-issue-brief-on-scholars-as-collectors/
E1380
E2059