E2123 – 大学の戦略との一致度からみる大学図書館のサービスについて

カレントアウェアネス-E

No.366 2019.03.28

 

 E2123

大学の戦略との一致度からみる大学図書館のサービスについて

 

 本稿ではOCLCとIthaka S+Rが2018年10月に発表した報告書“University Futures, Library Futures: Aligning library strategies with institutional directions”について紹介する。報告書では,米国の高等教育機関のワーキングモデルを教育活動及び提供形態の点から定義し,主要な9つの図書館サービスの枠組みから機関の類型を比較し,図書館のサービス内容が大学の組織上の優先事項に対応しているという仮説を検証することを試みている。教育活動は,博士課程の「研究」,学士課程の「教養教育」,その他の「職業教育」について各機関が最も重心を置く活動の点から分類しており,提供形態としてキャンパスへの通学を前提とする授業と,オンラインコースの2つが挙げられている。OCLCは大学の3つの類型を検討し,Ithaka S+Rは図書館サービスについての調査を担当した。

 この調査では,対象に含めた機関の図書館長1,477人に図書館と大学の方向性の異同に関するアンケートを送付し,最終的に581の回答が集まった。また,アンケートとは別に,フォーカスグループインタビューを実施している。

 今回の調査の背景として,米国の大学図書館について,蔵書の規模で分類し評価する従来のモデルが変化していることが挙げられる。報告書では,カーネギー高等教育機関分類や中等後教育総合データシステム(IPEDS)の職業教育の基準を基にしながら,4年制の高等教育機関を対象に研究,教養教育,職業教育の3つのグループに分けている。大学の3つの類型は排他的なものではなく,複数の類型にまたがっている大学もあった。回答全体の機関の類型の内訳として,研究は8%,教養教育は62%,職業教育は30%であった。調査結果に基づく分析によると回答者は,こうした大学の類型化は自身の大学組織の戦略方針を良く表している指標であること,所属機関の戦略を既に図書館サービスに反映できていることを信じている。単一の指標では測ることが難しかった,オンラインコースの提供等の大学の取り組みの評価を組み込める点が,今回の指標のメリットであるとしている。

 図書館の9つのサービスとして,(1)学内のコミュニティーが集う場やプログラムの提供,(2)学修支援,教育活動の支援,(3)所蔵コレクション以外を含む情報源へのアクセスの促進,(4)学術と創造を育むこと,(5)学内構成員によるキャンパス外からの資料へのアクセス支援,(6)特別コレクションの保存と活用,(7)学習スペースの提供,(8)学術情報の専門家であること,(9)既存の学術出版の変革,を挙げている。どのサービスを重視するかという調査項目に関して,大学図書館全体として,蔵書コレクションの提供等にかかる物理的なスペースを削減したいと考えられていることが明らかとなった。

 調査では研究,教養教育,職業教育をどの程度重視しているかについて,大学図書館長の回答から大学と図書館の方針の分析を試みている。大学と図書館の差異という点では,職業教育に対する注力の度合いの差が一番大きく,回答全体で平均して,図書館は大学より7ポイント低かった。例えば研究支援に対するアプローチ方法は明確化しており,専門のスタッフの配置もなされているが,職業教育に関しては,図書館がどのようにアプローチするのか,定まったサービスモデルがないとしている。

 大学の類型の調査において,大学を取り巻く環境の変化が,授業履修の形態や進学率,学生の男女比・年齢構成・人種・経済状況の変遷を通じて示されている。以前は経済的に恵まれた若い白人男性が学生の典型でキャンパスへの通学を通じた授業履修が主であったが,現在では学生は性別,年代,人種において多様化しており,科目等履修生の増加や,インターネットを通じた授業提供等,学びの在り方も変化している。高等教育政策の点から,こうした変化への対応が,教育プログラムやカリキュラムでの対応と同様に,学生に対する支援の面でも注目されている。回答結果から,こうした多様化するニーズに対応する必要性が明確になったことは,今回の調査の重要な成果であると述べている。

 本報告書では,これまで典型としてきた大学生像が変わり学び方のスタイルも変わっていくなかで,大学の戦略も変化しておりそれに大学図書館の方針とサービスが対応できているのかが検討されていた。日本の大学でも18歳人口の減少や留学生増加等により,より多様な学生のニーズへの対応が求められることが予想される。大学図書館もこうした変化に対応したサービスを検討し,事業計画や戦略に組み込んでいくことが必要となるだろう。

関西館図書館協力課・小野恵理子

Ref:
https://www.oclc.org/en/news/releases/2018/20181018-ithaka-report-aligning-library-strategies.html
http://sr.ithaka.org/blog/universities-are-changing-and-so-are-their-libraries/
https://doi.org/10.25333/WS5K-DD86
E1560
E2002