E1835 – 持続的な地域資料保全活動を行うために必要なことは(米国)

カレントアウェアネス-E

No.310 2016.09.01

 

 E1835

持続的な地域資料保全活動を行うために必要なことは(米国)

 

 2016年の世界図書館情報会議(WLIC):第82回国際図書館連盟(IFLA)年次大会では,文書遺産の所在情報を集約するIFLAのプロジェクト“Risk Register”や災害時の資料保全活動をテーマとしたセッションが催された。本稿では,“Alliance for Response Pittsburgh”(AFR Pgh)が,持続可能な地域資料保全活動団体へと転換するために行った様々な取組に関する報告を,大会の予稿をもとに紹介する。

●組織の沿革と活動衰退の予兆

 AFR Pghは,米国の文化遺産保存団体“Heritage Preservation”が,資料保存機関間の連携強化,地域資料保全活動の改善,地域資料保全活動団体の創設支援等を目的に2003年に立ち上げた事業“Alliance for Response”(AFR)の支援を受け,2008年にペンシルバニア州ピッツバーグで創設された団体である。AFR Pghでは,同地で直面することが多い資料の水損被害への対応に焦点を当てた活動を行ってきたが,2010年頃から活動が組織面で衰退し始めたことを感じるようになる。団体の崩壊を避けるため,2011年から様々な取組が実行された。

●運営委員会の組織改革:多様性と指導性

 当時の運営委員会は,3つの大学図書館とピッツバーグ市からの固定メンバーによって担われていた。しかし,将来にわたって活発な活動を維持するためには,個人の熱意に依存した組織運営から脱却し,多様なメンバーで構成され,指導性を発揮できる組織に転換する必要があると考えられた。そこで,任期1年の運営委員会のメンバーを,会員の互選とし,図書館,ミュージアム,文書館,地域の歴史協会,地方政府といった多様な組織から選出するように改めた。また,運営委員会を,議長,副議長,幹事,会計,プログラム委員長,企画委員長,メンバーシップ/マーケティング委員長という構成とし,会員数の拡大,プログラムの実施,マーケティング活動への従事,連邦・州レベルのAFRの会議への出席,近隣地域の地域資料保全活動団体との連携やその創立の支援といった面で指導力を発揮できるよう位置づけた。

●会員数の拡大:ターゲットの設定

 活動の拡大のためには,地域の歴史協会や史跡の関係者,危機管理担当者・地方政府の職員の参加が必要と考え,彼らをターゲットとした会員数拡大活動を行った。前者は,この活動により最も恩恵を受ける住民であるが,活動が非公開で,ウェブ上に情報が存在せず,人脈を形成することが難しかった。そこで,彼らが興味を持つワークショップを開催し,参加してもらうことを通じて人脈を形成した。後者は,米・国土安全保障省による地域の安全保障に関する取組を支援する制度“Protective Security Advisor”の担当者をイベントの講師に招くことで人脈をつくり,そこから地方政府の職員との人脈を形成した。このつながりは,情報源として貴重であるだけでなく,地方政府の危機管理計画や日常の緊急事態対策に資料保全活動を組み込むなどのメリットを生んだ。

●多様なプログラムの開発:会員数拡大・維持のために

 会員数の拡大・維持には,多様な資料保全に関するプログラムの提供が大切であると考え,創設以来,講座・見学会・ワークショップという3つのタイプのイベントを20回実施してきた。その際,会員のキャリアに応じたプログラムの継続的な実施や,プログラムの記録のアーカイブ化も行うよう配慮した。米国図書館協会(ALA)の“Preservation Week”(4月)等,関連が深い他のイベントにあわせてプログラムを実施するのが参加促進のためには効果的であった。運営資金が乏しい同団体では,無料のプログラムを継続するため,図書館団体への加盟,スポンサーの確保など,ネットワークの形成に取り組んだ。

●会員とのコミュニケーション:ソーシャルメディアの活用

 会員への最新情報の提供や会員との頻繁なコミュニケーションが重要であると認識し,そのための取組も行った。メーリングリストの開設,ウェブサイトの拡充,ニュースレターの発行を行ったが,Facebookの活用は,組織,イベント,地域,市政,災害等に関する情報を会員間で共有することを促進するという点で大きなメリットがあった。

●まとめ

 本報告は,世界の資料保全活動団体の多くが,資金不足・組織基盤の脆弱性・会員活動の弱体化により,その維持が困難となっていることを指摘し,そのような課題に対処することに成功したAFR Pghの知見を共有することを目的としたものである。日本の同種の活動においても,類似の知見や課題が報告されている(E1834CA1630CA1743参照)。自然災害は世界各地で発生するため,地域資料の保全活動は世界的に重要な取組である。その活動の持続可能性に関する課題については,国・地域ごとの独自性も含めて共有し,対処していかなければならないであろう。 

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://library.ifla.org/view/conferences/2016/2016-08-18/717.html
http://library.ifla.org/1430/
http://library.ifla.org/1430/1/211-nixon-en.pdf
http://www.heritageemergency.org/
https://sites.google.com/site/afrpittsburgh/
https://www.facebook.com/afrpgh/
https://www.dhs.gov/protective-security-advisors
http://www.ala.org/alcts/preservationweek
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I023347749-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I025156985-00
E1834 
CA1630
CA1743