CA1640 – 中国国家デジタル図書館の概況 / 申暁娟

 

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カレントアウェアネス
No.294 2007年12月20日

 

CA1640

 

中国国家デジタル図書館の概況


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 中国国家図書館(NLC)は、1995年から世界におけるデジタル図書館研究とその発展動向のフォローアップを図り、技術や経験を大規模に蓄積してきた。2002年、政府関連部門の承認を経て、「国家図書館第二期工事ならびに国家デジタル図書館プロジェクト」が立ち上がった。このプロジェクトは二つの部分から成っており、その一つが中国国家図書館第二期工事、もう一つが中国国家デジタル図書館プロジェクトである。

 

1.中国国家図書館第二期工事

 NLCは現在2館に分かれており、総面積は17万平方メートルである。そのうち、本館である一期館は1987年、分館である古籍館は1931年に建設された。

 第二期工事は2004年末に竣工し、2008年3月に落成、2008年8月に開館の予定である。新館は一期館の北側に位置し、総面積は80,353平方メートルである。完成後の館全体の収蔵能力は3,200万冊(点)に達する予定で、今後30年の需要を満たすものとなる。

 完成後の二期新館は、主に一般図書、雑誌、新聞の閲覧・貸出サービス、および電子資料の閲覧サービスの提供を行う。また、国家デジタル図書館の多くのハードウェア設備や研究開発センターも、新館内に敷設される予定である。

 新館は、幅広い利用者に良質のサービスを提供することを目標とし、その目標を実現するためにいくつかの技術手段を採用する計画である。具体的には、(1)RFIDシステムを全面的に採用することで、新館内の貸出閲覧に供する100万冊(点)近くの資料をICチップによって管理し、貸出と閲覧の管理を一本化して自動貸出・返却を行う、(2)無線LANを提供し、持ち込んだノートパソコンで、利用者が手軽にNLCのデジタル資源を利用できるようにする、(3)携帯電話を使っての予約、返却督促、延長手続き、館内案内などのサービスを提供する、などである。

 

2.中国国家デジタル図書館プロジェクト

 NLCの策定した中国国家デジタル図書館プロジェクトは、2005年に着手され、2009年の完成を予定している。プロジェクトの目標は、中国語デジタル資源を重点的に収集、作成、長期保存するとともに、国内および世界各国に向けて提供し、中国国家デジタル図書館を世界最大の中国語デジタル資源の保存・サービス拠点とすることである。

2.1 プロジェクトの主要な計画

 プロジェクトの主な計画は、以下のとおりである。(1)ハード、ソフト両面のシステム構築を通じて、膨大なデジタル資源の収集、加工、保存、管理、サービスを技術的にサポートするプラットフォームを構築する、(2)特色ある所蔵資料のデジタル化に重点を置き、重要なデジタルアーカイブやネットワーク資源を収集・保存して、国家レベルの学術的デジタル資源長期保存センターを設立する、(3)中国語情報資源サービスプラットフォームを構築し、政府機関、教育機関、科学研究機関、企業および社会公衆に情報サービスを提供するとともに、他のデジタル図書館システムへのサービス支援を行う、(4)デジタル図書館に関する標準規格の研究を推し進める。まずは、国家デジタル図書館標準規格体系を構築し、中国語情報処理に関するコア技術および規格の研究開発を進める。

2.2 プロジェクトの進展状況

 NLCは、1987年より機械可読目録データ(MARC)の作成を開始し、現在ほとんどの所蔵資料が、Web OPACで検索可能である。利用者はインターネットを通して、NLCの所蔵状況を調べられるだけでなく予約や延長手続きも行うことができる。

 より多くのユーザーに、インターネット上で手軽に特色ある所蔵資料を利用してもらうために、2000年から計画的に、それらの資料のデジタル化を進めている。主に全文画像データ、全文テキストデータおよび音声・画像データを作成しており、これまでのところデジタルデータの総量は、120TBにのぼる。その内容は、現代の中国語図書、中華民国期の資料、博士論文、館蔵の地方志資料、甲骨文献、石刻拓片、敦煌文書、音声デジタルデータ、学術講座および展示などである。これらのデータは、既にインターネット上に公開されているものもあり、その他のものも、国家デジタル図書館プロジェクトにおけるソフト・ハードシステムの構築にしたがい、順次提供していく。目下、これらの資料についてナビゲーションシステムを構築中であり、それによって、オンラインでの総合ナビゲーションを実現させる。

 このほか、さらにインターネット資源の長期保存実験を展開しており、これまでのところ試験的に、中国の政府機関サイト2万余り、中国語電子新聞113紙、およびオリンピックや中国学を含む7つの主題に関する資源を保存している。その中で、著作権保護の問題がないものや既に許諾が得られているものについては、国家図書館インターネット資源サービスプラットフォームを通じて利用に供している。

 利用者の電子資料利用への要望に応えるため、NLCはさらに大量の電子資料データベースを購入している。その内訳は、中国語・外国語データベース101点、西洋古典籍8,000点、中国語電子図書15万点、中国語・欧文全文電子ジャーナル1,900余誌、中国語・欧文全文電子新聞1,100余紙、AV資料11万余点、電子出版物2万点である。これまでは、データベースの数が多いことから、ユーザーはデータベースごとに何度も検索しなおさねばならず、非常に不便であった。そこで、2006年5月、NLCは国家デジタル図書館サービスポータルを開始した。これにより、ユーザーは利用者カードによってシステムにログインすれば、複数のデータベースを横断検索でき、検索結果も一覧可能となり、NLCの膨大な情報資源を効率的に利用できるようになった。

 NLCは、図書館界へのサービスにも重点をおいており、全国総合目録センターを設立することで、国内の他の図書館が書誌データおよび所蔵データを共有できるようにした。現在、総合目録データは190余万件、ユーザーは600余館に達している。また、総合目録システムを基盤とした図書館資料相互利用システムの構築を計画しており、このシステムを利用することで、全国の図書館が他のどの図書館からでも図書館間貸出や文献提供サービスが受けられるようにする。

 さらに、現在バーチャルレファレンスサービスプラットフォーム(「ウェブレファレンスデスク」(CA1636参照)の発展形)構築の準備作業を進めており、国内の各図書館と連携して、総合バーチャルレファレンスサービスを提供する計画である。と共に、他の図書館へのレファレンスサービス支援や、レファレンス担当者の研修プラットフォームも提供する予定である。

 中国の大都市の家庭ではすでに、デジタルテレビが広まりつつある。NLCはデジタルテレビの運営機関との間で協議を始めており、デジタルテレビシステム内に専門チャンネルを開通し、多くの利用者にデジタル資源サービスを提供する計画である。

 自国の文化遺産の長期保存は、一貫して各国の国立図書館の重要な任務の一つである。NLCは、伝統的な紙媒体資料の保存・保護においては多くの実績があるが、デジタル資源の絶え間ない増加に伴い、この種の資源の長期保存の問題についても検討しており、この問題への対処として、国家デジタル図書館システム内に長期保存システムを設計した。このシステムはOAIS参照モデルに準拠して構築され、重要なデジタル資源やインターネット資源の長期保存を実現する。

 目下、中国国家デジタル図書館プロジェクトは重要な時期にさしかかっている。NLCは、デジタル資源の統合を進めることで、有用な資源を使いやすい形で利用者に提供し、その科学研究、教育、生活や仕事における情報や知識への需要を満たすことを目標としている。

中国国家図書館:申晓娟(しん ぎょうえん)
訳 関西館アジア情報課:清水扶美子(しみず ふみこ)

 

 

Ref:

国家图书馆二期工程暨国家数字图书馆工程数字图书馆系统部分初步设计(内部资料). 2005.

孙一钢 et al. 我国主要国家级数字图书馆工程项目介绍. 数字图书馆论坛. 2006, 2006年第1期, p.47-62.

中国国家图书馆. “国家图书馆二期工程暨国家数字图书馆工程”.
http://www.nlc.gov.cn/ndlc/gcgk.html, (accessed 2007-09-06).

 


申晓娟. 中国国家デジタル図書館の概況. カレントアウェアネス. (294), 2007, p.2-3.
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