E952 – Google Scholarはどのくらい学術的か?<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.154 2009.07.22

 

 E952

Google Scholarはどのくらい学術的か?<文献紹介>

 

Howland, Jared L.; Wright, Thomas C.; Boughan, Rebecca A.; Roberts, Braiam C. How Scholarly Is Google Scholar? A Comparison to Library Databases. College & Research Libraries. 2009, vol. 70, No. 3,p. 227-234.

 Google社が提供している学術論文検索サービスGoogle Scholar(GS)は,図書館員に限らず,学生や研究者が日々学術情報を探す際に幅広く利用されている。しかし利用されてはいるものの,それが検索する範囲とその結果の正確さに対しては,なお不信感が付き纏っているのが現状ではないだろうか。本論文は,その不信感の妥当性について検証を試みたものである。

 著者らの先行研究のまとめによると,既存の研究はGSと図書館がライセンス契約をする他のデータベースの検索結果から得られる,タイトル件数や引用件数の比較に終始しているという。そして,たとえ他のデータベースの検索でヒットし,それがGSの検索で表示されなくとも,それが直ちにGSの学術情報源としての価値を否定するものではないと,先行研究の判断を批判している。著者らは検索結果の数ではなく,検索結果として何が出てくるのか,あくまでその質を評価すべきと主張している。

 この主張に基づき著者らは,(1) 図書館がライセンス契約をするデータベースの検索結果とGSの検索結果の質を比較して,GSが学術的かどうかを調べ,さらに(2) GSの学術的性格は専門領域を超えて違いがあるのかどうかについて検証を行った。

 実験には,著者らが勤めるブリガムヤング大学の自然科学,社会科学,人文科学分野のサブジェクトライブラリアン7人が協力した。まず,彼らが日常受ける典型的な質問をもとに,GSと図書館のデータベースを使って検索した結果のうち,それぞれ上位30件を対象として重複の程度を算出した。さらにそれを,前述の7名が正確性,信用性,客観性,即時性,網羅性,関連性の6つの基準で3段階評価を行うことで,検索の結果得られた文献の学術的な価値を数値として算出するという方法をとった。評価後,文献を(1) 図書館のデータベースのみにあり,(2) GSのみにあり,(3) 両方にあり,の3つに分類した。

 さて,以上の検証の結果,GSでのみ表示された文献の学術的価値を示す得点の平均は,図書館でライセンス契約しているデータベースでのみ表示された文献のそれよりも17.6%高かったこと,GSでの学術分野ごとの学術的価値に,統計学的に大きな差異は見られなかったことが明らかとなった。また,GSが図書館のデータベースの文献の大多数を含むことが分かったこと,検索結果の関連性順表示によりGSでは検索者にとって必要な情報が上位に来ることから,著者らは図書館の契約するデータベースよりもGSの方が学術的であると結論づけている。

 以上の通り著者らはGSに軍配を挙げてはいるものの,自身の研究手法に問題があることにも自覚的である。特にGSの検索結果が学術的であるかどうかという検証については,より包括的で客観的な研究が必要であると指摘している点に,読者の注意を促しておきたい。例えば,専門的な知識を持つライブラリアンではなく学生の検索結果でGSと他のデータベースを比較すること,GSと統合検索サービスを比較することなどが今後の課題として挙げられている。我々は,本研究を,あくまで「なんとなく」不信感を抱きながらも使用していたGSに対し,立ち止まってその価値を考え直すきっかけを与えるものとして理解すべきであろう。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://www.lita.org/ala/mgrps/divs/acrl/publications/crljournal/2009/may/mayab.cfm