E811 – 図書館は「ニート」をどのように支援していくか(英国)

カレントアウェアネス-E

No.132 2008.07.23

 

 E811

図書館は「ニート」をどのように支援していくか(英国)

 

 英国では「教育を受けておらず,労働についておらず,職業訓練を受けていない(not in education, employment or training;NEET,以下「ニート」とする)」若者への対策が模索されている。資金や実務面からニートを支援しているPrince’s Trustによると,16歳から24歳のニートは,2006年には約124万人とされており,1997年から約15%増加している。また彼らニートが就業していないことは,週あたり約9,000万ポンド(約192億円)の損失に当たると分析されている。ニートに対する対策として英国教育技能省(DfES)は,2007年3月に公表した政策提案書“Raising Expectations: staying in education and training post-16”において,2015年までに,17歳人口の90%を教育または職業訓練に参加させるプランを打ち出しているほか,地方自治体においても,政府と地方自治体との間で締結される地域エリア協定 (Local Area Agreements)に,ニートへの対応を優先度の高いテーマとして盛り込む例がある。

 このような状況を背景として,図書館がニートにどのような支援を行えるのかについて考察を加えた,サービスコンサルタント・ムーア(Simeon Moore)氏による記事が,英国図書館情報専門家協会(CILIP)の機関誌“update”の2008年7/8月号に掲載されている。

 ムーア氏は,図書館が若者の創造力を引き出し,どのようなサービスが必要なのかについて彼らから直接意見を聞くといった,図書館と若者との密接な協力関係に基づくサービス開発の重要性を指摘している。そこで若年層とのパートナーシップにより,若年層向けの革新的な読書活動のためのエキサイティングな場を開発,運営,提供することが,想像力に富んだ枠組みであると提案する。このようなサービスの事例として,ムーア氏はスウェーデンのストックホルム図書館のプロジェクト“PUNKTmedis”と,シンガポール国家図書館委員会によるプロジェクト“Verging All Teens”を紹介している。

 その上で,ニートに対する図書館からのアプローチとして,ムーア氏は2つの提案を行っている。1つは,若年層がニートの状態にある理由を見極め,それに立ち向かおうとする若者に対する支援の方針を,図書館が策定することである。その支援内容は幅広く,資格取得や教育の支援といったことから,家事に束縛されている若者をサポートしてくれる専門機関を紹介する,犯罪歴がもたらす影響を説明する,健康障害あるいは身体障害に関する適切な情報を利用できるようにする,薬物やアルコール中毒についての専門機関の情報を提供する,などの対応も,図書館によるニート支援のひとつであるとしている。これらの支援サービスは,複数機関との協力により行われるものであるが,他の機関と比較して,図書館が中立的であると見られていることや,以前から若年層と協力していた実績を有していることから,図書館はこのような役割を担う最適の機関であるとムーア氏は指摘している。

 もう1つの提言は,ニートの課題を理解し,彼らを支援するために必要な他の関連機関との協力関係を構築することである。とりわけ協力関係の構築に関しては,ニート向けプログラムの先進事例の研究ばかりでなく,プログラムの提供に向けた資金確保や,プログラムに対する若年層への動機付けにも目を配る必要があると指摘している。

 ニートへの支援は,優先順位の高い課題として,政府や地方自治体に受けとめられている。このようなニートへの支援サービスは,図書館にとって新たな可能性をもたらし得る事業といえよう。ムーア氏の指摘を,英国の図書館界はどのように受け止め,実行に移すのか,注目に値しよう。

Ref:
http://www.cilip.org.uk/publications/updatemagazine/archive/archive2008/julaug/Moore.htm
http://www.princes-trust.org.uk/
http://www.iagworkforce.co.uk/files/IAGXXX0001/HOME%20Page/DfES_Raising_Expectations_Green_Paper.pdf
http://punktmedis.blogspot.com/
http://www.ifla.org/VII/s46/conf/2006/Eastell.pdf