カレントアウェアネス-E
No.107 2007.05.30
E650
ナチスのホロコースト関係資料,秋にも公開へ
International Tracing Service(ITS)の保管しているナチスのホロコースト関係資料が,この秋にも公開される見通しとなった。
ITSは,第二次世界大戦時の戦争犠牲者に関する資料を保管している機関であり,1933年にナチス政権下で強制収容所が建設されてから戦争終結に至るまでの逮捕,移送,投獄,強制労働,そして死亡の記録など,3,000万点以上を保管している。しかしながらその利用については,1955年6月6日のボン協定に基づき,個人情報等に配慮し犠牲者の家族・親族等に限定されてきた。これに対して,ホロコースト研究者等からは,資料を早急に公開するよう要望が寄せられていた。1995年には個人情報を含まない一部の資料が,研究者にも利用可能となったが,これは全体のわずか2%ほどの資料であった。
歴史的に重要なこれらの資料を研究者に公開するため,また原本の恒久的保存のため,ITS,およびITSの運営管理に決定権を持つ11か国(ベルギー,フランス,ドイツ,ギリシア,イスラエル,イタリア,ルクセンブルク,オランダ,ポーランド,英国,米国)の間で,ボン協定の修正に関する調整が行われてきた。2006年5月に研究者への公開について合意に達し、さらに2007年5月には、大戦中に作成されたホロコースト関係資料のほか,戦後にITS,各国政府および個人との間でやり取りされてきた往復書簡の取り扱いについてもルールが定められ,25年以上経過したものについて公開されることになった。現在,各国が批准のための手続きを進めており,既に7か国が批准しており,残りの4か国についても,秋には手続きが完了する見込みとなっている。
この法的手続きと並行して,ITSはすべての資料のデジタル化を進めてきた。書架総延長25キロにも及ぶ膨大な資料のデジタル化は,スタッフにより手作業で進められてきたが,予定よりも早く進行し既に完了している。7テラバイトに及ぶこの大規模なデジタルファイルは,11か国のうち希望する国に複製が置かれる見込みであり,既に米国(ホロコースト記念博物館),イスラエル(ヤドバシェム博物館)などが要望し準備を進めている。
11か国すべての手続きが完了すると,ホロコースト関係資料が,戦後半世紀以上の時を経て初めて研究者に公開されることとなる。
Ref.
http://www.its-arolsen.org/english/index.html
http://www.its-arolsen.org/english/aktuell/2007/02-15-2007_EN.htm
http://www.its-arolsen.org/english/aktuell/2007/03-09-2007_EN.htm
http://www.its-arolsen.org/english/aktuell/2007/05-10-2007_EN.htm
http://www.its-arolsen.org/english/aktuell/2007/05-15-2007_EN.htm