E609 – 環境保護局図書館ネットワーク存続の危機(米国)

カレントアウェアネス-E

No.101 2007.02.28

 

 E609

環境保護局図書館ネットワーク存続の危機(米国)

 

 1970年に設立された米国環境保護局(EPA)は,人々の健康と環境の保護を職務とする連邦政府機関である。このEPAに勤務する職員や研究者18,000人をはじめ,広く一般に対して環境に関する情報を提供してきたのが,ワシントンD.C.の中央館以下,全米に計28館を展開するEPA図書館ネットワークである。

 このEPA図書館ネットワークが存続の危機に瀕している。2006年2月,ブッシュ大統領が議会に提示した2007会計年度の予算教書で,EPA図書館ネットワークの運営予算の80%に当たる200万ドル(約2.5億円)を削減する提案がなされた。これを受けてEPAは,2006年中に図書館サービスの縮小を断行した。具体的には,

  • 中部・南部の15州にサービスを提供する3つの地域館の来館サービスを廃止し,資料を他の図書館に移管または廃棄する。
  • 中央館も来館サービスを廃止し,保存図書館とする。
  • 来館サービスを廃止する4館では,3つの保存図書館の支援のもと,職員に対してILLによる資料の提供およびレファレンスサービスを行う。
  • EPAによってなされた研究,EPAが委託した研究の資料すべて(51,000点)をデジタル化し,ウェブで無償提供する。
  • そのほかの地域館のいくつかで,開館時間の短縮などを行い,段階的にサービスを縮小する。

といった措置が行われた。

 この措置に対し,EPAに所属する研究者や職員,さらに環境保護団体などが抗議の声を上げた。米国図書館協会(ALA)をはじめとする図書館界も,「デジタル化するからといって図書館の来館サービスを止めて良いわけではない」「EPAが所蔵している,EPA以外が作成した資料が散逸してしまう」「環境に関する情報が入手しにくくなるのは人々にとって大きな逸失である」などと一斉に反発し,予算の復活,図書館の再開館を求めた。EPAを監督する米国下院の4委員会も立ち上がり,2007年2月6日,EPAに対する監査公聴会(oversight hearing)が行われるに至った。これにはALAのバーガー(Leslie Burger)会長も出席し,図書館界の意見を代弁している。

 2008会計年度の予算教書では,EPA本体の予算を4億ドル(約485億円)削減する提案がなされており,EPA図書館ネットワークにとってさらに厳しい事態が予想される。ALAはウェブサイトを特設し,最新の情報を提供するとともに,EPA図書館ネットワークを守るアドヴォカシーを呼びかけている。

Ref:
http://www.epa.gov/natlibra/
http://www.epa.gov/natlibra/Library_Plan_National_Framework081506final.pdf
http://www.ala.org/epalibraries
http://www.peer.org/news/news_id.php?row_id=731
https://www.sla.org/PDFs/022406EPAletter.pdf