E569 – 大学教育におけるデジタルコンテンツの利用に関する調査(米国)

カレントアウェアネス-E

No.95 2006.11.22

 

 E569

大学教育におけるデジタルコンテンツの利用に関する調査(米国)

 

 大学教育の現場では,画像や動画,プレゼンテーション資料といったデジタルコンテンツの活用が進んでいる一方で,デジタル化のスピードや質に対する不満も高まりつつある。米国ウェスレイアン大学と米国立技術・教養教育研究所(National Institute for Technology and Liberal Education)は,大学の教養教育課程におけるデジタル資料の利用度について,教養教育大学を中心とする全米33大学の教職員を対象としたアンケート調査とインタビュー調査を実施し,2006年10月,その報告書“Using Digital Images in Teaching and Learning: Perspectives from Liberal Arts Institutions”を公表した。

 報告書によると,授業へのデジタルコンテンツの導入の利点として,学生にとって簡単かつ手軽にアクセスできること,他の分野の資源にもアクセスしやすいこと,利用時に抵抗感なくアクセスできることなどが挙がっており,回答者の約3分の1が教育に革命をもたらすとして評価している。また今まで図表を利用していなかった授業に図表を導入するなど,教育方法の変革に貢献しているといった指摘もなされている。授業にデジタルコンテンツを取り入れることについても,約60%が肯定的にとらえている。

 教員が利用しているデジタルコンテンツの種類は,画像が最も多く約83%に達し,テキスト(約67%)やその他のウェブ上の資源(約68%)が続いた。ただし画像資料については,90%以上の教員が,個人的に収集したものを中心に利用している,と回答しており,大学が収集したデジタルコンテンツデータベースの利用経験は約48%,特に図書館が提供するデジタルコンテンツに至っては,約38%しか利用経験がなかった。教員はまたデジタルコンテンツに対する大学のサポート不足や,資料整備の非効率性にも不満を持っていることが明らかになった。

 さらにアンケートでは学生のデジタルコンテンツに対するリテラシー能力の向上にも焦点が当てられており,イメージ情報と批判的に向き合うために必要となる技術について学生は理解していないと,多くの教員が指摘している。学生がデジタルコンテンツで学習するために必要なスキルとして,(1)デジタルコンテンツの観察や読解,分析のための「イメージリテラシー」能力,(2)複数のフォーマットからデジタルイメージを発見,アクセス,注釈,共有するための「デジタルリテラシー」能力,(3)考えをビジュアル的に表現する能力である「イメージ構成力」といったスキルを身に着けなければならないと,報告書は指摘している。

 本報告書ではこれらのアンケート結果を基に,デジタルコンテンツの組織化や共有,データベースの広報戦略,組織内における情報資源の共有化,著作権ポリシーの策定と共有化,教育方法に関する教員とIT部門との情報交換の推進など,数々の提言を行なっている。また今後もシンポジウムやWikiによる研究と情報交換が進められるという。デジタルコンテンツの整備や学生のデジタルリテラシー能力の養成といった活動に,図書館職員がどのように関与してゆくかを含め,今後の研究の進展が期待される。

Ref:
http://www.academiccommons.org/files/image-report.pdf