E516 – ワシントンを襲った洪水の被害状況とLCの洪水対策ポリシー

カレントアウェアネス-E

No.87 2006.07.19

 

 E516

ワシントンを襲った洪水の被害状況とLCの洪水対策ポリシー

 

  6月25日から26日にかけて,ワシントンD.C.は一日で180mmを超える記録的な豪雨に見舞われた。この影響で連邦政府省庁が入居するビルの一部は,建物の一時的閉鎖や冠水などの被害を受けた。

 米国公文書館(NARA)には,建物に8フィート(約2.4メートル)の洪水が押し寄せ,1階が水没した。所蔵資料に直接の被害は発生しなかったものの,建物管理システムが動かなくなったほか,電気系統も停止したため,湿度を管理する空調システムがストップした。「独立宣言」や「合衆国憲法」の原本といった,特に重要な歴史的文書は非常時の湿気対策も施されているが,特別な対策の行われていない資料は,空調の停止による湿損の被害が懸念されていて,館外から電源を確保し,産業用の除湿機を新たに導入して資料の保護に当たった。このほかにも,フィルムを上映するWilliam G. McGowanシアターの一部が水没し,上映フィルムが冠水したといった被害も報告されている。

 NARAは被害発生後,約3週間にわたり閉館していたが,展示部門が7月15日に再オープンし,リサーチセンターも7月19日から再オープンする。なお閉館中は所蔵資料のファクシミリ版を館外に展示して,見学に訪れた人々にアーキビストがミュージアムトークを開催していたとのことである。

 米国議会図書館(LC)は高台にあることから,今回の豪雨でも特に被害は報告されていない。だが日常的に,資料保存部門のスタッフは24時間,だれかが非常事態に対応できる体制をとっているという。

 LCの保存部門の責任者であるリーデン氏(Dianne van der Reyden)によると,図書館や資料館では,炎や煙による資料へのダメージも危険をもたらすが,水によるダメージはさらに危険で,最悪の問題をコレクションに引き起こすという。LCでは保存担当スタッフだけでなく,修復スタッフ(Curatorial Staff)と呼ばれる人々もすべて,緊急時や災害時に被災資料を救出するためのトレーニング“salvage training”を受講しており,もし災害が発生して資料が被災すれば,資料の救援に呼び出されることになっている。またLCでは水漏れやカビを発見した場合,担当者を通じて保存部門に報告しなければならないという。とくにカビは資料の水損後24時間以内に発生し始めることから,報告を受け次第トレーニングを受けたスタッフが1時間以内に救援活動を開始するという。ほかにも全国レベルの資料保存・災害対策プログラムの開発も計画していて,非常時への対処をまとめた参考文献リストやリンク集は,すでに公開されている。

 2005年に米国南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」以降,LCだけではなく,連邦政府機関全般がとる行動に変化が現れ,資料保存活動への取り組みに積極的な傾向が見られるという。課題に立ち向かい重要な文書の保存を図るよい機会であると,リーデン氏は語っている。

Ref:
http://www.ala.org/al_onlineTemplate.cfm?Section=july2006a&Template=/Content
Management/ContentDisplay.cfm&ContentID=131559

http://www.foxnews.com/story/0,2933,201411,00.html
http://www.archives.gov/calendar/status/index.html
http://www.archives.gov/calendar/status/facts.html
http://www.hillnews.com/thehill/export/TheHill/News/Frontpage/070506/loc.html
http://www.loc.gov/preserv/prepare.html
http://www.loc.gov/preserv/pubsemer.html
http://college.lisnews.org/academic/06/07/02/1450254.shtml
http://lisnews.org/article.pl?sid=06/07/06/0023257