カレントアウェアネス-E
No.531 2026.10.01
E2915
ORCID日本コンソーシアムの現状:設立から6年―日本におけるORCID導入の成果と課題
東京科学大学・森雅生(もりまさお)
ORCID日本コンソーシアムは、研究者識別子であるORCID(Open Researcher and Contributor ID)の普及と活用を通じた、日本の研究情報基盤の高度化と国際的な研究連携の促進を目的とした組織である(E2261参照)。2020年に発足し、大学ICT推進協議会(AXIES)をリード機関として運営されており、大学、研究機関、学協会など会員機関が連携しながら、日本におけるORCIDの導入支援や情報共有、技術交流を進めている。
日本では、2017年頃から機関会員によるコンソーシアム設立の検討が始まり、運営委員会の設置、各種文書の翻訳、国内イベントの開催などを経て、2020年に正式なコンソーシアムとして活動を開始した。その背景には、researchmapや機関リポジトリ、研究者総覧など国内の研究情報システムと、世界標準の研究情報基盤であるORCIDとの相互運用性を高める必要性があった。コンソーシアム設立後は、機関会員同士で導入ノウハウの共有、技術情報交換、ORCIDの普及推進を進めてきた。
2026年2~3月に加盟23機関を対象に実施した調査では、ORCID導入の価値として、研究者の国際的な可視性向上、研究者同定の正確性向上、研究情報の質と信頼性の向上、名寄せ業務の自動化・効率化などが確認された。回答した機関のうち進んだ取り組みを行っているところでは、研究者データベース(CRIS:Current Researcher Information System)等とORCIDを連携し、所属・研究業績情報の双方向連携や自動登録を実現している。これにより、機関が保証した情報をORCIDに提供するとともに、ORCIDを介してCrossref、DataCite、Web of Science、Scopusなど国内外の研究情報基盤との相互運用性を高める効果も生まれている。一方、導入・維持のための人材・財源不足、API実装やベンダー依存、組織内での永続的識別子(PID)の価値に対する理解不足などが課題として挙げられた。
今後は、日本の実情に即した導入事例やドキュメントを充実させ、コンソーシアムを実践コミュニティとして活用しながら、各機関の成功事例を日本の研究エコシステム全体へ展開していくことが期待されている。
さらに、ORCID日本コンソーシアムは、単なる利用者コミュニティにとどまらず、PID全体の普及を推進する活動にも積極的に取り組んでいる。2024年には「PIDを成功させるコミュニティの実現」と題したシンポジウムを開催し、海外のPIDコミュニティとの交流や、日本におけるNational PID Strategy(国家レベルのPID戦略)の必要性について議論を深めた。研究者IDだけでなく、研究データ、研究成果、研究機関、研究資金などを相互に結び付けるPIDエコシステムの構築が、日本の研究力向上や国際競争力の強化に不可欠であるという認識が共有されている。
一方で、国内の大学・研究機関の数に比して、会員機関が依然として少ないという状況は、コンソーシアム設立当初から大きく変わっていない。PIDの基盤を継続的に維持・運用するには相応のコストを要する。ORCIDでは、研究者個人は無償で利用できる一方、研究者を雇用する大学・研究機関や、研究成果を出版・流通させる出版社等が会費を負担するビジネスモデルを採用している。この会費は、単なる寄付ではない。会員機関はORCIDデータベースのAPIを利用することで、自機関のシステムとORCIDを連携させ、研究者情報や研究成果情報の効率的な収集・更新・流通といった具体的なメリットを得ることができる。すなわち、学術情報流通の基盤を共同で支えると同時に、その基盤を活用することで各機関も便益を享受する仕組みである。関係者は、こうした費用負担のモデルと、それによって得られるメリットへの理解が十分に浸透していないことが、国内で会員機関が増えにくい要因の一つであると分析している。
今後、研究データ管理、研究評価、研究DX、オープンサイエンスが一体となって進展する中で、ORCIDは単なる研究者IDではなく、学術情報流通を支える基盤インフラとして、その重要性をさらに高めていくことが期待されている。ORCID日本コンソーシアムは、その普及と実装を支える国内コミュニティとして、重要な役割を果たそうとしている。
Ref:
ORCID 日本コンソーシアム.
https://orcid-jp.net/
ORCID.
https://orcid.org/
“日本からの考察:6年間の進展、共有された価値、そしてORCID導入の未来”. ORCID. 2026-07-22.
https://info.orcid.org/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E8%80%83%E5%AF%9F%EF%BC%9A6%E5%B9%B4%E9%96%93%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%B1%95%E3%80%81%E5%85%B1%E6%9C%89%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E4%BE%A1%E5%80%A4%E3%80%81/
“【イベント開催報告】シンポジウム「PIDを成功させるコミュニティの実現」”. ORCID 日本コンソーシアム. 2024-09-24.
https://orcid-jp.net/2024/09/24/report-symposium-pid-community/
森雅生. ORCIDへの期待とコンソーシアム. カレントアウェアネス-E. 2020, (391), E2261.
https://current.ndl.go.jp/e2261
