E2911 – スペインの「読書推進計画2026-2030」

カレントアウェアネス-E

No.530 2026.09.10

 

 E2911

スペインの「読書推進計画2026-2030」

国立国会図書館関西館図書館協力課・三崎彩(みさきあや)

 

  2026年6月、スペイン文化省が、「読書推進計画2026-2030」(Plan de Fomento de la Lectura 2026-2030)を発表した。「読むことは権利である!」(¡Leer es un derecho!)をテーマに掲げ、読書を基本的人権の一つとして位置づけることを基本理念としている。計画は「読書へのアクセス」「持続可能性と書誌多様性」「読書と健康」「子ども・ヤングアダルト(YA)」「国際化」の五つの柱で構成されており、それぞれについての20の具体的施策のほか、効果を評価するための指標も提示されている。本稿では、計画の概要を紹介する。

●読書へのアクセス

  読書へのアクセスは、具体的なニーズを持つ特定の集団に対する一時的な対応として捉えるのではなく、社会や制度全体に関わるものとして位置づけ、読書に関する公共政策の策定段階から組み込んでいくことが重要である。そのために、読書への物理的アクセスや公平なアクセス、そして継続的な読書を通じて知識や多様な視点の形成を促し文化活動への参加を可能にする充実したアクセスの実現に向けて取り組む必要がある。

  具体的施策として、過疎化地域、受刑者、読書へのアクセスが困難な人等に向けた読書推進事業の実施、文化省が自治州等と協力して運営する電子図書館サービス「eBiblio」の利用促進及び利用ライセンス数の拡充、国内の全ての公共図書館における国際的な勧告に基づく住民一人当たりの蔵書数の確保、移動図書館網の整備・充実などが挙げられている。

●持続可能性と書誌多様性

  読む権利は、本の供給や読書の機会を増やすことのみで保障されるものではなく、持続可能で多様性に富み、地域間のバランスが取れた文化的エコシステムが求められる。持続可能性については、相互に関連し合う「経済」「環境」「創造・社会」の側面から捉える必要がある。書籍をめぐる領域においては、創作・制作だけでなく、環境、出版プロセス、そして読書が果たす文化的・民主的な役割についても考えることが求められる。書誌多様性は、多くのタイトルが出版されるだけでなく、書籍が流通し、人々の目に触れ、アクセスできることによって成り立つ。その実現を支える地域の書店や図書館は重要な文化的インフラとして位置づけられる。

  主な施策として、読書推進に携わる関係者間の連携促進に向けた「読書会議」の開催、全国規模の読書推進キャンペーンの実施、環境に配慮した書店の支援、「eBiblio」における多言語タイトルの拡充、国内の各言語で書かれた作品の相互翻訳支援などが提示されている。

●読書と健康

  読書習慣の継続により認知症のリスクが大幅に低下するなど、読書が健康にもたらすプラスの影響が明らかになってきている。また、読書がストレスや不安の軽減に役立つことも実証されている。スペインでは、人口の34%がメンタルヘルスの問題を抱えているとされており、読書(及び執筆)とメンタルヘルスを結びつける活動を促進していくことが極めて重要である。計画では、身体的健康と精神的健康の統合を目指す。

  具体策として、スポーツ分野における読書推進プロジェクトやキャンペーンの展開、読書と健康の関係に関する調査の実施、幼児期の読書の重要性に関する啓発活動、医療機関の待合室における書誌多様性の促進などが盛り込まれており、専門機関等との連携も予定されている。

●子ども・ヤングアダルト(YA)

  教育現場においては、意欲的な読書の実現を目指して取り組むべきである。重要なのは「より多く読む」ことではなく「より良く読む」ことであり、子どもが読むべき文学作品の種類を分析することに注力するのではなく、読書を通じて培われる、内容を理解・吸収する力に目を向けるべきである。家庭における読書推進に当たっては、保護者への支援や指導が必要である。また、若い世代にとって公共図書館を魅力的な場所にすることや、著名なロールモデルだけでなくSNSのインフルエンサーなど若者に影響力のある人と連携した取組を実施し、読書の重要性を広め、読書習慣の形成につなげることも有効である。

  子ども・YAの著作権に関する意識向上を目的とする取組の実施、SNSを通じた読書推進活動の認知度向上、若者に対して影響力と情報発信力を持つ人々との連携、公共図書館におけるマンガコーナー(comicteca)の展開などが施策として示されている。

●国際化

  スペインの出版業界の国際的な発信力や評価を高めることを中心とする国際化から、読書を権利として保障することを基本に、書誌多様性、読書支援、言語多様性、デジタル環境などを組み込んだ、より総合的な国際戦略へと転換していく必要がある。スペインは、欧州、イベロアメリカ、地中海地域、アフリカ、アラブをつなぐポジションにあり、読書に関する国際協力ネットワークの形成等において重要な役割を果たすことができる。

  主な施策として、著作物の翻訳支援、書籍をめぐる文化的な対話を促進する国際的な専門家交流の支援、マンガ業界の国際化戦略の推進、図書館分野における国際交流の促進などが挙げられている。

  文化省は、計画に含まれる施策の実施に当たり、2021年から2024年を対象とした前計画の2倍に相当する8,270万ユーロ(約150億円)を投じるとしており、その効果が注目される。

Ref:
“El Ministerio de Cultura presenta el Plan de Fomento de la Lectura 2026-2030 ‘¡Leer es un derecho!’”. Ministerio de Cultura. 2026-06-10.
https://www.cultura.gob.es/actualidad/2026/06/260610-presentacion-plan-fomento-lectura.html
¡Leer es un derecho!.
https://pfl.cultura.gob.es/inicio.html
Plan de Fomento de la Lectura: ¡Leer es un derecho! 2026-2030. Ministerio de Cultura, 2026, 82p.
https://pfl.cultura.gob.es/dam/jcr:8c70361d-7a48-492c-a70d-0e575bd3eb7c/plan-fomento-lectura-26-30-cast-maquetado-y-corregido.pdf
“Comicteca”. Biblioteca, Universidad Pública de Navarra.
https://www.unavarra.es/biblioteca/espacios/comicteca
三崎彩. スペインにおける文化的習慣・活動に関する調査(2024-2025). カレントアウェアネス-E. 2026, (521), E2875.
https://current.ndl.go.jp/e2875