E2746 – スペインにおける読書習慣と書籍購入(2023)の概要

カレントアウェアネス-E

No.490 2024.10.31

 

 E2746

スペインにおける読書習慣と書籍購入(2023)の概要

関西館文献提供課・水野翔彦(みずのやすひこ)

 

  2024年1月31日、スペイン出版社組合連合(Federación de Gremios de Editores de España)はスペインにおける読書(lectura)習慣と書籍購入に関する2023年の調査結果を公開した。この調査は同連合がスペイン文化省の協力を得て2000年に開始し、休止期間(2013年から2016年分が該当)を除いて毎年実施されているものである。今回の調査対象は主に14歳以上の4,800人で、報告書は「書籍の読書」「電子媒体の読書」「録音図書」「読書に対する意識」「書籍の購入」「図書館」「未成年の読書」といった章立てとなっている。以下で概要を紹介する。

●概要-コロナ禍後も読書の水準を維持

  3か月に1回は何かしらの読書をしたと回答したのは全体の95.5%と、コロナ禍で増加した水準を維持しており、2012年と比較して3.5ポイント上昇している。メディア別に見た場合、読書をしたと回答があったのは新聞が71.2%、書籍が68.3%、雑誌は26.7%、ウェブ・ブログ・フォーラムが64.3%、SNSが59.7%、漫画が10.8%であった。毎日あるいは毎週、書籍を読んでいるのは全体の52.0%で、2012年比で4.8ポイント上昇している。日常的に読書につかう言語はカスティージャ語が92.5%だが、42.9%の人が各自治州の公用語など複数の言語で読書をすると回答している。

  世代別では、メディアを問わなければどの世代でも85%を超える高い値となっているが、余暇での書籍の読書に限ると、読む割合の高い順に14歳から24歳(74.0%)、25歳から64歳(65.8%)、65歳以上(53.7%)となる。雑誌を除きどのメディアも45歳以降は読書率は減少していくが、特に60歳以上の高齢者については余暇での読書、書籍の購入や図書館への来館など多くの項目で減少が見られる。一方、14歳未満については6歳未満の子どもがいる家庭の76.3%が読み聞かせを、6歳から9歳までの子どもの86.0%が余暇に読書をしており、概ね近年の水準を保っている。

●増加する電子媒体での読書

  電子媒体で読書をする人は調査対象全体の84.0%だった。前年比では0.9ポイントの減少だが、2012年の値の58.0%からは36ポイントと大きく上昇している。メディア別に比較した場合、新聞は53.6%、書籍は29.7%、雑誌は6.8%、ウェブ・ブログ・フォーラムが64.3%、SNSは59.7%となっている。経年で見た場合、雑誌を除いて紙・電子ともに相対的には微増もしくは横ばいの傾向にあるといえる。目を引くのは10代の若者のウェブ情報の利用で、15~18歳ではウェブ・ブログ・フォーラムの利用が86.4%、SNSが84.5%と上述の全世代の値を大きく上回っている。

  読書に最も利用されている機器は携帯電話(73.7%)で、次点のパソコン(36.6%)を大きく引き離している。携帯電話の利用は年々増加しており、2012年の12.9%から60.8ポイントも増加している。メディアを電子書籍に限ると電子書籍リーダー(11.8%)が最も利用されているが、ここ数年で携帯電話等との差は縮まっている。

●入手場所-書籍の購入

  2023年に書籍を購入した経験があると回答したのは調査対象全体の63.9%で、概ね2012年(55.4%)以来の上昇傾向が続いている。購入した冊数は1~5冊(25.6%)、6~10冊(16.8%)、11~20冊(14.4%)、21冊以上(7.1%)であった。場所は書店(70.1%)が最も多く、インターネット(44.9%)とチェーン系書店(33.1%)が続く。2012年と比較した場合、書店やチェーン系書店はほぼ横ばいだが、インターネット書店は約7倍に増加した。

●おわりに

  前年比では大きな変化はないものの、約10年前と比較すると読書の普及は進んでおり、媒体では電子が、入手経路においてはインターネット書店の存在感が増している。一方で、紙と電子の読書がともに横ばいないし増加していることから、紙の読書が電子媒体の読書に置き換えられているわけではないことも伺える。本調査の読書に対する意識調査では読書をする人の6割以上(60.3%)が将来「紙の本とデジタルの本が共存する」と回答したが、次の10年でどのようになっていくか、今後の調査で明らかになっていくだろう。

  スペインでは、「読書推進計画2021-2024」が策定され、様々な取組が進められている。この計画は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが、読書の概念や読書習慣にもパラダイムシフトをもたらしたという認識に基づいているとされている。“Lectura infinita”(果てなき読書)をスローガンとし、ソーシャルネットワークなどのデジタル・文化環境が提供する新しいコミュニケーション・チャンネルやコミュニティ形成の機会を活用し、読書が社会的習慣となることを目指している。全ての社会的主体に対して読書推進への協力を呼びかけるとともに、読者が使用する新しいモードやプラットフォームに対応し、若者がリーチできるよう読書の概念の再定義を提案している。今回の報告書でも、「本を読む」という従来の読書の枠に留まらない新たな要素を垣間見ることができた。

Ref:
CONECTA. Informe de Resultados Hábitos de Lectura y Compra de Libros en España 2023. Federación de Gremios de Editores de España. 2024, 138p.
https://www.federacioneditores.org/lectura-y-compra-de-libros-2023.pdf
“Los índices de lectura de los españoles se mantienen estables tras la pandemia y crecen cinco puntos respecto a 2012”. Ministerio de Cultura. 2024-01-31.
https://www.cultura.gob.es/actualidad/2024/01/240131-barometro-habitos-lectura.html
“Plan de Fomento de la Lectura 2021-2024”. Ministerio de Cultura.
https://www.cultura.gob.es/pfl-2021-2024/inicio.html
“Libro, Lectura y Letras”. Ministerio de Cultura.
https://www.cultura.gob.es/cultura/libro/portada.html