E2888 – 官庁出版物のオンライン化と図書館の対応:北米・欧州の国立図書館等の事例から

カレントアウェアネス-E

No.524 2026.06.11

 

 E2888

官庁出版物のオンライン化と図書館の対応:北米・欧州の国立図書館等の事例から

国立国会図書館収集書誌部逐次刊行物・特別資料課・可児萌香(かにもえか)

 

  筆者は2026年2月に、北米・欧州の国立図書館等を訪問し、官庁出版物のオンライン化の進展及び出版形態の多様化への対応について調査を行った。本稿では収集・組織化の各側面について報告する。

  今回訪問したのは、カナダ国立図書館・公文書館(LAC)、英国図書館(BL)、フランス国立図書館(BnF)、ベルギー王立図書館(KBR)、ドイツ国立図書館(DNB)、ベルリン中央・地域図書館(ZLB)等であり、本稿の記述は主に訪問時の担当者へのヒアリングに基づくものである。

●官庁出版物のオンライン化の進展と収集体制の変化

  調査対象とした国・地域においては、官庁出版物の刊行形態のオンライン化が進んでいる。特にカナダや英国では、国レベルの官庁出版物の大半が既にデジタル形式でのみ作成され、インターネット上で利用可能になっている。こうした変化を受け、各館では従来の紙媒体中心の収集に加え、オンラインの官庁出版物をいかに収集するかをめぐり、多様な取組が見られた。

  • LACでは、国レベルの官庁出版物について、カナダ公共サービス・調達省(Public Services and Procurement Canada)の一組織であるカナダ政府出版局(Government of Canada Publications)が作成するWeekly Acquisitions Listを活用して収集を行っている。カナダ政府出版局は、連邦政府の出版物に対して一般向けにアクセスを提供することを使命とする組織であり、現在は主としてオンラインで発行される連邦政府の出版物を収集し、ISBN等の識別番号を付与した上で、MARC21形式の書誌データとともにオンラインカタログで公開している。Weekly Acquisitions Listは、同局に提出された出版物を週ごとにまとめて公開した一覧で、LACでは単行書についてこのリストを基に資料と書誌データを同局から週次で自動取得している。逐次刊行物については、職員がリストから手動で資料をダウンロードし、書誌データはISSN書誌データを利用している。

  • BLでは官庁出版物に対し、以前はドキュメント・ハーベスターと呼ばれるツールを使って各機関のウェブサイトから自動でPDFを収集することができていたが、2023年のサイバー攻撃(E2700参照)でハーベスターも影響を受けたため、以降は、官庁出版物や政府情報の担当職員が各機関のウェブサイトを巡回し、資料を直接ダウンロードしている。最近ではPDF等に代わりHTML形式の官庁出版物が増えたこともあり、ハーベスターを復活させる予定はないという。HTMLの刊行物に対しては、ランディングページアプローチと呼ばれる方法で、アーカイブしたウェブページの中から複数の刊行物(複数年の年報等)が掲載されたページに対してメタデータを作成する手段をとっている。

  • DNBでは、官庁出版物と民間出版物の収集ルートを分けていない。いずれについても、主に3種類の方法でオンライン出版物を収集する。大量の場合は公開元のリポジトリ等から直接収集又はSFTP(システム間でファイルを安全に送受信するプロトコル)による自動送付を、少量の場合は納入義務を負う出版者等がウェブフォームを利用して手動で送付する。

  • ベルリン州の図書館であるZLBでは、ベルリン州が出版した官庁出版物で紙とオンラインの両形態がある場合、オンライン形態を優先的に収集している。オンライン出版物は州政府担当者からウェブフォーム等により提出されている。

  紙資料だけだった時代から、形態が多様化し、資料の数が増加した結果、有体・無体双方に及んで官庁出版物の収集範囲や網羅性にも変化が生じてきた。ドイツでは現在、連邦及び州双方の納本制度が機能しており、州立図書館等と分担して地方官庁出版物を収集できる体制が維持されている。一方で、カナダには納本制度がない州もあり、全てを網羅的に収集することが難しいためLACでは2013年に州以下の自治体刊行物の収集を停止した。また、ウェブアーカイブについて、BLでは、国内の他の納本図書館と共同でアーカイブを実施するが、技術的側面等から全ての地方自治体ウェブページの収集は困難とのことだった。 フランスにおいては、ウェブサイトは2006年から納本制度の対象だが、ウェブサイトの収集では網羅性よりも代表性を重視し、基礎自治体であるコミューンレベル等の官庁ウェブサイトは網羅的収集の対象外としている。筆者が訪問した時点の情報によると、 BnFでは、オンライン出版物の法定納本は2026年以降、資料種ごとに段階的に開始されることになっている。

●書誌データ作成の効率化と課題

  大量のオンライン出版物を扱う中で、書誌データ作成の効率化も重要な課題となっている。出版者の官民を問わず、各館では様々な工夫が見られた。

  多くの館では、ウェブフォームを通じて資料提出時に出版者自身がメタデータを入力する方式を採用していた。ただしZLBでは、逐次刊行物の巻次情報などにおいて、出版者から提出されたメタデータには不備もあるとのことだった。

  また、DNBでは、新聞、ジャーナル記事なども含む大量のオンライン出版物を処理するため、プロセスをできる限り自動化している。出版者から提出されるメタデータについての検証プログラムが収集システムの一部に組み込まれており、メタデータが取り込まれると自動的に検証が行われる。検証の結果、書誌データとしての不備が見つかった場合や、特定のフィールドについて変更の必要があると職員が判断した場合は、通常、システム内の書誌データを修正するためのプログラムを作成する。手作業による修正は、例外的な場合に限り、かつ担当職員に修正のための時間がある場合のみ行われる。

  そのほかに、有体資料も含めた書誌データ作成の効率化のための取組として、KBRではMicrosoft社のPowerAppsとAIツールを用いた試みも進められている。

●おわりに

  以上のとおり官庁出版物をめぐる環境はオンライン化の進展により大きく変化し、各国の図書館では収集範囲・方法や書誌データ作成方法の見直しといった対応に迫られている。今後の更なる調査や情報収集が求められる。

Ref:
Cassell, Kay et al. The Government Information Landscape and Libraries. IFLA, 2021, 161p., (IFLA Professional Report, 137).
https://repository.ifla.org/handle/20.500.14598/842
“Weekly Acquisitions Lists”. Government of Canada.
https://publications.gc.ca/site/eng/weeklyAcquisitionList/lists.html
“Learn about what we do”. Government of Canada.
https://publications.gc.ca/site/eng/programs/aboutDsp.html
“Collection of non-physical media works”. DNB.
https://www.dnb.de/EN/Professionell/Sammeln/Unkoerperliche_Medienwerke/unkoerperliche_medienwerke_node.html
Bibliotheksdienst. 2024, 58(11).
https://www.degruyterbrill.com/journal/key/bd/58/11/html
“E-Pflicht: Mandatory Electronic Publications in Berlin”. ZLB.
https://digital.zlb.de/viewer/e-pflicht/
“Les publications officielles dans les Archives de l’internet”. BnF.
https://www.bnf.fr/fr/les-publications-officielles-dans-les-archives-de-linternet
Digital Cultural Heritage or: E-Legal Deposit in European National Libraries. CENL, 2025, 62p.
https://www.cenl.org/wp-content/uploads/2025/05/eLegalDepositEuropeanNationalLibraries.pdf
Schumann, A.L.; Mergel, I. “The Retrocatalography Project: Combining AI with the Microsoft Power Platform at the Royal National Library of Belgium”. AI Innovations in Public Services. Mergel, I.; Schmidt, C. eds. Springer, 2025, p. 83-93.
https://doi.org/10.1007/978-3-032-01344-6_7
東川梓. 諸外国における政府情報のデジタル化の概況. カレントアウェアネス-E. 2021, (421), E2429.
https://current.ndl.go.jp/e2429
岡本史也. 英国図書館へのサイバー攻撃に関する報告書. カレントアウェアネス-E. 2024, (480), E2700.
https://current.ndl.go.jp/e2700