カレントアウェアネス-E
No.526 2026.07.09
E2897
2026年IIPC総会・ウェブアーカイビング会議<報告>
国立国会図書館収集書誌部収集・書誌調整課・下村秋(しもむらしゅう)
国立国会図書館関西館電子図書館課・松永しのぶ(まつながしのぶ)
国際インターネット保存コンソーシアム(IIPC;CA1893参照)の総会及びウェブアーカイビング会議(WAC;E2814ほか参照)が、2026年4月20日から23日まで、ベルギーのブリュッセルにあるベルギー王立図書館(KBR)で開催された。全体では36か国から、200名程度が参加し、日本からは筆者2人が参加した。本稿では、参加した会合の内容を報告する。
初日20日は、開催地ベルギーのウェブアーカイブをテーマにしたシンポジウム「BelgicaWeb Symposium」が行われた。「BelgicaWeb」は、KBRが主導し、ベルギー科学政策局の助成を受けて2024年4月から2026年4月まで行われた、ウェブアーカイブのアクセスと利用をテーマとした研究プロジェクトである。シンポジウムでは開発中の研究者向け提供用プラットフォームのデモンストレーションも行われた。2027年から提供環境の実装に移るとのことである。
21日と22日に開催されたWACでは、約30の発表やパネルセッション、ワークショップが開催された。
以下では、筆者が参加したセッション等における発表内容を抜粋して紹介する。
●オープンソースソフトウェアツールに関する開会基調パネルディスカッション
開会基調パネルディスカッションでは、ルクセンブルク国立図書館、米・北テキサス大学図書館、米・ハーバード・ロー・スクール図書館の司書に加え、ウェブアーカイブやデジタルデータの保存に関するツールを開発・提供する企業・財団のエンジニアによって、ウェブアーカイブでよく利用されるオープンソースソフトウェア(OSS)ツールの維持・継続をテーマに議論が行われた。ユーザーにソースコードが公開されており再配布可能なソフトウェアであるOSSは、透明性や信頼性、安定性が高く、カスタマイズもしやすいことから、ウェブアーカイブでは広く利用されている。他方で、予算面での持続可能性、開発や保守を担う人材の不足、最新技術への対応の遅さといった課題があることが指摘されてきた。
ウェブアーカイブを行う機関が積極的にOSSの維持・継続を支援することは、資料の管理権を自分たちが担うという「データ主権」にもつながるとして、開発者に使い勝手や要望のフィードバックを行うとともに、開発者の開発力を専門能力として評価することが望ましいという話がなされた。
●法律に関するセッション
法律に関するセッションでは、欧州のウェブアーカイブを題材に、フランス・パリ政治学院、オランダ・アムステルダム自由大学、ベルギー・ナミュール大学の研究者らによるディスカッションが行われた。欧州においては、ウェブアーカイブは納本制度の延長として開始され、その後も大きな変更はないまま今日に至っている。納本制度では収集によって生じる財産権との対立が主な争点となっていたが、ウェブアーカイブでは収集に加えて、収集した資料を継続して公開することで新たな問題が生じた。コンテンツの制作者・公開者との利害調整や、個人情報保護の強化によって公開済みの資料を遡及的に非公開化する労力が新たに発生している。
実体のないウェブコンテンツがどの国に属するものなのかという判断は曖昧であり、従来の法制度の盲点となっている。また、欧州では国ごとに納本制度とウェブアーカイブの法的根拠が大きく異なり、足並みが揃っていない。アーカイブの継続性を保つために、根拠法の見直しも含め、制度の再検討が必要だと述べられた。
●ブログとニュースの収集のセッション
ブログとニュースの収集に関するセッションでは、フランス国立古文書学校とフランス国立図書館(BnF)から、収集した「Skyblog」データの研究利用に向けた検討について報告があった。Skyblogは2000年代のフランスで若者に流行したブログサービスで、2023年に閉鎖された。収集したデータの利用は研究者に限られているものの、個人的な情報が多く含まれており、提供にあたって対応が必要となっていた。そこで、コンテンツに含まれる内容を、それぞれ1層(著作権・納本法)、2層(個人情報・EU一般データ保護規則)、3層(個人の交友関係などの個人的で親密なコンテンツ)、4層(社会的・文化的特徴のあるもの。例えばLGBTQや移民等に関するコンテンツ)という4つの層で確認し、それぞれの面でどのような問題があるかを検討した。とりわけ3層・4層の観点で倫理的に課題のあるコンテンツについては、1層・2層と異なり、丁寧なやりかた、機微に沿うアプローチを採るようにしたと報告された。現在、利用にあたってのガイドラインを作成中である旨も述べられた。
最終日の23日に開催された総会では、運営委員会から経営状況の報告のほか、従来からIIPCへ期待が寄せられていた、ツールの開発や維持管理、教育普及を支援するための共同イノベーション基金(Collaborative Innovation Fund)の新設が発表され、その草案が公開された。
また、隣接分野の国際会議であるArtificial Intelligence for Libraries, Archives and Museums(2026年9月14-17日、米・ワシントンDC)、電子情報保存に関する国際会議(iPRES;E2858ほか参照)(2026年9月21-25日、デンマーク・コペンハーゲン)での発表や、2026年のIFLA大会(韓国・釜山)でもIFLAのニュースメディア部門と協同した企画を準備しているとのことである。
2027年のIIPCはカナダ・ラヴァル大学でiPRESと共同開催され、2028年はドイツ国立図書館で行われる予定である。
Ref:
“General Assembly & Web Archiving Conference 2026”. IIPC.
https://netpreserve.org/ga2026/
“Belgicaweb”. KBR.
https://www.kbr.be/en/projects/belgicaweb/
Modification de l’arrêté royal du 19 juin 1837. KBR.
https://www.kbr.be/fr/modification-de-larrete-royal-du-19-juin-1837/
“La Bibliothèque nationale archive les Skyblogs”. BnF.
https://www.bnf.fr/fr/la-bibliotheque-nationale-archive-les-skyblogs
Artificial Intelligence for Libraries, Archives & Museums.
https://ai4lam.org/
iPRES 2026.
https://ipres2026.dk/
IFLA WLIC 2026.
https://2026.ifla.org/
“News Media Section”. IFLA.
https://www.ifla.org/units/news-media/
前田直俊. ウェブアーカイブの利活用に向けた動き―世界の潮流とWARPの取組―. カレントアウェアネス. 2017, (331), CA1893.
https://current.ndl.go.jp/ca1893
伊藤響. 2025年IIPC総会・ウェブアーカイビング会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2025, (506), E2814.
https://current.ndl.go.jp/e2814
田中耀子, 松田恵里. 第21回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2025)<報告>. カレントアウェアネス-E. 2026, (516), E2858.
https://current.ndl.go.jp/e2858
久常香織, 松田恵里, 田中福太郎, 木下雅弘. 世界の国立図書館のウェブアーカイブ事業:2025年調査. カレントアウェアネス-E. 2025, (514), E2845.
https://current.ndl.go.jp/e2845
