E2799 – 日本図書館研究会第66回研究大会シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.503 2025.6.19

 

 E2799

日本図書館研究会第66回研究大会シンポジウム<報告>

国立国会図書館関西館図書館協力課調査情報係

 

  2025年3月1日と2日に、日本図書館研究会第66回研究大会が兵庫県の灘中学校・灘高等学校で開催された。1日目には個人研究発表、グループ研究発表等、2日目には「これからの図書館と書店との関係はどうあるべきか」をテーマとしてシンポジウムが行われた。本稿では、シンポジウムの概要を報告する。

  まず、日本図書館研究会の研究委員からシンポジウムの趣旨説明が行われた。出版不況等を背景として街から書店が消えつつある中、2023年10月から著者、書店、図書館、出版の関係団体等によって「書店・図書館等関係者における対話の場」(以下「対話の場」)がもたれた。そこでの議論のまとめとして、2024年4月には「書店・図書館等の連携による読書活動の推進について~書店・図書館等関係者における対話のまとめ~」(以下「対話のまとめ」)が公表され、書店・図書館等の連携促進方策が示された。シンポジウムでは、こうした図書館と書店を巡る昨今の動向を振り返るとともに、文部科学省、書店、そして公共・学校図書館から報告を行い、今後の図書館と書店との関係はどうあるべきか討議したいとされた。

  初めに、植村八潮氏(専修大学教授)が「「書店と図書館」に関する論点整理」と題して講演を行った。対話の場に参加した立場から、対話の場での議論や、その後の経済産業省書店振興プロジェクトチームによる「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」の公表、講談社と読売新聞による「書店活性化に向けた共同提言」といった関連の動きを紹介した。図書館の複本を巡る議論の歴史を振り返り、まず関係者間で図書館における複本の所蔵が出版売上にほぼ影響しないという点で合意し、その上で書店と図書館の共同で読者の育成に取り組むべきこと等を指摘した。

  次に、毛利るみこ氏(文部科学省総合教育政策局地域学習推進課専門官)が、「図書館と書店との連携に関する文部科学省の取組」と題して講演を行った。図書館や読書を巡る状況を統計とともに概観した後、一般財団法人出版文化産業振興財団及び公益社団法人日本図書館協会と共に同省が事務局を務めた対話の場について振り返った。また、図書館・書店等の連携・協力の促進に向けた同省の取組として、2024年6月公表の「図書館・書店等連携実践事例集」や令和6年度補正予算による「図書館・学校図書館と地域の連携協働による読書のまちづくり推進事業」等を紹介した。今後は、2024年10月に設置された「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」でも連携に関する検討が進められる予定とした。

  続いて、須藤令子氏(有限会社朗月堂代表取締役・やまなし読書活動促進事業実行委員会委員長)が「書店側から見た図書館との関係のあり方」と題して講演を行った。須藤氏は山梨県内の公共・学校図書館、地元書店、出版・メディア関係者等で連携して読書活動の推進に取り組む、やまなし読書活動促進事業(やま読;CA1879参照)の実行委員長を務めている。講演では、10年を超えるやま読のこれまでの活動や今後の課題を紹介した。図書館が図書を地元書店から購入し、書店と図書館が読者を育てる取組を進めること、そのためにデリケートな話題も話せるような関係性の構築に取り組むべきこと等を述べた。

  三つの講演の後、公共図書館、学校図書館からの事例報告が行われた。まず、藤坂康司氏(名古屋市守山図書館・志段味図書館館長(株式会社図書館流通センター))から、「名古屋市守山図書館・志段味図書館における、書店をはじめとする地域との連携事例」と題して報告があった。同館では、図書館司書おすすめ本コーナーを書店内に設置する、司書による絵本相談会を書店で開催する等、様々な取組を地元書店と連携して実施している。書店と出版社に長年勤務した藤坂氏自身の経験談も交えつつ、図書館が書店と連携する上での心構え、意識すべきこと等が共有された。

  穂積絵理子氏(埼玉県立大宮高等学校主任司書)からは、「埼玉県の高校図書館と書店の連携事例」と題して報告があった。図書委員が選んだ本を手作りのPOPとともに高校の近くの書店で展示するといった県内の連携事例について紹介がなされた。埼玉県内で連携が進んでいる要因として、大型書店が学校の近くに立地していること、司書が比較的安定した勤務状況であること、県内司書のネットワークが機能していることが大きいと分析し、今後も連携が広がり、子どもの読書推進の一助となればと述べた。

  続く討議では、嶋田学氏(京都橘大学教授)をモデレーターとして、講演者・報告者に対する質問に回答しながら、「対話のまとめ」の内容等について議論がなされた。地元書店からの図書納入における装備の仕様や予算、「対話のまとめ」で提案された「図書館本大賞」(仮称)等、様々なテーマについて意見が交わされた。書店と図書館に共通する課題として一部のコア層の利用が中心となっている点が挙がり、読書人口が減る中で書店・図書館に来ていない層を呼び込むために市民に働きかけを行うことが重要といった見解が示された。

  最後に、日本図書館研究会の研究委員長である日置将之氏(大阪府立中之島図書館)の挨拶があり、シンポジウムは閉会した。なお、シンポジウムの詳細な記録は後日『図書館界』77巻2号(2025年7月号)に掲載予定とされているので、ぜひ参照されたい。

Ref:
“日本図書館研究会 第66回研究大会(ご案内)”. 日本図書館研究会.
https://www.nal-lib.jp/66taikai/
書店・図書館等関係者における対話の場. 書店・図書館等の連携による読書活動の推進について~書店・図書館等関係者における対話のまとめ~. 2024, 9p.
https://www.jla.or.jp/Portals/0/data/content/Taiwano_ba/matome.pdf
“図書館・書店等連携実践事例集”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/mext_00001.html
“「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」を公表します”. 経済産業省. 2024-10-04.
https://www.meti.go.jp/press/2024/10/20241004002/20241004002.html
講談社×読売新聞 書店振興のための共同提言.
https://www.kodansha.co.jp/shotenshinkou
“図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/050/index.html
“やまなし読書活動促進事業”. 山梨県立図書館.
https://www.lib.pref.yamanashi.jp/sokushin/index.html
“埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本”. 埼玉県高校図書館フェスティバル.
https://www.shelf2011.net/
齊藤秀. 山梨県立図書館の取組み―地元書店と連携した読書活動促進事業―. カレントアウェアネス. 2016, (329), CA1879, p. 2-4.
https://doi.org/10.11501/10196260
木下通子, 宮崎健太郎. 埼玉県高校図書館フェスティバルに取り組んだ3年間-職種を超えた連携とつながりの中で-. カレントアウェアネス. 2013, (318), CA1807, p. 8-12.
https://doi.org/10.11501/8394390