カレントアウェアネス-E
No.484 2024.07.25
E2715
歴史資料としての折り込みチラシ
徳島県立文書館・嵐大二郎(あらしだいじろう)
●収蔵のきっかけから展示に至るまで
「30年も経てばいい資料になる」「いつかは展示を」との当時の職員の発案により、徳島県立文書館では1990年の開館以来現在まで、地元新聞に折り込まれているチラシを収蔵してきた。その経緯は職員間で語り継がれており、当初節目と考えられていた30年を超えたことで、2024(令和6)年度第68回企画展「折り込みチラシに見る徳島の30年」と題して展示をするに至った。当館は、徳島県そして阿波国の歴史を物語る公文書や近世の古文書・絵図、明治以降の古い写真などを収蔵しており、年間4回開催している展示活動にはそれらの資料を用いている。当館の展示室を色で表すとすれば、白・黒・グレーの印象が濃いが、今回ばかりは何ともカラフルな展示となった。
●徳島県立文書館におけるチラシの保存方法
その日に届いたチラシを、1点1点バラバラにすることなく、折り込まれたままの状態で封筒に収める。封筒に日付を記し、事務室内のキャビネットで一時保管。3か月分のチラシがたまったところで、キャビネットから整理箱に移し、館内の収蔵庫へ収める。整理箱には「令和4年10月~令和4年12月」「休刊日10/5、11/10」のように情報を記載した紙を付す。
●展示開催の準備
開催まで時間的な余裕がなく、収蔵しているすべてのチラシを確認することは無理だった。そこで、1990年・1995年・2000年・2005年・2010年・2015年・2020年の7か年を展示対象とした。それぞれの年を担当する職員が1年分のチラシをすべて確認していく。そして、流行や社会背景を示すもの、フレーズやデザインなどが興味深いものを自由にピックアップしてもらった。しかし、面白いチラシにはそうそう出会えない。展示するに相応しいと思えるものは、1年分のチラシのうちせいぜい10数点といったところである。また、選抜されたチラシは当然ながらサイズがバラバラで、展示スペースの壁面に如何に配置するかが問題だった。我々は館内の講座室の床に壁面と同じサイズをとって展示すべきチラシを並べ、試行錯誤の末にレイアウトを決めた。
●印象深いチラシ
阪神・淡路大震災が発生した1995年。毎日のように折り込まれていたダイエーのチラシは、震災の影響か1月19日以降姿を消し、再登場は2月9日。商品の写真が並ぶ脇には、店頭で復興のための募金活動を行っていることが記されている。
フリーダイヤルの普及をアピールする1990年のチラシでは、マンガを用いてその便利さを説明している。フリーダイヤルのサービス開始は1985年。今では当たり前に利用されているが、開始から5年が経っても徳島では一般化していなかったことがわかる。
コロナ元年の2020年。多くのチラシに「おうち時間」「3密」「手指消毒」などが記され、あるドラッグストアのチラシには、マスクの抽選販売の知らせが掲載されている。また、徳島市内の新聞専売所が作成したチラシは、宣伝効果によって人々が店舗に集まるのを避けるために、多くの企業が折り込みチラシを自粛していることを伝えている。
●来館者の反応
一定の世代の徳島県民の思い出に強く残る、デパート「まるしん」のチラシの前で「懐かしい」と話が弾む。現在とは真逆の高金利や円高のチラシを見て感嘆の声が上がる。かつて自分が遊んだおもちゃの写真をチラシの中に見つけて童心に戻る。また、「このチラシは24年前に私が手がけたものです」という思いがけない告白もあった。本展示を通して、チラシという非常に身近なものでも歴史資料になり得ることを、多くの方に知ってもらえれば、周囲にひっそりと存在する貴重な資料たちに気づいてもらえるかもしれない。
Ref:
“第68回企画展「折り込みチラシに見る徳島の30年」”. 徳島県立文書館.
https://archive.bunmori.tokushima.jp/new_category/3.html