E2619 – インクルーシブな情報社会実現に向けた韓国の取組<報告>

カレントアウェアネス-E

No.461 2023.07.27

 

 E2619

インクルーシブな情報社会実現に向けた韓国の取組<報告>

関西館図書館協力課・田中福太郎(たなかふくたろう)

 

  2023年3月23日、国立国会図書館(NDL)は、韓国国立障害者図書館(以下「障害者図書館」)資料開発課のチャン・ポソン氏を講師とするウェブ講演会「インクルーシブな情報社会実現に向けた図書館の役割―韓国国立障害者図書館における取組―」を開催した。本稿ではその概要を報告する。

  障害者図書館は、障壁のない知識情報社会の実現と障害者の情報アクセスの機会向上への寄与を目的に設立された。同館は2007年に韓国国立中央図書館(NLK)内に国立障害者図書館支援センターとして開設され、2012年に国立障害者図書館となった。2022年現在、所蔵する点字図書、DAISY資料、大活字本等の代替資料(図書館資料の利用が困難な障害者のためにアクセス可能な媒体で製作又は変換した資料)は約6万6,000点である。館内には対面朗読室、映像室、セミナー室、情報検索・閲覧室があり、来館者は年間約1,500人である。一方、同館ウェブサイト訪問者は年間約12万6,000人、資料の無料宅配サービスの利用者は約18万7,000人であり、ほとんどが非来館の利用である。現在障害者図書館はソウル特別市にあるNLK内にあるが、将来的には独立した施設の建設が検討されている。

  韓国では、法令により障害者の情報アクセス保障のための取組が規定されている。まず、障害者差別禁止法第21条に、公共機関等は、作成・配布する電子情報・非電子情報を、障害者が障害者でない者と同等にアクセス・利用できるよう、出版物(電子出版物を含む)または映像物の提供に努めなければならないとの規定がある。また、図書館法第7条には、図書館の責務として、全国民が、身体的・地域的・経済的・社会的条件に関わりなく、公平な図書館サービスの提供を受けるために必要なあらゆる措置を講じなければならないと規定されている。代替資料サービスを行うにあたっての著作権法の権利制限規定については、著作権法第33条で視覚障害者等のための複製等が、同第33条の2で聴覚障害者のための複製等が規定されている。それらの規定に基づき点字資料の製作・複製・配布、韓国手話への変換、録音、DAISY資料の製作・複製・配布・伝送(公衆送信のうち、公衆の構成員が任意の時間及び場所からアクセスできるよう著作物等を利用に供することをいい、それに伴って行われる送信を含む)、字幕化等が可能になっている。ただし、それら製作物等の利用は視覚障害者、聴覚障害者、読書困難者等の障害当事者に限定されている。

  障害者図書館で製作している代替資料として、デジタル点字図書、デジタル点字楽譜、紙の上に点字ステッカーを貼る点字ラベル図書、DAISY資料、韓国手話が第一言語であるろう者のために、韓国語書籍の内容を韓国手話に翻訳した韓国手話映像図書がある。また、動画資料に韓国手話の追加を行っているほか、発達障害者のために、平易な単語を用いたり、文章の構造を単純にしたりするなどして読みやすくした本(easy to read book、LLブック)の製作も行っている。なお、LLブックの製作にあたっては著者の同意を得て出版社との利用契約を行っている。

  代替資料を利用するためのシステムやサービスとして、国家代替資料総合目録、国家代替資料共有システム(DREAM)、資料の無料宅配を行う「本の翼サービス」がある。

  国家代替資料総合目録は、韓国内の図書館における代替資料の所蔵が検索できるデータベースである。2022年末現在で書誌情報44万6,105件が収録されている。各館が作成した書誌から、基本となる書誌を生成するにあたり、書誌の同定が課題となっている。

  DREAMは、障害者図書館、韓国内の公共図書館、私立の障害者図書館等が所蔵する代替資料の統合検索と、そのデータの利用が可能なシステムである。資料利用のためのビューワーやモバイル用アプリも提供されている。

  「本の翼サービス」は、貸出可能な代替資料を所蔵する公共図書館、点字図書館等の資料を、郵便・宅配により、障害者等が希望する指定場所まで無料で配達するもので、障害者図書館が取りまとめを行っている。利用対象は、利用登録している障害者のほか、国家功労者や国民健康保険公団認定の長期療養対象者などである。

  障害者のためのユニバーサルな情報サービス推進のための取組として、コンテンツ作成にあたっての国家標準(韓国産業規格)の制定への参画、アクセシビリティが確保されたビューワーの開発、効率的なアクセシビリティ検証ツールの提供、民間の出版社等との連携により、障害者のための電子書籍プラットフォーム構築を進めていることなどが紹介された。

  講演後、事前質問に対する回答があり、年間の予算規模が約159億ウォンであること、発達障害者向け資料製作にあたっての難易度のレベル設定は国家読解教育センターの基準によっていること、新たにEPUBビューワーの規格を定めた韓国産業規格に基づくビューワーはまだ存在していないこと、代替資料の種類ごとの製作件数はニーズによって差があること、米国のBookshareの利用支援を行っているが、その利用目的としては学業や留学が多いことなどが述べられた。

  なお、講演資料及び動画はNDLウェブサイトにて公開しているので、併せて参照されたい。

Ref:
“ウェブ講演会「インクルーシブな情報社会実現に向けた図書館の役割―韓国国立障害者図書館における取組―」(終了しました)”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20230323lecture.html
“ウェブ講演会「インクルーシブな情報社会実現に向けた図書館の役割―韓国国立障害者図書館における取組―」(日本語通訳音声付)”. YouTube. 2023-04-07.
https://www.youtube.com/watch?v=oNTpzfjqFb8&list=PLXvKjMC1JnVun7OUn9lVkAQVzGggZulLA
국립장애인도서관.
https://www.nld.go.kr/
孫誌衒. 韓国の国立障害者図書館と図書館での障害者サービスの現状. カレントアウェアネス. 2016, (329), p. 10-13.
https://doi.org/10.11501/10196262