カレントアウェアネス-E
No.461 2023.07.27
E2617
フロッピーディスクの長期保存対策に関する調査報告書
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・木下貴文(きのしたたかふみ)
国立国会図書館(NDL)は、2023年4月、「フロッピーディスクの長期保存対策に関する調査報告書」を公開した。本稿では、本報告書の要点を、その背景情報も含めて紹介する。
●フロッピーディスク(FD)とは
FDは主に1980年代から1990年代ごろに広く用いられたデジタル記録媒体である。外観は正方形状(3.5インチ及び5.25インチの二つのサイズがよく知られている)で、内部に磁性体を塗布した薄い円盤が入っており、この円盤にデータが記録される。当時の一般的なPCはFDドライブを備えており、FDは運搬・保存用の記録媒体として広く普及した。記録容量は一部の例外的な規格を除けば最大でも1.4MB程度である。FDは、2023年現在ではほとんど用いられることがなく、一般的には旧式化した記録媒体だと言える。なお、NDLはパッケージ系電子出版物や図書の付録等として、約1万2,000枚のFDを所蔵している。
●FDの長期保存とは
一般に、デジタル記録媒体に保持されたデータは、その媒体の物理的な劣化に伴って消失する。また、媒体自体は物理的に劣化しなくても、ドライブ等の読取装置が維持できなくなった場合、結果的にデータは利用不可能となる。
FDのデータが読み取れなくなる要因としては、盤面のカビ被害、ケースの歪み、磁性の劣化等が挙げられる。また、FDはCD・DVD等の光ディスクやHDDと異なり、ドライブのヘッドと盤面が直接接触するため、読取りのたびにディスクが摩耗していくが、これも劣化の一つの要因となる。
このように、FDは物理的な劣化が生じやすく、いまや読取装置の確保も困難であることから、長期的な保存に向いていないとされている。
●FDのマイグレーションの課題
FDに保存されたデータを長期保存するためには、データをより安定した記録媒体に移すことを意味する「マイグレーション」という作業を行うことが望ましい。FDのマイグレーションには、次に挙げるような課題がある。
- ドライブの入手
2023年現在、5.25インチFDドライブを新品で入手することは難しい。また、ドライブを入手したとしても、現在のPC等で中のデータを閲覧する環境を構築する際に、手間と知識を要する場合がある。 - 多様なフォーマットへの対応
FDへのデータの記録フォーマット(トラック数、セクタ数、符号化方式等)は多様であり、一つのドライブが全てのフォーマットに対応しているとは限らない。また、コピープロテクト等の目的であえて変則的なフォーマットでデータを記録することも行われた。そのため、そうした多様なFDのマイグレーションに当たっては、機器とフォーマットの両者に関する知識が必要である。FDの記録フォーマットについては報告書の1.2を参照されたい。
●FDのマイグレーション方法
FDのマイグレーションは、通常のファイルコピーやイメージ化等の方法でもある程度実施は可能だが、クリオフラックス(KryoFlux)、ポリーヌ(Pauline ; E2294参照)といった、FDからより詳細な情報を取得できる専用のデバイスを用いれば、FDのフォーマットの情報の詳細な解析等も行うことができ、多様なフォーマットへの対応が可能となる。
FDの具体的なマイグレーション方法については、報告書の2章を参照されたい。また、NDLは2021年度以降、ポリーヌを用いてFDのマイグレーション作業を行っている。ポリーヌを用いた標準的な作業の手順書を、報告書の付録Bとして公開している。
●利用環境の整備
上記のようなデバイス等の開発・普及により、FDに記録された情報を忠実に複製する作業についてはかなりの精度で実施できるようになった。一方で、データは単に複製するだけでは利用できず、適切な利用環境の整備が必要となる。FDの利用環境は資料ごとに異なり、非常に多岐にわたる。本報告書では、4章でNDLが所蔵するFDについて、主要な利用環境のリストアップを行っている。
●おわりに
NDLは、2023年6月現在、所蔵するFDの大部分について、マイグレーション作業を完了した。しかし、マイグレーションしたデータを利用するための環境整備など課題は多い。今後も、利用環境に関する調査を続けていきたい。
Ref:
国立国会図書館電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. フロッピーディスクの長期保存対策に関する調査報告書. NDL, 2023, 22, 2, 29p.
https://doi.org/10.11501/12771911
KryoFlux.
https://www.kryoflux.com/
ルドン・ジョゼフ. フロッピーディスク保存の新デバイス「ポリーヌ」について. カレントアウェアネス-E. 2020, (397), E2294.
https://current.ndl.go.jp/e2294