E2586 – 図書館の展示における表現に関するガイドライン(米国)

カレントアウェアネス-E

No.454 2023.03.23

 

 E2586

図書館の展示における表現に関するガイドライン(米国)

国際子ども図書館資料情報課・福井千衣(ふくいちえ)

 

  2022年11月,米国のデューク大学,ノースカロライナ中央大学等が構成する,研究図書館の財政・人員・情報源の整理を行う組織Triangle Research Libraries Network(TRLN)が,展示における適切な表現のためのガイドライン“Exhibition Language Guidelines: A Working Document for Academic Library Exhibit Professionals”を公開した。本ガイドラインは,「北米の図書館に勤務し,米国英語で展示解説を執筆する人を対象としている」と断った上で,ジェンダーアイデンティティ・性指向,障害,社会階級・社会経済的地位,人種・エスニシティ・国籍,宗教・精神性,年齢差別の各トピックについて,個別具体的な推奨事項を掲げている。以下ではそのいくつかを紹介する。

●展示解説における適切な表現

  展示会の企画・制作に当たり,解説の執筆者は,自身の固定観念について意識し,それを排除するようにする。展示解説で適切と考えられる言葉や表現は,時代の要請に合わせて絶えず変化しているため,可能な限り記述対象となる人々が自らを識別している言葉で属性を表現することを基本原則とする。引用符で囲まれた歴史的な用語や,歴史上の人物を引用する際に用いられた歴史的な用語については,それらの言葉について説明を付す必要がある。人種,ジェンダー,障害,宗教,社会経済的地位に関する記述は,それらが展示のストーリーの中で重要な部分を占めている場合に限って行う。

  人種・エスニシティ・国籍に関しては,例えば次のような推奨事項が挙げられている。人種等を明記することが適切なケースとは,米国大統領に選出された人や連邦最高裁判所判事に指名された人が,その属性の観点から革新的であったり歴史的であったりするような場合である。また,民法又は刑法に違反して入国又は居住する「不法入国」に関して,「不法」という言葉は行為を指す場合にのみ用い,人について用いてはならない。移民法に違反した人について解説する際はその属性を明記する必要があり,どのように不法に入国したか,どこから国境を越えたか,またビザの期限が切れてオーバーステイした事実や国籍などについても具体的に記述する。他にも,「反アジア感情」といった婉曲表現を避け,状況に応じて「反アジア的先入観」,「反アジア的嫌がらせ」,「反アジア的暴力」などの表現によって具体的かつ詳細に記述する。

  障害に関しては,障害の制約的側面ではなく,能力的側面を強調するようにする。可能な場合には中立的な言葉を用い,否定的又は消極的な含意を含む語を避け,肯定的な語を使う。また,障害の存在よりもアクセシビリティへのニーズの有無という観点から記述する(例えば「障害者用駐車場」ではなく,「アクセシブルな駐車場」と書く)。

  宗教・精神性に関しては,主流の文化における宗教の解釈に基づく想定をしないようにするべきであり,多文化社会においては様々な文化が平等に尊重されるよう,記述する際に努める。

●展示解説と注意書き

  展示解説は,来場者に展示の背景に関する情報を与えるものである。展示会場の最初の導入テキストや個別の展示の解説において,展示制作における企画上の決断,又は情報提供における決断を説明したり,特に興味深い,あるいは重要な内容についてより詳細に説明したりしなければならない。

  これに対して注意書きは,議論の余地がある,あるいは来場者に不快感を与えたり,有害だと感じさせたりする可能性のあるコンテンツが展示会場に存在し,それを理解した上で観覧するかどうかを決定できるよう告知するためのものである。注意書きはまた,展示で取り上げられている人やキュレーター,展示の主催者(組織)を保護するためのものでもある。主催者は,自らの組織や来場者に関する情報,展示品についての高度な専門的知識を生かし,また展示の社会的背景を踏まえて注意書きを作成しなければならない。「歴史的な資料には,不快にさせる内容が含まれている場合があります。」のような簡潔で包括的な記載が適切であることが多い。

●その他のトピック

  本ガイドラインは,本稿で取り上げなかったトピック(ジェンダー,社会経済的地位,年齢差別)についても包括的で望ましい表現を豊富な事例を挙げて紹介しており,示唆に富んでいる。ぜひ参考にされたい。

Ref:
“TRLN Publishes Guidelines for Language Used in Exhibitions”. TRLN. 2022-11-30.
https://trln.org/2022/11/trln-publishes-guidelines-for-language-used-in-exhibitions/
TRLN. Triangle Research Libraries Network, Exhibition Language Guidelines: A Working Document for Academic Library Exhibit Professionals. 2022, 48p.
https://trln.org/wp-content/uploads/2022/11/TRLN-Exhibition-Language-Guidelines-2022.11.30.pdf