E2539 – ブックフェスタしずおか:私設図書館と県立図書館の協働事例

カレントアウェアネス-E

No.444 2022.09.29

 

 E2539

ブックフェスタしずおか:私設図書館と県立図書館の協働事例

静岡県立中央図書館・杉本啓輔(すぎもとけいすけ)

 

  2022年10月,私設図書館を展開する一般社団法人トリナス(以下「トリナス」)は,静岡県立中央図書館(以下「当館」)と協力し,「ブックフェスタしずおか」を開催する。このイベントは,10月の1か月間を,「本がひととまちを繋ぐ31日間」と設定し,本の未来について語りあう多様な場を,県内各地で同時多発的に提供するものである。

  本稿では,当館が私設図書館主催のイベントに対し協力をするに至った背景や経緯,協力の内容について記述する。

  なお,本稿はあくまで当館側の意図や意見を記述するものであり,イベント自体の目的や各内容の詳細は,「ブックフェスタしずおか」のウェブサイトを参照されたい。

  当館は現在,2027年開館予定の新県立中央図書館(以下「新館」)に向けて準備を進めているところである。今回,当館が「ブックフェスタしずおか」への協力を決めた背景にはこの新館構想がある。新館では,1階と2階に「交流スペース」を設ける予定である。交流スペースとは,a)多彩な情報との出会いの場,b)人と人との出会いの場,c)新たな文化の創造・発信の場として学び・交流し創造する場などの要素を具体化する場所を意味する。名称は異なれど,近年建築された(される)図書館には,こうしたサードプレイスを意識した場所が多く設けられている。

  「交流スペース」はこれまでの当館にはない要素である。もちろん,先行事例の視察や分析等は行ってきたが,その具体的イメージを掴むことに難しさを感じていたこともまた事実である。

  そうした折,当館は静岡県焼津市で私設図書館「みんなの図書館さんかく」(以下「さんかく」)を運営するトリナス代表の土肥潤也氏と意見交換する機会があった。2020年3月にオープンしたさんかくは,新型コロナウイルス感染症によるコミュニティの分断が問題視されていた状況下で,地域社会の居場所として機能する場所づくりに成功している。

  話を進める中で,トリナスでも本を活用したイベントを考えていたことを知り,また,私設図書館と公立図書館の協働による事業開催は,今後のモデルケースになり得ることを確信し,両者の間で「ブックフェスタしずおか」の基本的枠組みの合意に至った。当館としては,トリナスがコミュニティを生みだす過程や方法を間近に見ることで,「交流スペース」具体化のヒントが得られるのではないかとも考えた。

  「ブックフェスタしずおか」の運営形態はトリナスが主催し,当館と静岡県書店商業組合が協力している。トリナスが主催することにより,メインイベントにおけるトークショーのパネリスト選出や,静岡県内外に広がるネットワークを通じた広報戦略,人と人が交流する場所を生み出す方策など,民間の持つノウハウを最大限に活かすことができ,公的機関の発想と異なるイベントの創出が可能となっている。

  ところで,当館の「協力」とは何を指しているのかという問いに対しては,二つの取組を挙げることができる。

  一つ目は,県内の市町立図書館への「ブックフェスタしずおか」の周知及び参加の呼びかけをすることである。静岡県は東西に伸びており,県内横断的にイベントを実施しようとする際,その広さが障害となる場合がある。この点に関して,当館は県立図書館という立場上,市町立図書館とのネットワークを構築しており,静岡県内図書館用ポータルサイトや,協力車事業等で「ブックフェスタしずおか」への参加を呼び掛けている。これは私設図書館と公立図書館が互いに手の届きにくいステークホルダーに対し,それぞれ周知をすることにより,イベントの広がりを狙うものである。

  二つ目は,県の他部署との調整である。実は「ブックフェスタしずおか」の枠組みが明確になったのは2022年度に入ってからであり,すでに県内の大規模会場は他のイベントで予約が埋まっている状況であった。そこで,県の他部署が実施するイベントと「ブックフェスタしずおか」を同時開催できないかと考え,会場借用の交渉を行った。これにより,企画時から予定していた場所と時期に会場を押えることができた。

  「ブックフェスタしずおか」の本格的な広報は8月下旬から開始しており,本稿執筆時点で,ある程度の話題性をもってメディアに取り上げられている。加えて,他の図書館からは,イベント概要や経緯についての問い合わせもあり,私設図書館と公立図書館の協働事業のモデルケースになるという確信は間違っていなかったと考えている。

  以上のように,「ブックフェスタしずおか」は私設図書館と公立図書館が手を組み,「本がひととまちを繋ぐ31日間」を演出する取組である。本稿を読まれた人々が,「ブックフェスタしずおか」に興味を抱き,静岡県に足を運んでもらえれば幸いである。

Ref:
ブックフェスタしずおか.
https://bookfesta-shizuoka.com/
一般社団法人トリナス.
https://torinasu.info/
“新県立中央図書館整備について”. 静岡県.
https://www.pref.shizuoka.jp/kyouiku/kk-080/sintosyokan.html
みんなの図書館さんかく.
https://www.sancacu.com/
“@shizuokaken_lib”. Twitter. 2022-06-10.
https://twitter.com/shizuokaken_lib/status/1535100293746020352