E2455 – 大学図書館の予算面からみたCOVID-19の影響(北米)

カレントアウェアネス-E

No.426 2021.12.09

 

 E2455

大学図書館の予算面からみたCOVID-19の影響(北米)

名古屋大学附属図書館・舩越美音花(ふなこしみねか)

 

  米・SPARC(CA1469参照)は,2021年9月,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大学図書館への影響に関する調査結果を公開した。本調査は大学図書館(以下「図書館」)の予算面の諸問題とその対応が,購読資料やオープンアクセス(OA)対応にどのように影響するかに着目して行われた。

  調査はSPARCに加盟する242館を対象に2021年1月19日から2月26日にかけてオンラインで実施された。有効回答は137件であったが,うち20件は一部分のみの回答であった。完全回答117件のうち所在国まで回答しているのは115件であり,その内訳は米国99件,カナダ11件,オーストラリア5件となっている。回答は地域および機関種別ごとに分析され,5件のインタビューによる追加調査も実施された。以下,その内容を紹介する。

●予算への影響

   80%近くの図書館で予算に削減があり,その多くの図書館は削減が一時的でなく継続的なものになると考えている。カナダでは半数強の図書館で予算削減がなかった一方,オーストラリアでは回答したすべての図書館で予算削減があったほか,米国では博士課程を有していない大学の方が有している大学に比べ予算の削減割合が大きいなど,国や機関種別によって予算への影響に差異が見られた。

  また,予算の中で電子資料費の割合が高くなっていることが予算削減以上に重大な問題になっているという回答もあった。予算削減の無かった図書館でも,出版社の価格上昇やデジタルコンテンツ・デジタルプラットフォームの需要拡大に伴うコスト増大により,資料費が圧迫されているのではないかと考えられる。

●予算削減への対応戦略

   COVID-19による予算削減に対応するため,各図書館は短期間かつ不確定要素が多い中多くの意思決定を強いられた。具体的な対応戦略としては,出版社への値下げ交渉(実施済み:71%,検討中:26%),ビッグディール(E2420参照)の解体(実施済み:27%,検討中:44%),大規模ジャーナルパッケージの大幅な削減(実施済み:28%,検討中:45%)などがあげられた。また,人員削減やその可能性を報告した図書館もあった。

  予算削減が大きいほどビッグディールの解体を実施または検討している図書館が多かったが,削減割合が少ない図書館や予算が維持された図書館でもビッグディールの解体を選択していることがあった。

  予算削減に伴う取り組みは必ずしもCOVID-19対応として考えられたわけではなく,以前から検討していた施策をパンデミックによる予算削減を理由に実施できたという事例もあった。一方で,人員が足りない状況では検討に時間のかかる戦略がとれないという報告や,予算削減の影響の下で購読中止がしやすかったのは単行書や雑誌個別タイトルであったという報告もあった。

●OAへの取り組み支援の現在と未来

  パンデミックの影響によりオンラインで入手可能な資料とオンラインの作業空間の重要性が明らかになった。高等教育はオンラインへの移行を強いられており,SPARCはこの状況が学術機関主体のOAの推進をもたらすのかどうかに関心を持っている。

  調査では,OAに関する支援を4種類に分類して現状と今後の見込みについて質問している。内訳は,OAを支えるインフラ整備・オープンなコンテンツの作成と提供・OA支援団体への援助・Publish & Read契約(CA1977参照)など出版社とのOA契約である。現状では,OA支援団体への資金援助が92%と最も高く,それ以外の項目についても50%を超える図書館が投資を行っていると回答している。

  予算削減にも関わらず,多くの図書館が今後も同程度か,今以上の経済的,人的支援を行うと回答している。大幅な予算削減と今後の潜在的リスクに直面する中で,OAの推進が選択されているといえる。

  一方,OAの推進は望ましいと考えているが,自館での支援は難しいとの回答もあった。

●今後の課題

  今後の課題として,人員削減の可能性と購読資料の減少の2点に強く関心が寄せられていることと,図書館運営全般についての幅広い問題があることが明らかになった。

  具体的な問題としては,新規採用の中止や給与の削減,対面でのコミュニケーションの減少,職員の士気の低下,新しい計画が延期になっていること,コンソーシアムを構成している他館の予算削減が自館に影響をもたらすこと,などがあげられている。また,図書館の物理的スペースの重要性が下がることを不安視する指摘もあった。

  この調査は,全世界を襲ったコロナ禍において図書館がどう対応したか,また現在抱えている課題は何かを予算面から明らかにしようとしている。結果からはパンデミックを理由に図書館の予算が削減される中でOAを重要視し,経済的,人的支援を維持強化しようとする図書館の取り組みが見て取れた。COVID-19の影響の全貌はいまだ見えず,かつてなくデジタルコンテンツの重要性が高まっている状況で,各図書館は今後も対応を迫られることとなる。

  調査結果には付録として調査の全設問のデータと調査手法が掲載されており,そちらも参照されたい。

Ref:
COVID IMPACT SURVEY. SPARC, 2021, 52p.
https://sparcopen.org/wp-content/uploads/2021/09/SPARC-COVID-Impact-Survey-092021.pdf
西田朋子. ビッグディール契約キャンセルの影響調査(米国). カレントアウェアネス-E. 2021, (419), E2420.
https://current.ndl.go.jp/e2420
井上雅子. 拡大するSPARC−SPARC EuropeやSPARC JAPANへの流れ−. カレントアウェアネス. 2002, (273), CA1469, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1469
尾城孝一. 学術雑誌の転換契約をめぐる動向. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1977, p. 10-15.
https://doi.org/10.11501/11509687