E2446 - 多様な死の対話の場と図書館

カレントアウェアネス-E

No.425 2021.11.25

 

 E2446

多様な死の対話の場と図書館

京都女子大学家政学部・ 吉川直人(よしかわなおと)

 

   死について語ることをためらう人は多い。死は,未知で不確定であり,恐怖や不安が付きまとう。死と生についての考え方の開示により周囲との軋轢等が生じることもある。

   進行する多死社会において,死に関わるさまざまな課題が浮き彫りになってきている。孤独死や孤立死の増加なども社会的課題となり,「もしものための話し合い」の実施は,自らの生を生ききるため,残された者,残される者のために必要だと言われるようになった。多くの人びとが死に直面することにより,看取りの場所,残された者へのケア,グリーフケア,遺産,葬儀など,死に関する課題が増加することが予想されている。また,2010年代に終活ブームが存在し,各自の死生観,生き方,逝き方を話すニーズから死の対話の場が必要とされた。エンディングノートの作成などは,死にかかわる個人的な実践として捉えることができるだろう。こうした状況において,話しにくい話題と言われている死について,カジュアルに語り合う場「デスカフェ」の試みが進んでいる。2011年に英国から広がりが加速したデスカフェが,日本の各地で多様な形態により開催されている。

   死の対話の場の必要性を感じたステークホルダーたちは,死を語る場を創造し,対話を通して,死のエピソードを共有する試みを始めている。それは,現代社会における死のコミュニティの再創造でもあり,あいまいでゆるやかな居場所となるコミュニティを想像/創造するための機会を与え合う場でもある。

   死の対話の場の特徴は,多様なニーズにあわせて柔軟に実践されていることである。たとえば,看護師,僧侶,福祉施設,葬儀社など主催者の専門性と死との関わりの違い,およびそこに集う人々のニーズの違いにより実施される。開催形式も多様である。対話のみの形態だけでなく,話題提供やワークショップも交えた多様な形態で実践が行われている。間口の広さにより,学びや探求,癒しなど様々なニーズを持った地域住民,医療従事者,福祉職等が集い,死を語るハードルを下げ,交流が行われる場として,新たなつながりが生まれる場となっている。

   英・イルフォードのレッドブリッジ中央図書館は,“death positive library”という取り組みを始めた。これは,死にまつわる本の展示や推薦だけではない。すべての人が当事者である死について,より率直に話すことが出来る場や土壌を築くことを目的としている。2018年から始まったこの試みは,文学,芸術,デザインを活用し,読書会,著者講演,映画上映,アートインスタレーション,デスカフェなどを図書館の場と機能を用いて行い,死について話すバリアを取り除く試みである。図書館が,死にまつわる諸問題を抱えた人々に対して,どのような資源を提供できるのかという問いに対する一つの答えとなる。コミュニティにおける安全で信頼できる場である図書館が,だれもが当事者であるが,困難な話題である死について学び,語る場を提供している。この試みは,“The Death Positive Libraries initiative”として,複数の図書館と研究者の協働により,英国の図書館において広まりを見せている。

   国内においても,図書館司書がデスカフェを主催するケースがある。死をテーマにした本を紹介しあい,浮かんだフレーズやキーワードを対話のテーマとする死の読書会や死をテーマとした絵本を読み込み,対話を行う形態もある。東京都の小金井市立図書館貫井北分室主催により2021年5月8日に行われた「『死』と『生』を絵本で語り合うデスカフェ」では,死を題材とした絵本読書会が行われた。絵本の絵と文章を丹念に読み込み,小グループで読み合わせ,場面ごとに感じたことや気づいたことを話し,絵本のストーリーから死の対話を展開していく対話形態である。

   国内外の公共図書館における以上の試みは,死をカジュアルに語る場として世界的に広がるデスカフェムーブメントが公的な場や機関でも開かれる動きと言える。多様性を有している死の対話が,公共図書館という知の集積の場で開かれることは,地域に新たな芽をはぐくむ可能性を秘めているのではないだろうか。

Ref:
death cafe.com.
https://deathcafe.com/
デスカフェポータル.
https://www.deathcafe.jp/
吉川直人. 国内のデスカフェの現状と可能性 : 多死社会を支えるつながりの場の構築. 京都女子大学生活福祉学科紀要. 2020, (15), p. 39-44.
http://hdl.handle.net/11173/2956
吉川直人, 萩原真由美.国内のデスカフェ発展過程とコミュニティとしての可能性. 京都女子大学生活福祉学科紀要. 2021, (16), p. 75-81.
http://hdl.handle.net/11173/3191
“Death positive libraries: A national framework”. Libraries Connected. 2021-06-24.
https://www.librariesconnected.org.uk/news/death-positive-libraries-national-framework
“Death Positive Libraries: An academic view”. Libraries Connected. 2021-08-12.
https://www.librariesconnected.org.uk/news/death-positive-libraries-academic-view
“UK libraries become ‘death positive’ with books and art on dying”. The Guardians. 2021-07-25.
https://www.theguardian.com/books/2021/jul/25/uk-libraries-become-death-positive-with-books-and-art-on-dying
“『死』と『生』を絵本で語り合うデスカフェ~多死社会を迎えて~”.小金井市貫井北センター.2021-05-07.
http://www.ntk-koganei.org/news_events/disp.php?ne_id=837